19 緑髪のメイド
現在俺は絶対に負けられない戦いを繰り広げている。
「ソウマ、このデザートは私のだ!」
「いや、俺のだ!」
昼食後のデザートの二つ目をかけたジャンケンを開始しようとしている。 これぐらいジャンケンで盛り上がるのはいつぶりぐらいだろうか?小学生ぶりか?
そんなのはどうでもいい、この戦いは絶対に負けられない!
「「最初はグー!」」
「「ジャンケン!!」」
「「ぽん!!」」
結果から言おう、俺は負けた。
その横でなぜかエリスさんが笑っている。
「これは無謀な挑戦でしたね、ソウマさん」
「ど、どういうことですか……?」
「ソウマさんとマレンさんの動体視力だったら勝ち目なんかありませんからね」
「あー! 貴様、食べるな!それは私のだ!!」
「取った者勝ちー」
なにやら隣がうるさいが、気のせいだろう。 それよりもエリスさんの話が気になる。
「えっと、先ほどの話は?」
「えぇ、マレンさんの動体視力は人間のそれではありません。 なので、マレンさんから見た景色は全てスローモーションです」
「え? それを言われても、あまり実感が……」
「ふふ、そうですよね」
すると、突然エリスさんは立ち上がり、喧嘩する二人の間に入る。
「はいはい、二人共落ち着いてください」
「エリス!そいつは私の……!」
その言葉を遮るようにエリスさんの拳がマレンの額へと飛ばされる。 そしてそれを首をひょいと傾けて避けるマレン。
「ありがとうございます、続けていいですよ」
「あ、あぁ……」
「いや、止めてくださいよ」
たまにエリスさんってこういう所あるよな……。
「止めないんですか?」
「止めても無駄なので」
「まあ確かに……」
エリスさんは俺に笑みを返した後、昼食に戻った。
午後になり、ヴェルさんが庭の手入れをするらしいので、俺もついていくことにした。 仕事をあまりしないメイドの仕事を。
「あっソウマさん!」
「庭の手入れですよね?ヴェルさん」
「はい!」
「では、俺も手伝いますよ」
「ありがとうございます!」
ヴェルさんは庭の倉庫に向かい、ジョウロとお年寄りがよく使うデカいハサミのような物を持ってきた。 あれの正式名称ってなんなの?
すると、ヴェルさんは俺にジョウロの方を渡してきた。
「ソウマさんは私が切った後の場所をジョウロで水をあげてください」
「はい、わかりました」
軽い説明を受けた後、ヴェルさんは次々に屋敷の草を刈っていく。そして、その後ろで俺がジョウロで水を与えていく。
これって、いいのかな?すぐ草が戻ってだめな気がするけど……。
そんな俺の疑問を感じ取ったのか、ヴェルさんは微笑みながら説明をしてくれる。
「大丈夫ですよ、ここら辺は一旦魔法をかけて一時的に成長を止めるので、ですから成長するのは約数ヶ月後になるんですよ」
「あぁ……なるほど、じゃあ草刈りとかも魔法できるんじゃ……」
「ふふ、ソウマさん?」
「はい?」
「全部全部魔法に頼ってたらダメなんですよ、特には自分から動くってのがいいことなんですよ」
「なるほど……」
確かに、言われてみればそうだな。 自分からやることで気持ちのリフレッシュとか、運動になる。これは一本取られたな。
「ソウマさん、これが終わったら一緒にお茶しません?」
「え? ヴェルさんがいいなら……」
「ふふ、では終わった後、私の部屋に来てください」
「は、はい」
その後、水やりは数分ぐらいで終わり、ヴェルさんの言う通りにヴェルさんの部屋に行った。
部屋に着き、俺は扉をノックする。
「どうぞ!」
「失礼します。 本当にいいんですか?」
「ソウマさんなら大歓迎ですよ! さぁさぁ、お茶淹れてますよ」
「ありがとうございます」
俺は席に促され、座るとヴェルさんはすごい手際の良さで皿を並べ、奥からお菓子を取り出して皿に置く。 ここまで約三十秒……。恐ろしく早い。
そしてヴェルさんは頬杖をつきながらお菓子を堪能している。
「完全にプライベートですね……」
「まあそうですよ」
「他に、ほら、何かすることはないんですか?」
「大抵のことはオーロかルプラですからね〜やることがないんです」
「まあ、確かにそうですね……」
「そういえばソウマさん!!」
「うぉ……どうしましたか?」
突然、ヴェルさんが叫ぶような大声を出し、驚いた。 いつもうるさいけど。
「なんで私達に敬語使うんですか?」
「え?」
「え? じゃないですよ、なんでメイドの私達に敬語使うんですかって聞いてるんですよ!」
「なんでって……」
真剣な表情で告げられた言葉は、予想などしていなかったものだった。その言葉の意味が分からず、俺は首を傾げる。
なんでって……そりゃあ今まで言われたこともなかったし、一応居候してる身だし……。
「まず、そんな関係でしたっけ?」
「それは酷くないですか!?」
「ですが……」
「良いですか! これから私達メイドには敬語禁止です!」
「他の人達は……」
「既に承諾というか、全員満場一致で敬語を無くせとのことです」
突然申告される敬語禁止令。 俺としてはまったく問題がない、ないのだが……やはり少し抵抗というものがある。
「ちなみに断るとオーロに伝えてご飯抜きにしますよ?」
「本当にメイドがすること!?」
「ふふ、手段なんていくらでもあるんですよ」
くっ……手強い……。 はあ、今回は諦めるしかなさそうだな。
「わかりましたよ、今後一切、敬語使いません」
「本当ですか!?」
「えぇ……いや、うん」
「ふふ、これは大ニュース大ニュース!」
何度も「大ニュース」と口で繰り返しながら、部屋を出ていくヴェルさん、いや、ヴェルの背中を見ながら俺はお菓子をつまんでいた。
子供かよ……。




