34 苦労人とお出かけ③
お昼を終えて、エリスさんが当たり前かのように俺の手を繋ぎながら歩いている。 俺はもうツッコまない。
その時、エリスさんが口を開く。
「ソウマさん、今日のデートのゴールはどうします?」
「……ゴール」
正直、今までデートという経験をまったくしてこなかった俺からすればデートの仕方はもちろん、ゴールも知らない。
ただ、知ってるのは……ホテル……。いや、絶対違う!?何を考えてるんだ俺は。
俺は即刻、自分の凡庸な考えを捨て、再び考える。
デートのゴール……。 キスとか、か? だけどそれは恋人同士がするものか……。
するとエリスさんが顔を赤くし、モジモジしながら口を開く。
「あ、あの……デートのゴールはキスって聞いたことあるんですけど……」
「実は俺も……」
「ほ、本当にしちゃうんですか?」
「別に俺とエリスさんはそんな関係じゃないですよ!?」
「そ、そそ、そうですよね!?」
俺達はお互いに顔を赤くしながら否定をブツブツと繰り返す。俺達以外に誰もいないはずなのに。
――その後、俺はすぐに落ち着いた。
何故なら、エリスさんの顔が一向に冷めないから、むしろさっきよりも熱が上がっているようにも見える。 人間はよく、自分より焦っている人間を見ると落ち着くというのは本当なのだ。
エリスさんはよほどキスの想像が効いたのだろう、顔から火が吹くほどに慌てている。
「あ、あわわ……」
「エ、エリスさん!落ち着いてください」
「む、無理ですよ! こ、この気持ちどうすれば……」
「とりあえず水でも飲んでください」
「は、はい……」
俺は事前に持ってきた水筒を取り出し、座らせながら水を淹れてエリスさんに渡す。 その水を飲み終えたエリスさんはやっと落ち着いたらしく、顔の熱も冷めてきた。
そして、エリスさんは立ち上がり、俺に向かって頭を下げる。
「す、すみません、お見苦しいところを……」
「いえいえ、大丈夫ですよ。俺も慌てたのでお互い様です」
「そ、そうですかね?」
「そうですよ、だから安心してください」
「はい、わかりました……」
「じゃあデートを続けましょうか」
「は、はい……!」
そのまま俺は流れるようにエリスさんの前に手を差し出し、エリスさんは俺の手を取って立ち上がる。
あれ?なんか俺がリードしてるみたいになったな……。
そんな俺達の様子を見ている影二つあった。
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「お、おい……」
「なに、マレン?」
「これ、本当に大丈夫なんだよな?」
「大丈夫、大丈夫」
「お前の提案は嫌なんだよ、鬼娘」
「ノリノリだったじゃん」
「黙れ!」
「うわぁー怖ーそんなんだとご主人様に嫌われるよ?」
「え、そ、そうなのか?」
遠くから覗いたのはマレンとアンヘル。
「あっ、動いた!」
「お前は声がうるさい!」
「とにかく! 移動したから、私達も動くよ!」
「なんで私がこんなことを……」
マレンは嫌がる素振りを見せながらもアンヘルの言うことを聞いて動く、それほど本能が気になっているようだ。
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どうにかしてエリスさんを落ち着かせた俺は勢いに乗って、手を繋ぎながら歩いている。
繋いだ瞬間俺はまずいと思い、すぐに離そうとしたがエリスさんの手が強く握られたので離すという判断はやめた。
「ソウマさん、お腹も膨れたところですし食後の運動はいかがですか?」
「良いですね、ですがこの辺りに運動できる場所などあるんですか?」
「えぇ、あそこです!」
「え?」
エリスさんが指の差す方を辿っていくとそこにはジムのような場所があった。 え? 食後の運動だよね、あれ圧倒的にボディビルダーが居そうな場所なんだけど……。
「では、行きましょう」
「あっちょ……!」
そんなことを考えていると、俺はそのままエリスさんに引っ張られ、ジムのような場所に着いた。
「エリスさん、食後の運動なんですよね?」
「えぇ、そうですよ?」
「なんでこんなボディビルダーが居そうなジムに?」
「ぼでぃびるだーって、なんですか?」
「この世界はボディビルダーもないのかよ!?」
「いいから、行きましょう!」
「え、ちょっ無視!?」
俺の話を一切聞かずのエリスさんに引っ張られて入店。
――すると。
「え?」
「今日はどれをしましょうか」
「……」
細!? ここジムだよね?それに女性しかいない……。
俺が想像していたものとは違い、ムキムキの男性はおらずマレンやエリスさんのように細い女性しかいなかった。
だが、看板を見ると「男女、大歓迎!」と書かれるため別に女性専用という訳でもないらしい。
すると奥から出てきた店員が俺の横を横切り、エリスさんに近付く店員。
「いらっしゃいませエリス様!」
「すみません、二人いけますでしょうか?」
「もちろん!エリス様でしたら、いつでも何人でも!」
エリスさんの来店にものすごく興奮している店員を見て、引いてしまう俺。
いや仕方ないよ、この人めっちゃ目がキラキラしてるもん。
そしてしばらく経ち、店員が何かを思い出したかのように俺の方を向き、なぜか驚く。
「……誰ですか?」
「何を聞いてたんですか!?」
「もしかして、エリス様のお連れ様ですか?」
「そう言ってるでしょ!?」
「いえ、いつも通りマレン様かと……」
「マレンも来てるのかよ……」
俺はもう呆れて声が出ない。いや、まぁなんとなく予想を着いたが。 やはりマレンもあのパワーだと思うと納得せざる得ない。
だが、あの人外なパワーをこのジムだけで出せるかは分からないが。
「それよりエリス様、そちらの方は?」
「こちらはクロイ・ソウマさんです。私の……大切な人です」
「!?」
俺はエリスさんに大切な人と言われて顔が熱くなるのを自覚しながらも、すぐさま顔を振って冷めさせる。 その様子を見た店員は何かを察したのかぎごちない笑みをかけながら通してくれた。
どんだけ嫌なんだよ……。
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小一時間ぐらいが経ち、俺もジムに慣れた頃。結論から言おう『キツすぎる!?』。
なにこれ、重すぎるだろ!? なんでこれより重いのをエリスさんは軽々と持ち上げてるんだよ!?
正確には重さは分からないが、俺は二十キロぐらいで音を上げたが、エリスさんはおそらく八十以上を「アップです」と言いながら持ち上げている。食後の運動はどこに行ったのだろうか。
「あーヤバい、きつい……」
「ふん! もっと頑張ってくださいソウマさん!」
「俺より重いのを持ち上げてる人に言われても……」
エリスさんは楽しそうにバーベルを持ち上げてる中、俺達が知らないうちにジムは密かに盛り上がっていた。
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「ふん! やっぱり余裕だな」
「そうだね!」
蒼真らの跡をつけて来たマレンとアンヘルはジムを楽しんでいた。
「マレン様はいつも通り流石ですが、アンヘル様もすごいですね!」
「もちろんだ」
「もっと重いの頂戴!」
店員に褒め称えられる二人、彼女達が持ち上げている重さは約五百キロを優に越している。それなのに二人は「もっと重いの」と注文するため、店員は困惑せざる得ない。
「マレン様は強くなりましたね」
「うむ、特訓したからな」
マレンは過去の魔王幹部との闘いで相手にスピードで劣ってから悔しくて特訓を始めた結果、とんでもない速度で成長した。
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その後も二人は筋トレを続け、蒼真とエリスが出ていくのを気付かないまま二時間もジムを満喫したというのはここだけの秘密だ。




