03 俺に豪邸は勿体ない
魔王の強さ、魔王の場所も分かり本当に俺の存在理由が分からなくなった。
するとマレンさんの隣を歩いていた水色フード美女が何かを思い出したかのような顔をし、振り返る。
「これはすみません。 自己紹介がまだでしたね、私の名前は『エリス・ルガニア』と申します。 よろしくお願いします」
「あっはい、よろしくお願いします」
急に来たな……けどエリス・ルガニア……。 そんなキャラ、ゲームに居たか?いやまあ、俺がマレンしか使ってなかったってのもあるかもしれないけど。まあいいか、どうせゲームなんだ。
そしてここは礼儀として、俺もしようか。
「俺の名は黒井蒼真!引きこもりだ! よろしく!」
俺のいきなりの自己紹介に二人は驚いたのか、目を見開いて硬直している。氷漬けにされたかのような静寂。
その静寂を破ったのはマレンさんの声だった。
「ふむ、ヒキコモリというのはなんだ?」
「そう、ですね……私も聞いたことがありませんね」
「え?」
引きこもりだよ?引きこもり……だらしない人間のさ……。
「すまぬが、説明してくれぬか?」
「い、いや絶対にやめときます……」
よくよく考えれば、この二人は引きこもりとはまるで真反対の存在。だから引きこもりを知らないのは納得……はできねぇよ!!
純粋なのか、はたまた馬鹿なのか……自分の世界の常識は一切通じないのがこのゲームである。
「そういえば、俺ってこれからどうなるんですか?」
「私の家に泊まらせてもよいが……」
「マレンさん、貴女の家は私の屋敷でしょ?」
「ああ、そういえばそうだな」
「いやそんなことある!?」
マレンさんがカッコよく「俺の家に泊まれ」と言ったイケメンに見えたがエリスさんの言葉によってその考えは一瞬にしてなくなり、むしろダサくなってしまった。
エリスさんの家にマレンさんが住んでいる、つまりはマレンさんの立場は言わば居候だ。
居候なのにさっき壁ぶっ刺さり刑してたの!? 家主に対してリスペクトっていうのはないのかよ!?
はあ、なんとなく先が思いやられる気がする……。
俺は頭痛ではない痛みの感覚を覚えながら二人の背中を追いかけた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
あれからどのくらい経ったのだろう、既に足が重く、肩が上がらない。
「これいつになったら着くんですか?」
「そうですね、あと五キロはあるかもしれません」
「まだそれほど歩いてなかろう」
「いやいや!もう"二十キロ"は歩いてるでしょ!? どんだけ遠いんですか家!!」
「おいエリス。 本当にコヤツで良かったのか?」
「ええ、適正はあったはずなんですが……」
「なんで……はぁ、俺は残念がられてるんだ?」
俺が必死に歯を食いしばって、背中も汗でいっぱいなのに対して二人の表情は平然とし、まるでマラソンランナーにも見えてくる。いや、むしろそれ以上なのかもしれない。
途端、マレンさんは呆れたように顔を振ってエリスさんと俺に手を差し出した。え、手繋ぐの?
「本当に仕方のないやつだ」
「まあ、マレンさんがするなら良いですか」
「え、え?何が始まるの?」
「しっかり掴まってろ、喋ると舌を噛むぞ」
「は?って、うぉぉぉぉぉぉ!?」
「やっぱりマレンさんはすごいですね~」
俺とエリスさんの手を握ったマレンさんは当たり前かのように足が地面から離れる。いや、おかしいだろ……ゲームでもそんな機能なかったのに。
「暴れるな、掴みづらい。死にたいのか?」
「んなわけねぇだろ!単純に怖えんだよ!!」
「これぐらい我慢してください。 はあ、本当に適正者なんですかね……」
「いやだから、その適正者ってのはなんなんだよ!!」
「スピード上げるぞ」
「……は? うぉぉぉぉぉ速!?」
「うるさいな…… 静かにできないのか?」
俺の体はさらに上空に行き、閃光と見間違える速度で横一線に移動し始めた。
「あばばばばば……」
俺の顔は風に抵抗できるわけもなく、ぐしゃりとゴムのように顔が変形する。人間ってこんな顔するんだな、改めて人体ってすげぇ……。
☆☆☆☆☆☆☆☆
そんな状態が続き、気付いたら十分が経ち、地面へと下ろされた。
そして俺の目に映った光景は……。
「着いたぞ」
「……は?え?」
「ふふふ、私の自慢の屋敷ですからね」
「屋敷……?なんかのスポーツ会場とかじゃなくて?」
「何を言ってるんですか? 私の自慢の屋敷に」
呆れたような目をするエリスさん。けど、当たり前だろ!ここ屋敷なんでしょ!?だったらなんで"サッカー会場"ぐらい広いんだよ!!
これ、柱だけで一軒家何個分だ……?
「まあとりあえず入るがいい」
「いやマレンさん、それ私のセリフ……」
俺はマレンさんに促され、屋敷?というか城に近い家に入った。
中に入ると想像以上の広さに言葉を失う。途端、ぞろぞろとメイド達が現れ、集合した。 ……メイドまで?って、全員同じ顔だ……。
「「「「「おかえりなさいませ、マレン様」」」」」
一つ一つ丁寧な仕草で礼をするメイド五人。
「ああ、ただいまだ」
「あの〜私にはないんですか?」
「私達の命は、」
「マレン様に、」
「救ってもらい、」
「ましたので、」
「優先順位が違います」
「いや、雇ってるのは私なんですけどね……」
いや俺にも挨拶ないの?
そして、一人のメイドが口を開く。
「それよりマレン様、後ろの男性は?」
「ああ、コヤツはクロイ・ソウマ。 適正者なんだが、使いものにならん」
「ひどくない!?」
「マレン様が言うなら……」
メイド五人が俺の前に並び、一人一人が口を開く。
「使い、」
「ものに、」
「ならない、」
「人さん、」
「ようこそおいでくださいました」
「そのコンビネーションはなんなの!?」
……やばい、マレンさんとエリスさんと言い。 このメイド達も大変そう……。
この大きな屋敷で俺は一人、頭を抱え続けるのだった。




