32 苦労人とお出かけ①
――ある夜、皆が寝静まった時間に俺は一人、机に向かっていた。
「よし、できた!」
ある物を書き終え、目の前にかかげる。
そのある物というのは――。
「今日も日記かけたぞ」
そう、日記だ。 日記はこの前、三日坊主になったと言ったが最近思ったことがあった。
それは毎日書くのではなく、印象に残った日のことを書けば継続ができるのではないかと、実際をそれ試した結果。 前まで三ページほどだったのが今では十ページを軽く超えている。これは俺にとって、大きな進歩だ。
日記を読み返すと色々なことが書かれている。 リンダーとの出会い、俺が執事をした日、オーロとマレンが二人でつまみ食いをしている日常のことなど、色々書いてある。
俺がこの世界に来てからもう半年以上経つのかと余韻と浸っていると、ノック音が部屋に響く。
「? はい、どうぞ」
俺はこんな遅くに誰かと不思議に思いながらも「はい」っと応える。そんな俺の声を聞いたのかすぐに扉が開き、中に入ってきたのは予想外の人物だった。
銀髪のセミロング、黒いはずなのに美しく見える黒目。こんなのは一人しかいない。
「エリスさん? どうしたんですか?」
「すみません、夜分遅くに」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。 実は明日でもよかったんですが、偶然ここを通ったら明かりがついていたので来ました」
「なるほど……では、その明日でもよかったってのはなんでしょうか?」
もう寝るつもりだったのだろう、エリスさんはパジャマ姿だ。だけど、明日言うつもりのことを俺が起きていることに気付き、丁度いいということで俺に伝えかったという。
「……ソウマさん」
「はい?」
「この前、約束したの覚えていますか?」
「この前……?」
この前というのはアンと遊びのときの条件というやつだろうか?
---
「良い機会ではありませんか、ですが一つ条件があります」
「条件?」
「はい、少し耳を貸してください」
「えぇ?はい」
俺はエリスさんに言われた通りに耳を貸す。
「えっと、今度私とお出かけに行きませんか?」
「え? それでいいんですか?」
「えぇ、私がそうしたいだけです」
「エリスさんが良いんなら、いいですけど」
「ふふ、本当ですか? ありがとうございます」
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おそらく、この時のことだろう。
「もしかしなくても、この前のお出かけのやつですか?」
「えぇそうです、覚えてくれてたんですね」
「もちろん」
「明日……いいですか?」
「エリスさんさえ、よかったら」
「ありがとうございます、では明日行きましょう」
「はい」
☆☆☆☆☆☆☆☆
朝を迎えた。それはとても楽しみな朝だった。
俺は今日、始めて両者公認のデートをするのだから。
「おはようございます」
「ソウマさん、おはようございます」
「……」
「どうか、しましたか?」
「い、いえ!?」
昨晩のことがあり、俺はついエリスさんの方を横目で見てしまう。 だけど、どうやらソワソワしているのは俺だけらしく、エリスさんは特にソワソワしている様子はない。
もしかしたらエリスさんにとっては本当にただのお出かけなのかもしれないと思い、俺は焦りを隠せずにいる。
まさかの勘違い!? 恥ずかしい……。
その後もエリスさんは何事もなく朝食を終え、俺に「では一時間後にここで」っと言い残し、自分の書斎室に入って行った。
その様子を見届けた俺は首を傾げながらも一時間後のために自室に戻る。
--- 一時間後 ---
約束の時間となり、俺は男らしく五分前に着こうと集合場所に向かっていると、ある一つの人影が見えた。
「あっ、ソウマさん」
「は、早いですね、エリスさん……」
「えっと、仕事の癖が……」
「なるほどですね」
エリスさんらしいと思っているとエリスさんが突然、俺の前に来て自分の姿を見せる。
「それよりも、どうですか? 私の格好」
「それはもう……」
エリスさんのコーデは派手過ぎず、地味過ぎずというザ・エリスさんのような格好だった。 ただ、よく見ると耳には普段着けないピアスが着けられており、お洒落をエリスさんにしている様子だ。
それに比べて、俺はどうだ?
黒いズボンに黒いシャツ。耳にはもちろんピアスはなく、お洒落したと言えば髪のセットぐらい。
――釣り合ってるのか?
そんな言葉が頭をよぎり、一気に不安になる。
「エリスさん俺、こんな格好で大丈夫ですかね?」
「えぇ大丈夫ですよ、私はその服も好きですから」
「そ、そうですか……」
俺の言葉を聞いたエリスさんは少し微笑んだ後、俺の前に手を差し出し、こう言った。
「では、行きますよ。私が初めての"デート"へ」
「!?」
「ふふ、いい顔しますね」
☆☆☆☆☆☆☆☆
しばらく経ち、街に着いた。
最初は十キロ程度歩くのかと思っていたのだが、エリスさんの魔法で街までテレポート?をして、あっさりと着いた。
「便利ですね、この世界の魔法って」
「えぇ正直言って、何でもできますからね」
「まさかテレポートもできるなんて……」
「瞬間移動も便利な魔法の内の一つですからね」
「俺もできますかね……?」
「えっと……、正直望みは薄いかと……」
「ですよね、分かってます……」
俺も最初の頃、この世界に召喚されたぐらいの頃では魔法を使えると勘違いし、必死に詠唱や無詠唱を頑張ったが出る気配など微塵もなく、諦めたのを覚えている。
そんなことより、この状況はなんだ?
「あ、あのエリスさん?」
「どうかしましたか?」
「どうかしましたかではありません、なんで俺の手を握ってるんですか?」
「え、何かダメですか?」
「だ、ダメってことはないんですが……」
「なら、問題ないですよね?」
「は、はい……」
瞬間移動をしたときから、エリスさんはずっと俺の手を握っている。 手汗大丈夫かな……濡れてない、俺?
そんな俺の考えを遮るかのようにエリスさんが言葉を言う。
「ソウマさん、緊張してますか?」
「正直、はい……」
「大丈夫ですよ、私もしてますから」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ、本当ですよ。 確認しますか?」
「それって、どうい――?」
俺の言葉を言い切る前にエリスさんは俺の手を掴み、己の胸へと近付けさせたと思い、焦ったが正確には肋骨の隙間のような場所に当たれられた。
正直分からない。鼓動が分からない……。
するとしばらく経ち、エリスさんは俺の手を離して微笑みながらこう言った。
「ドキドキしましたか? 本当に確認するのはまた今度ってことで……」
「!?」
「顔が赤いですよ、ソウマさん」
「エ、エリスさんのせいです!?」
そして、エリスさんは「ふふ」と微笑みながら何事もなかったかのように、再び俺の手を握り直して歩みを進める。
--- エリス視点 ---
ふふ、今日はソウマさんとデートです! ですが、分かっていますか?エリス・ルガニア。
デートはデートでも、余裕のある大人を振る舞うのです。そうすればソウマさんからより、関係を深められるはずです!
そんな考えでエリスはデートを開始し、あっさりと手を握るところまで成功しました。
だけど、実際は――。
(わ、私あっさりと握ってしまいましたけど、こっからどうすれば! だ、大丈夫です!余裕のある大人、余裕のある大人……)
そう頭の中で呟きながら次の言葉を考えていると私はふと、一つのことに気付きました。
ソウマさんを見ると少し息が上がっていて、手も小刻みに震えています。明らかにソウマさんは緊張していました。
そんな様子を見た私は心の中でニヤっと笑ってしまいました。
「ソウマさん、緊張してますか?」
「正直、はい……」
「大丈夫ですよ、私もしてますから」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ、本当ですよ。 確認しますか?」
「それって、どうい――?」
その時私は自分でも信じられない行動を取ってしまいました。
(はわわ!? 私、咄嗟に……)
私は何を思ったのかソウマさんの手を取り、自分の胸へと近付けてしまいました。幸い、私は肋骨当たりを近付けたので大事にはいたりませんでしたが……。
ですが、これで分かります。私はこのデートを楽しんでるみたいですね、人生初めてだからじゃない。 ソウマさんだから。
(これは困りましたね、もっと好きになってしまいます)
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そうして、しばらく歩いているとエリスさんが突然、ある一つの店を指しながら叫ぶように喋る。
「ソウマさんソウマさん!」
「ど、どうしました?」
「あのお肉美味しそうじゃないですか?」
「確かに、そうですね」
「一緒に食べませんか?」
「えぇ、もちろん」
俺が賛成するとエリスさんはバッグから財布を取り出し、中身を開ける。
決して覗く、覗くつもりはなかったのだが、チラッと中身が見え、俺が驚愕した。
金貨しかねぇ!?
エリスさんの財布には銅貨、銀貨はなく、金貨しか入っていなかった。見た感じ、おそらく三十枚は優に越している。
流石はあの屋敷を自分で買い、仕事を掛け持ちしてる人だ……。 俺は改めてエリスさんの凄さを実感した。
「す、すごいですねエリスさん……」
「え? 何がですか?」
「その金貨の枚数……」
「あぁ、これですか? これでも足りないんですよ……」
「え?そうなんですか?」
この世界って、俺の世界の税金みたいなのってあるのか? そんな俺の考えは次のエリスさんの言葉にすべて納得してしまった。
「はい、マレンさんとアンヘルさんの食費で……」
「あぁ、なるほど……」
もうその言葉だけですべてを悟ってしまった。この前、ローホと一緒に買い物に行ったが二人の分だけで、とんでもない量になって驚いたのを覚えている。
そんなことを考えている間にエリスさんは先にお店の肉を買い、俺の隣まで戻ってきた。
「はい、どうぞ!」
「ありがとうございます」
「美味しいですね」
なんかエリスさん、テンション高いな……。
こうして俺はなぜかテンションが高いエリスさんとのデートを楽しむこととなった。




