25 苦労人に癒しを
今日はなんというか、平和過ぎる……。
そんなことを考えながらエリスさんの書斎室を通り過ぎようとした瞬間、中からドサッという音が聞こえた。
俺は慌てて書斎室を開けると、そこにはうつ伏せで倒れているエリスさんがいた。
「エ、エリスさん!? しっかりしてください!?」
「うぁ……し、ごとが……」
「どんだけ仕事してたんですか貴女は!?」
「今、日は……徹夜で、まだ二十時間です……」
「既に人間離れしてますよ!?」
「まだ……です……」
「エリスさん? エリスさん!?」
エリスさんは明らかに限界を迎え、最後まで仕事を言ったまま意識を手放した。
俺は介抱の知識なんて分からないが、なんとなくの感覚でエリスさんをとりあえずベッドに寝かす。 そして俺はさらなる衝撃的な事実を知った、それは――。
「なんでエリスさんの書斎にはベッドがないんだ?」
そう、エリスさんの書斎室にはベッドがなかった。 なんか毛布一つはあったが、ベッドがどこにも見当たらなかったので、とりあえず俺のベッドに寝かせることにした。
エリスさんのことを抱っこ……言わばお姫様抱っこをしたのだが、恐ろしく軽かったエリスさんのおかげで思ったより速く動かせることができた。
「こういう時って、誰にお願いしたらいいんだ?」
マレンは絶対無理だし……アンも論外。 できるのはオーロかルプラ、か……。
俺は早速、思いついた二人を呼びに行く。 部屋を出て、食卓に向かっているとローホに出会ったので聞いてみることにする。
「ローホ、オーロかルプラは呼んでくれない?」
「オーロとルプラですか? そうですね……確かあの二人は今日、用事があって出かけてますね」
「そうか……」
なんでこういうときに限って……。
「どうかしたんですか?」
「実は……」
俺はローホに今のエリスさんの状態を説明し、どうするかとお互いに考える。
ローホは険しい顔をしながら、何か思いついた顔で俺にこう言った。
「エリスさんの看病はソウマさん、貴方がやってくれませんか?」
「え?」
「もちろん、ある程度の看病は私も、他のメイドもできます。 ですが、私はソウマさんの方が良いと思うんです」
「そ、そう?」
「はい!」
俺はローホの助言を受け、エリスさんの看病をすることになった。
まあ実際、最初に見つけたのは俺なんだし、それなりの責任があるというローホの考えなのかもしれない。
「エリスさんも大変なんだよな、たまには週一以外の休みも必要なのかもな」
俺はエリスさんに水枕を当てながら、ただその寝顔を見つめていた。
……こういう時って、何をしたらいいんだ?まだ起きてないからお粥とかは早いし……。 って、ん?
俺がどうしたらいいのか分からないでいると、エリスさんの手が何かを求むように動き始めた。
それは何か掴みたい、いや握りたそうにしている。
これって……恋愛漫画みたいなシチュエーション。いやいや!俺は何を考えているんだ!流石にそんなこと……。
「……ごく」
俺は結局、固唾を飲みながら寂しそうにしていたエリスさんの手を握る。
☆☆☆☆☆☆☆☆
どれぐらい時間が経ったのだろうか、蒼真は気付いた時には寝てしまっていた。
「ん……あれ、私は?……え?」
その時、エリスは起き、自分の状況を見てフリーズする。
(なんで、ここは……ソウマさん部屋ですよね?それになんで、ソウマさんは私の手を……)
エリスは蒼真に手を握られていることに気付き、焦り、すぐさま手を離そうとしたが、エリスは手を止めた。
(ここ手間離せば、私とソウマさんの時間がなくなります……。そんなのは嫌ですね、私が頑張ってるんですから、たまにはちょっとくらい欲張っても良いですよね)
「ふふ、ソウマさんの手は温かいですね……」
エリスは少し、本当にほんの少しだけ、手を強く握り返す。 その時のエリスの顔はまるで、仏のように優しい笑みを浮かべていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「んぁ? やべ、寝てた」
しばらく経って起きた俺は時計を見ると夕方近くの時間になっており、慌てた俺はすぐさまエリスさんを寝かせていたベッドを見ると、そこにはエリスさんがいなかった。
俺は慌てて部屋を出て、エリスさんを探すと、書斎室に明かりが付いていることに俺は気付く。 俺はまさかと思い、書斎室の扉を開けると。
「ソウマさん? 起きたんですね、おはようございます……いえもう、こんばんはですかね」
「こんばんはじゃないですよ、もう大丈夫なんですか?」
「えぇ、久しぶりにあんなに眠れました。ありがとうございます」
「貴女はどんだけ仕事してるんですか……」
「まだ今月は先月よりかは少ないですよ?」
「……」
あんな倒れそうになったのに、まだ先月より楽って……毎月どんな量なの!?
俺に感謝を言うエリスさんに呆れながらも、俺は心の中である決心をしてエリスさんの横に座る。
その俺の行動にキョトンとするエリスさんに俺は口を開く。
「仕事人のエリスさんは止めても無駄だと思うので、俺はここで見張ることにします」
「見張り、ですか?」
「はい、もちろん仕事は続けても良いですよ。 ですが、エリスさんにちょっとでも危険や異変があったら俺のベッドに寝かせますので」
「……はい、分かりました」
一瞬だけ言葉に詰まったエリスだが、すぐに笑みを浮かべながら承諾し、仕事を続ける。 その仕事する手はいつもより捗っている。
仕事をするエリスの心はこう思っていた。
(今、倒れたフリでもしたら、またソウマさんは私の寝かして、手を握ってくれるんでしょうか? そうだと、嬉しいですね……)
エリスの蒼真への気持ちは高まっていたのだった。




