09 おとずべからざる未来を見ろ
俺達は帰って来た。
「ただいまだ」
「……疲れた」
「「「「「おかえりなさいませマレン様!」」」」」
「安定に、俺にはないのね」
「では私が代わりにしましょう、おかえりなさいませソウマさん」
「あはは……ありがとうございますエリスさん」
こういうときのはエリスさんは俺にとっては天使に見える、あんな大変な買い物をしてきたんだから……。 いや、待てよ?
「エリスさん、もしかして俺が召喚される前はエリスが一緒に行ってたんですか?」
「……はい」
やっぱりか……。
「あの……次は私が行くので……」
「は、はい……ありがとうございます……」
エリスさんが俺の気持ちに気づいてくれたのか、次は自分と行くと言ってくれた。 正直、本当にありがたい。今度お礼でもしようか。
その時、紫髪のルプラさんが口を開く。
「ではマレン様、お食事になさいますか?」
「ああ、そうだな」
「……嘘だろ?」
「ルプラさん、ソウマさんの食事は外してください」
「分かりました」
「……ありがとうございます、エリスさん」
「マレンさんと帰って来た時の顔を見れば、全てを察しましたよ…… お風呂でも入りますか?」
「いえ、明日の朝入ります……」
「では、今日はおやすみなさいソウマさん」
「……はい、おやすみなさい、エリスさん」
俺はマレンさん、メイド達に挨拶をして自分の寝室に向かった。 まあ広すぎて部屋番号で覚えるしかないんだが……。
その後、ようやく自分の寝室を着き、ベッドに飛び込んだ。
「はぁ……疲れた……」
今日はマレンさんに飛び回され、大食いして、買い物して、魔王幹部と会って、色々と大変だったな。 魔王幹部のことは明日話すとして、もう今日は限界だ……。
俺はそんなことを考えながら、深い眠りに着いた。
そこは白い場所だった、本当に真っ白で子供が白の絵の具で塗った中のように感じる。 どこを見渡しても真っ白。 何も感じない、音もしない。 気味の悪い場所だ。
だが、俺はあるものを見てフリーズを余儀なくされる。
「……は?」
「……」
俺の目の前には俺が居た。 目、鼻、口、身長まで同じ。 自分で自分の姿を見るという、なんとも全身が気持ち悪くなる感覚に落ちそうになる。
そして、目の前の俺が静寂を突き破り、重たい口を開いた。
『おとずべからざる未来を見ろ』
俺が驚く前に目の前の景色が変わる。
「……ここは?」
目に映るのはどこかの廊下だった。 だが、そこは壁も壊れ、床も所々穴が空いている。 だけど、どこかで見たことがある。 どこだ?
俺は歩みを進めて、ある確信についた。
「ここ、エリスさんの屋敷……?」
困惑しながらも、俺は歩みを進める。
そこである扉が着いた。 そこからある髪がそこからはみ出ている。
そして、扉を開けると――。
「マレン、さん……?」
そこには胸に穴が空いていたマレンさんが倒れていた。
マレンさん……? あの、マレンさんが……?
俺の感情は心配より困惑が勝り、頭の中で掻き回される。 マレンさんが、マレンさんがだ。
「マレンさん!! マレンさん!!」
ようやく俺は困惑から心配が頭の中で回り、必死にマレンさんの名前を呼び続けた。 だが、手を触ったが既に冷たさを感じる。 まずい、まずいまずいまずい。
『おとずべからざる未来を見ろ』
その言葉と共にまた景色が変わる。
次は五人が倒れている姿。 赤髪、青髪、金髪、緑髪、紫髪。 いつもの五人。
医師でも救助隊ではない俺でも死んでると分かる。 だが、金髪……オーロさんだけは手がピクピクと動いているのが見えた。 俺は何かにすがる思いで近付く。
「オーロさん!!」
「ぁぁ……ソウ、マさん……?」
「そうだ! 俺だ!」
「だめ、です……ここにいては…… まず、なんでここに……」
「喋らないで、血が……」
どんどんとオーロさんの身体から血が流れ、地面に溜まっていく。
俺でも分かる、もうすぐ……。
すると、オーロさんは血だらけの身体で抱き着く。
「ソウマさん……
――・・・――・・・――」
「……え?」
その途端、オーロさんの首が落ちる。 もう限界だったのだろう。俺は静かにオーロさんを寝かせた。
「ぁぁ……なんだ、これ……」
五人に驚いていた俺だが、よく見ると何人かは腕が飛んでいる。 壁に、床に、血だらけで……。
「うっ……」
俺は我慢できずに部屋の隅で吐く。
『おとずべからざる未来を見ろ』
その言葉が容赦なく聞こえる。 また景色が変わる。
「はぁ……はぁ……」
次はどこかの書斎室に見える。そこに座っていたのはエリスさん。
よかった、エリスさんは無事で……。
「……エリスさん」
少しだけ心が休まり、エリスさんに声を掛ける。 が、銀色のセミロングが揺れるだけ。
何がおかしいと思い、俺は急いで近付く。
「エリスさん……?」
俺が触れた瞬間、エリスさんの体が椅子から崩れ落ちた。 俺は驚き、エリスさんの体を起こそうと思った瞬間――。
「エリ、スさん?」
黒色のはずなのにいつも綺麗な瞳が何故かドス黒く見えた。 そして、さらに気付いたのは。
「足が……」
エリスさんの足は元からなかったかのように切られていた。
『おとずべからざる未来を見ろ』
何度目か分からない言葉で景色がまた変わる。
「ぁぁ……」
もう俺の心はとうに限界を迎えている。 もうこれ以上は……。
だが、景色は最初の真っ白の場所、元に戻ってきたのだ。
「……」
「俺……?」
「おとずべからざ……」
「やめろ!!」
なんで俺が俺を攻撃しようとしてるんだよ!!
「俺が何したんだよ! 俺は悪いことでもしたか!!」
「お前は……絶望するんだよ……」
「は……?」
「すべてに絶望する、すべてが分からなくなる、すべてがどうでもよくなる、すべてを壊すことになる、すべてに……すべてに……」
「……お前、何言って……」
「ごふっ……」
そして突然、目の前の俺は目から血から、口から血を流す。 俺は慌てて俺を支える。
口からどんどんと滝のように流れる血、俺はそのまま口を開く。
「元の世界で……ごふっ……変なことは……するな……」
「……え?」
その言葉と同時に俺は体が動かなくなった。
「……」
さっきの俺が言っていた元の世界で変なことをするなとは……。
そして、気付いたときには俺は見覚えのある天井で目が覚めていた。
「部屋?」
俺は夢かと、そっと胸をなで下ろした。
だけど、俺はなんで安心してるんだ? 何かあった気がする……何を見ていたんだっけ?




