20 赤髪のメイド
ヴェルさんからの敬語禁止令を出されて数日後。 今日は赤髪メイドのローホの仕事を手伝おうかな。仕事とかあるのか分からないが……。
「あっソウマさん、何か用事ですか?」
「えっと、ローホは今何してるのかな?」
「あっ、えっと今はオーロの代わりに買い出しにと……」
まだ少しタメ口には抵抗があるが、徐々に敬語はなくなってるのが自分でも分かる。
俺のタメ口を聞いたローホはまだ慣れてないのか、少し照れながらも応えてくれた。
「じゃあ着いて行ってもいいかな?」
「は、はい! もちろん!」
「ふふ、ありがと」
俺は一旦、ローホと別れ、身支度をする。
買い出しとは言え、デートと言えばデート……だよな?デートはいつもマレンと行くけど……。マレン相手だからいつも適当だけど、ローホ相手だと少し違う。
俺は自分の部屋に戻り、クローゼットを開ける。 そこで問題が発生した。
「黒、黒、黒黒……黒しかないな……」
俺の服は黒色しかない。流石に陰キャ過ぎるよな……。まあ、こうなった場合、仕方ない。
こうして俺は黒服を着ることを余儀なくされ、素早く着替えて屋敷の玄関で待つことにした。
「すみません、お待たせしましたか?」
「ううん、全然待ってないよ」
「ふふ、では行きましょうか」
「あぁ」
最近、メイド達と関わることが多い気がする、これは大きい進歩だ。 関係値を進めていて、損することは大体ない。ローホを見る限り俺のことを嫌いという訳でもなさそうだし。
そしてしばらく歩いていると、ローホはなにやら険しい表情で俺に方を向き、口を開く。
「ソウマさんって、元の世界にいつ戻るんですか?」
「……元の世界」
「はい、元の世界です」
元の世界か……考えたこともなかった。エリスさんの話ではおそらく、いつでも戻れるんだろう。だけど、正直戻りたくはないな。
「戻る気はないよ、俺にとってこの世界は元の世界より居心地がいいからさ」
「そ、そうですか……」
俺が元の世界に戻らないと伝えると、ローホは安心したかのように胸をそっと、なで下ろした。
元の世界に俺は未練なんてものはない。学校に行って、勉強をして、ゲームをするだけの一日。だけど、この世界はどうだ? メイドが五人居り、自分に従えるという鬼が居り、誰にでも優しい人が居り、圧倒的美人が居る。
ははは……選択肢は一択だな。
「あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
「わ、私達メイドって、その……恋愛対象とかに、入りますか……? べ、別に変な意味ではないんですけど!」
「絶対になる!!」
俺は自分でも驚くほどの即答をかましてしまった。
「ほ、本当ですか!?」
「う、うん……」
「ありがとうございます!」
興奮気味ながらも、お辞儀は流石メイドと言うべきか、丁寧な作法で腰を折るローホ。
そして顔を上げたローホは俺の手を掴み、微笑みながら少しだけ歩みの速度を上げた。
数十分程度で街に着き、ローホが懐からある紙を取り出す。おそらくお買い物メモだろう。
「今日の夜ご飯はなんなの?」
「えっと、今日は生姜焼きと聞いています」
俺はその単語を聞いた瞬間、心の中でガッツポーズを決める。 男なら誰もが喜ぶおかず生姜焼き!! ご飯との相性は百点満点中二百点だ!! あっ、けど、マレンとアンがいるんだった……。
俺が頭の中で色んな想像を働かせてるうちに、二人の存在を思い出し、おかわりという言葉を諦めた。
そんな中、俺はふとローホが持ってきたカゴを見ると頭がフリーズした。
「ローホ? なにその肉の量……」
「え? マレン様のとアンさんのと他多数の分ですね」
「それで何日分?」
「約二日ぐらいでしょうか?」
現在ローホは持つカゴには溢れるほどにある肉、何キロあるんだ?
そしてあれが二日分、改めてマレンとアンのヤバさを感じた気がする……。
「エリスさん、いつもご苦労さまです……」
俺は気付いたら、そこにいるはずもないエリスさんに感謝を伝えてしまった。 そして、俺達は買い物を再開する。
次々に、野菜や肉を入れ、カゴがどんどんと重くなる。
「それって、本当に大体がアンとマレンなんですか?」
「あー……あと一人、オーロの分ですね……」
「オーロ……?」
オーロってそんなに食べるのか……あっ、そういえば。
約数ヶ月前、俺は偶然朝早く起きたとき、キッチンから明かりが見えて覗いたら、冷蔵庫の中身をつまみ食いしている者が居た気がする。 あの頃はマレンとオーロの見分けがつかなかったから、マレンだと思ってたんだが、オーロだったときの衝撃は今でも覚えてる。
「オーロって、よく食べるの?」
「えぇ、私たち五つ子の中では一番食べますね」
「へぇ……そうなんだ……」
今度オーロとご飯を食べに行くのもありだな、多分マレンほどじゃないから楽だし。
「で、それお金足りるの?」
「幸い足りますね、エリスさんのおかげです」
「苦労人過ぎるよ……エリスさん……」
「最近、また仕事増やしたみたいですからね」
お願いだからエリスさんはせめて週休二日にしてあげて、あの人休み一日でしょ……?
エリスさんの衝撃的な真実が新たに聞き、俺はもう呆れていいのか、心配していいのか分からなくなってきている。 今も仕事してるんだろうか……。
それにしても……。
「ローホ、重くない?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「片方持つよ?」
「大丈夫ですか?ソウマさん」
「ふふ、これでも男だよって……重!? こんなに重いの!?」
俺は男らしく、せめてカゴの片方を持とうとした瞬間、想像以上の重さで瞬時にカゴが大きな音を立てながら落下する。
指切れるかと思った……。
「ふふ、だから言ったんですよ」
「いや……男としてほら、カッコつけたいじゃん?」
「そんなことしなくても、ソウマさんはいつもかっこいいですよ」
「え?」
「なにしてるんですか、早く行きますよ」
「あっ、う、うん……」
さりげなく褒められ、俺は思わずドキッとしてまったが、ローホにとっては特にあまりそこまで思っていなかったのだろう。
そんなことを考えていた蒼真だが、ローホは先ほどの言葉を言った瞬間に顔を逸らしていた。 少しだけ自分の顔が熱くなってるのを感じながら。




