15 私に敬語を使うな
本日二話目
何故かエリスさんとアルが離れ、マレンさんと二人きりとなった。 何度か二人きりになったことはあるが、祭りというシチュエーションがあることによってマレンさんの姿がより美しく見え、思わずドキッとしてしまう。
「……」
無言でマレンさんが片手を少し出す。 これは手を繋げという合図。俺は黙ってそれに応じる。
「どうしましたか?」
「……私に敬語を使うな」
「え?」
「あの小娘だけずるいと言ってるんだ」
「で、ですが、もう癖が……」
「い・い・か・ら!」
「は、はい! 善処します!」
なんとなく従わないと手を出されそうなので、これからはできるだけ敬語を使わないことを決める。 まぁ俺も、もうタメ口で良いんじゃないかと思ってたから丁度いいな。
「では……いえ、じゃあマレン」
「……」
マレンさん。 いや、マレンの握る手が少しだけ強くなり、顔もそっぽを向いている気がする。おそらく突然のタメ口に照れているのだろう。
「……ソウマ」
「どうした、マレン?」
「あの宝石、本当に私に似合うと思うか?」
「ああ、きっと似合うと思うよ?」
「……」
無言で宝石店に向かうマレンを俺は後ろで見る。そんな後ろ姿を見て、俺はあることが頭をよぎる。
あれもエリスさんが稼いだお金なんだろうな……。
そんなことを考えているとマレンがある宝石を首に掛け、戻ってきた。
「ど、どうだ……?」
「よく似合ってるよ。 マレンは金髪だから王みたいな赤色の宝石が似合うね」
「そ、そうか……ありがとな……」
照れてるマレン可愛いな……。 やっぱり褒め慣れてない女性っていうのは見てて微笑ましくなることがいっぱいだな。
そして、俺達がさらに奥に進むと食べ物が売っている場所が多くなり始める。だが、人通りが少ない。 なんで?
「人通り少ないね……」
「まあまだ、準備段階だからな」
「え? じゃあなんで来たんですか?」
「ちょっと来い」
「……え?」
突然、俺は人通りが少ない場所からもっと少ない路地裏へと連れられ、壁にゴツンと押される。 ちょっと痛いが、そんなことを考えさせまいとマレンの白銀の瞳がこちらを向いている。それに頬を赤く染めている。
「マ、マレン?」
「お前、いい加減私の気持ちに気付けよ……」
俺の身体は固定され、どこにも動けず、マレンは己の唇を俺の唇へと重ねようとした瞬間――。
――バゴォーン!
地響きに近い音が鳴り響いた。 その音に俺達は肩を震わせる。
「な、なんだ?」
「クソ……いいところだったのに」
そして早速、音がした方に駆けつけると……。
「やーだ!! あれ買うの!!」
「子供ですか貴女は!? わかりました、買いますから!そこら辺の木をなぎ倒すのはやめてください!!」
「何やってるんですか……?」
慌てて来てみれば、エリスさんが必死にアンの身体を押さえ、木から離れさせようとしてるではないか。そしてアンが欲しがってるのは謎の土偶のようなもの。 そりゃあエリスさんダメって言うよ……。 そして二人はこちらに気付いたようでエリスさんはホッとしたような表情を浮かべた。
「ご主人様ー!」
「アン、それはダメ」
「はい、わかりました!」
「今までの私の努力はなんなんですか!?」
俺とアンの様子を見て、エリスさんはガクッと肩を下ろす。その横で宥めるようにマレンが肩を撫でている。
「……エリス」
「マレンさん……!」
「ふん!」
「いっだぁぁぁぁぁ!?」
「ふぅ……気が済んだ」
「なにするんですか!?」
「すまん、いいところを邪魔されてな」
「私のせいじゃないのに!?」
エリスさんはマレンに殴られた頭を押さえながらもその顔は本当に申し訳なさそうにしていた。 まあ正直、俺も惜しいなと思った……。
そしてマレンの方を見ると。
「……」
頬を赤くし、指先が白くなるほどに拳を握っている。それほど悔しかったのだろう。 ここは一つ、何か褒めてやらないとな。
「マレン、今日の服装似合ってるぞ」
「……!? そ、そうか?」
「俺のため?」
「そ、そうだが……」
「ありがとうな」
「うぅ……」
俺が褒めるとすぐに顔を真っ赤にし、そっぽを向く。 ふっチョロいな……。 そんなマレンを微笑ましく見ているとエリスさんが俺の耳元に近付いて呟く。
「敬語じゃないんですね」
「ええ、さっきやめました」
「ふふ、それはいいですね。マレンさんも喜んでるみたいですし……。 ですが……私も……」
「え? なんですか?」
「い、いえ! なんでもありません……」
「ちょっとご主人様ー?私のこと無視しないでください!」
(あのこと言ったほうがいいんでしょうか……いえ、まだいいですよね)
何か言いかけたエリスだったが、横で笑う二人を見て、言いかけた言葉を飲み込み、祭に集中することとした。




