18 働き者
アンに布団に入られ、俺はもう諦め、眠りについた後の朝。
「……」
「うむにゅ……」
コイツ、結局俺が寝てる間も離れなかったのか。あと普通に離して、マレンぐらいに力強いから……。
「ソウマ! ご飯だ、ぞ……?」
「あっ……」
「みにゅ……」
俺がこの状況の打開策を考えていると最悪とも言えるタイミングにマレンがご飯の時間だと伝えに来たが、俺達の状況を見てフリーズした。
ここは南極だったっけ?それぐらい今、寒いんだけど……。
「……ソウマ?」
「は、はい!」
「なに、やってるのかな?」
「俺は悪くないんです……」
「へぇー?」
「本当に悪くないんです……。 だから頭にある手をどけてください……」
口から勝手に敬語が出てしまう。本能が今すぐ逃げろと身体に危険信号を出している。 こんな危険な状況でもアンはまだ眠っている。
「ソウマ? 言い残すことは?」
「俺のせいではないんです……」
そして、明らか人体からは鳴ってはいけない音鳴ってるよ。 ミシミシ言ってるよ。
ありがとう、この世界……。
無事、俺の頭は卵のように握り潰されそうになった後、マレンの「次はない」という鬼より鬼のような顔をして宣告された。 その言葉に俺は全力で顔を上下に振った。
「痛い……」
「おはようございますソウマさん」
「あぁ……おはようございます」
俺はいつものメイド達に挨拶をしながら、ふと思ったことがある。それは――。
いつも何してるんだ?
これだ、いつも仕事してるというのはわかるが、これと言って、仕事してる所を見たことがない。
「すみません」
「はい、どうしましたか?」
「いつも仕事って何してるんですか?」
「「「「「……」」」」」
俺の言葉と共にメイド五人が同時に固まる。 赤髪、青髪、金髪、緑髪、紫髪の五人が石化したかのように。
「ねぇ、私達いつも何してるっけ」
「料理……?」
「でも料理はオーロじゃない?」
「じゃあ掃除?」
「でも掃除はルプラだし……」
え、何? コイツらって本当にメイドなの?
「じゃ、じゃあオーロさんとルプラさんを除いて、他の三人は何してるんですか?」
「「「さぁ?」」」
「さぁ!?」
今の話を聞くに、オーロさんとルプラさんには適正な仕事が割り振りられてる。 でも、他の三人は自分でも何の仕事をしているのかわからないといった顔をしている。
確かに、今思い返してみるといつも食事を出すのはオーロさん。それ以外では掃除、洗濯、マレンの身支度準備はルプラさん。
いや、ルプラさんすげぇな。
「それで、話をまとめると? 仕事してるのはオーロさんとルプラさんってことですか?」
「そう、ですね……」
返事をするのは緑髪のヴェルさん。
「じゃあ一日のルーティンをまとめてみてください。 まずはオーロさんから」
「はい! そうですね、起きる時間は大体"朝の四時"で……そこから仕込みとかが始まりますね。そして、昼からはご飯を作ってから買い出しですね、夜もご飯を作ります」
「待て待て、朝起きるの早すぎません?」
「え、でも、それぐらいじゃないと仕込みが……」
「どんだけ本気なんですか……」
オーロさんの恐ろしいといえるルーティンを説明され、驚愕を隠せない。 これを聞くと、ルプラさんもっとヤバそう……。
「で、では次はルプラさん」
「はい、そうですね……。 大体は朝はオーロと同じ四時起きですね、そこからマレン様の朝の身支度から部屋の掃除、洗濯物を集めて洗いですかね……」
「……ルプラさんも割とヤバいですね」
「いえいえ、私達なんか全然ですよ? 一番はエリスさんなので」
「え?」
そして、横から現れたオーロさんも同じく口を開く。
「エリスさんは正直、私でも驚くハードスケジュールですよ」
この二人のルーティンを上回るエリスさん恐るべし……。
「あっ、エリスさん来ましたよ」
「せっかくだし聞いてみましょうよ」
「そ、そうですね」
そんなことを考えていると、丁度そのご本人が廊下を通ったため、聞いてみることにした。
「エリスさん?」
「あっはい、どうかしましたか?」
「エリスさんって、毎日どんなスケジュールなんですか?」
「そうですね……日にもよりますが、大体朝の十時から夜中の二時ぐらいは仕事でいっぱいいっぱいですね」
「……は?」
「言った通りですね」
「えぇ」
オーロさんとルプラさんのルーティンとは比べものにならないほどのスケジュールに、流石にやばいと思ってしまう……。 いや、やばいを超えてるか。
「や、休みとかは?」
「休み時間が一日五分で、休日が週一ですね」
「そ、それで身体癒えます?」
「えぇ、正直もう慣れましたし」
「よし、ローホさん、ヴェルさん、アズールさん」
「「「はい?」」」
「エリスさんの休みの日は全力で癒してやってくれないかな?」
「お安い御用です!」
「えぇ、わかりました!」
「ソウマさんが言うなら!」
「……すごいですね、ソウマさん。 この子たち私の命令はあまり聞かないのに……」
「あはは……」
俺はエリスさんから遠い目をされながらも、何もしない三人メイドにエリスさんの休日を全力で癒すようお願いをした。
エリスさんって、働き者過ぎない?
だけど、これにて、全員が仕事をしないという状況を無くせた。 まあ、仕事量は全然違うけど……。
あれから数時間が経ち、俺は現在エリスさんの書斎室でエリスさんの横に座っている。
「あ、あの……」
「どうしました?」
「やりづらいんですけど……」
「たまにはいいんじゃないですか?」
「そ、そうなんですかね……」
エリスさんと軽い会話をしながら、俺はあることに気付いた。 エリスさんは俺の世界でいうそろばんのような物で仕事の計算?をしているように見える。 でも、正直不便ではないか?
俺の世界には電卓という物がある。それを考えると、この世界は計算というものが俺の世界より劣っているのかもしれない。
「あっ、エリスさん。 そこ間違えてますよ」
「え? あぁ……ありがとうございます」
そして数分後。
「エリスさん、また間違えてますよ」
「あ、ありがとうございます……」
「それってそろばんですか?」
「え? えぇ、そうですが……」
「不便じゃないですか?」
「まぁ……そうですね」
「ちょっと貸してみてください」
「え、あっちょ……」
俺はやや強引気味でエリスさんが持っていた紙を横から取り、ペンで計算していく。
どんどんと計算していく俺の様子にエリスさんは驚愕を隠せずにいる。 それはそうだろう。俺はこう見えて、趣味の一つは計算だからな、大抵なものは解けてしまう。
「早いですね……」
「まあ、得意なので」
「ソウマさん、お茶でも淹れましょうか?」
「ありがとうございます、エリスさん」
俺は計算しながら、お茶を淹れに行くエリスさんの背後を見ながらふと、笑みがこぼれてしまった。




