11話 殺人・子ども・ランチへ
テンプルベルの村。
>>フリオ
エクソシストの旦那を送り届けてから、急いで村まで戻ってきた。車は少し遠いところに置いた。保安官にエクソシストのこととデイビットのことで相談があると言って雑木林の中で殺した。死体は車のトランクに入れた。
これから、どうしようかな。こんな事しちゃって⋯⋯。
親は悲しむかな。いや、誰が悲しんでも別にいいけど。
俺は頭が悪いから、アリバイだとか、トリックだとかそういう複雑なものは思いつかない。すごく簡単なことしか出来ない。だから簡単なことをする必要がある。けれどそんなことすら思いつかない。
⋯⋯そうだ。デイビット。エクソシストもちょうど来てる。
家の呪いのせいにしたらいいのかな。少なくとも、俺が死体を遠くまで運んでも足跡や警察犬に簡単に見抜かれちゃうかも知れないんだから。全部簡単に済ましちゃったたほうがいいだろ。なんとなく、そんな気がした。
保安官が入った車を見て、煙草が吸いたくなった。吸いたくなったから吸う。
死んで当然だった。トランク越しに見下すように見ながら思った。村のこどもたちを犯してたんだ。何十年も前から。
多くの子が密かにやられていた。そしてこいつは子供たちを脅迫していた。俺は馬鹿だから、こいつのバックに教会が居るとか、こいつの子飼いの犯罪者がいて、こいつに楯突いたらいつも見逃してやってる犯罪者が村人を襲い、こいつがその犯罪者とぐるになって見逃すから通報しても無駄だって。そんな話を信じた子たちを責められない。
俺だって、簡単に騙されると思う。でも、多分ちがうって分かった。この前酔っ払ったこいつを家まで運ぶ手伝いをした時、「子どもに言うことを聞かせるには脅せば良い」ってむにゃむにゃ言ってたからな。爺さんが昔言ってたとおりだった。
「──皆、味を占めるんだ。上手く言ったことに。そしてそれは良くないアイデアでもいいアイデアに思わせる味をしてる」
多分、ジジイもそうなんだろうとも思った。こいつは脅迫が上手く言ったことを、悪いことじゃなく、自分が賢いからだと思ったんだ。
でも、それは悪いアイデアだったから、殺されることになった。いや、それとも自分でも分かってたのかも。いつかこんなことになるって。でも、自分を変えられなかったのかも知れない。俺と同じように。人生を変えられなかったのかな。
これからどうなる。ここの警官はこのジジイしかいないけど。でも、なんとなく誰もこいつのことなんか気にしないとも思った。
嫌だけど、俺なんて捕まっていいんだ。馬鹿で、学もない、頭も悪い。考えるのがとにかく苦手だ。雑用しか手伝えることもなくて、この村の外じゃどうせ生きてけない。親からもよくそう言われたな。
マルセリーナは見た目もいいし、俺より賢いし、大学もいって子供まで産んだ。その子供のデイビットは多分だけど、すごく賢い。俺が知らないことをいっぱい知ってるんだ。こいつらは良い人生を送れる運命なんだと思う。神様がたぶんそう作ったんだ。生まれてきた意味がある。だから大切にしなきゃ。
⋯⋯でも、俺はどうなんだろう。
親の介護もしなきゃいけない。村の人達やマルセリーナが小遣いくれたり、テンプルストークの人たちも俺に未来が無いことを知ってるみたいに、いつも仕事をくれる。それで生活してるけど。たいした貯金もない。
この前デイビットに頼んで、デートアプリをダウンロードしてやってみたけど。両親二人の介護しなきゃだから、家をあんまり離れられないし、泊まらせるのも、泊まりに行くのも微妙だ。
独り暮らししながら他の仕事して、介護しながらデートするのは難しいから、少し理解してほしいっていうとすぐに連絡がこなくなる。
もう俺も50近くなるし。恋愛もあまりしたこと無い。手に職だって大してない、ほとんどが素人仕事だ。お袋は多分俺に俺の人生を送ってもらうより、最後まで一緒にいてほしいって思ってそうだし。
別に、それはいいけど。
なら、なんで俺はこの世に生まれてきたんだろ。
それだけやるために生まれてきたのなら、それは悲しいなぁ⋯⋯。俺はそれだけのために生まれて来たのかな。親には悪いけど、なんか悲しいな。
せめて、少しは意味のある人生が送りたかったなぁ。
⋯⋯だから、こういう悪いやつは殺そうと思った。保安官のジジイが悪いやつすぎて、そう思っちゃった。行方不明になった子もこいつが殺してたみたいだし。こんなジジイでも殺したら、俺も生まれてきた意味が少しはあるかも知れないから。
ほんの少しだけ、皆の役に立てるかも知れない。子供は大事だから、みんなの宝だ。だから傷つけるやつで、そいつが捕まらないなら殺しちゃったらいい。でもみんな出来ないからな、みんなもっといい人生送ってて、それを失え無いからな。だから、俺がやる。そうしたら俺の人生も少しは価値があるものになるかもしれないから。
別に捕まっても、刑務所に入っても、それならそれで介護から逃げれるかも知れない。こういう理由なら親も、俺に見捨てられたとは思わないかも知れないし。だから捕まったとしても、まぁ、別に悪くはなさそうだった。なんとなくこういう事をするために、こんな人生を送ってきたんじゃないかな、とも思った。こういうのを運命っていうのかな。親はどうなるんだろ。
俺は馬鹿だから、未来のことは全然わからないな。
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>>デイビット。
お父さんが帰ってきた。
あまり好きじゃない。自分の父親なのに。僕は、あまりお父さんが好きじゃない。
いちいち反応や、ふるまいが鼻につく。癇に障る。
なぜだかイライラする。望みすぎかも知れないけど。もっといい父親が良かった。
別に虐待なんてされてない、ぶたれたりもしない。でも気に入らないことがあると、すぐに子供みたいに機嫌が悪くなるし、僕はビクビクしちゃう。
いつもいつも、ビクビクしながら接してる。だから話したくない。接待するように接しなきゃいけない。だから会いたくない。
僕を見る目も嫌いだ。こっちがそう思ってるのがあっちも分かってて、それでまた不機嫌になるから。
それに、⋯⋯僕のことを悪魔だって言ってること知ってる。
村の他の子供達とあまり友達にならないことや、部屋に籠っているのがそんなにいけないこと? 悪魔だなんて言われる事をいつ僕がした? そう言ってやりたいような気持ちにさせた、ってことなの?
こいつは、悪魔だと指さして糾弾してやりたい気持ちに俺をさせるんだ!って。
でも、そんなバカみたいなこと言えないから、自分が悪者になるから。……だから、悪魔だ! までで止めてるんだ。⋯⋯多分。
お父さんも、こういうやつも、こういう先生も嫌いだ。みんな、いなくなればいいのに。
お父さんの気持ちなんて知らないけど、実の父親を情けないやつだと思いたくない。自分だって弱虫で、情けないやつだし。でも、そう思ってしまうなら、どうしたらいい? 僕が変わればいいの? 変われない親の子どもなのに? 僕がお父さんたちよりも変われば全ての問題がなくなるの?
なくならないだろ!
都会に出たらマシになるのかな、とか思うけど。生きていけない、ひとり暮らしなんて子どもはさせてもらえないし。お父さんは村の人によく都会にすんでたこと、都会の大学にいってたことをバカみたいに自慢気に言うけど。本当にそんな凄いことなの? 行かなくとも、戻ってきて街で神父やるならなにが違うの。
僕はこれからどうなるんだろ。お父さんとお母さん、離婚するのかな、僕のせいで。それに本当に僕のせいなの?
⋯⋯お母さんは何考えてるのか分からないし。
僕は、もしかしたらフリオおじさんみたいになるんじゃないかと思う。みんなの手伝いをしてお小遣いをもらって。お母さんもそれでいいと思ってるんだ。
未来を考えると怖い。部屋から観る夕焼けが怖い。1日が部屋に籠もってるだけで過ぎていく。でも、いつまでも部屋に籠ってはいられない。
なのに、どうしたらいいかが分からない。学校にいけば先生に嫌味を言われて。先生に目をつけられて嘘つき呼ばわりされて、居場所がない。あんな所行きたくない! この前は先生に物を隠されて、なんで忘れてきてるんだ!って教室の中を探すように言われて⋯⋯。
最後に先生はこれだろ?ってポケットから僕の筆箱を出した。お前が盗んだんじゃないか! ニヤニヤして! 皆の前で大泣きした。恥ずかしくて悔しくて、行かないと行けなくても行きたくないんだ。もうあんな思いしたくない! あんなやつ死んじゃえばいいのに! 友達やクラスメイトは助けてくれない。他の先生だって噂で知ってるはずなのになにもしてくれない!
⋯⋯僕はフリオおじさんほどたくましくない。フリオおじさんは部屋にこもってないし、素直だし、何でも出来るし。人の手伝いばかりしてても文句を言わない、僕は芝刈りの手伝いも、掃除だってしたくない。お風呂掃除だって嫌いなのに。
おじさんみたいに生きていくなんて無理だよ。しかも、お金払われないことも有るみたいだし。呼び出されたあげく人の気分次第でしかお小遣いを貰えないなんて⋯⋯、そんなのむりだ。絶対むりだ。
どうすればいい? 会社に入ればいい? お父さんの跡を継いで神父さんになればいいの? 悪魔が神父になれるわけないだろ!
家を買うとか、借りるとかってどうするの、お金を払うの? お小遣いじゃむりかな。⋯⋯おじさんなら、いい家を知っているかも。色んな空き家の修理とかもしてるみたいだし。うちも空き家ならいくつか持ってるはずだ。
後は、何が必要なんだろ。保安官のおじいさんが言ってたことを思い出した。──警官なら馬鹿でもなれる。困ったら俺が口を聞いてやれるからな、って。別に自分を馬鹿だとは思ってないけど。学校は卒業できないかも知れないから、馬鹿でもなれる保安官はいいのかもしれない。
こんど保安官のなり方を聞きにいこうかな。なんか弟子とかになればいいのかな。教えてくれるかな?
ママも保安官さんは子供好きだっていってたし。
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>>リック・デイモン
一刻も早くテンプルストークに帰りたかった。そのことをマルセリーナに告げ送り届けてもらうことに。
「⋯⋯我が家は落ち着くな、我が家というか宿だが。あの家じゃなければどこでもいい」
ソファに身体を放り出して天井を見上げた。
白い天井。キッチンにある冷蔵庫横の壁に、貴重品や持ち物は必ず持ち帰ってください。と書かれた張り紙。時刻は午前10時34分。一度立ち上がって窓を開けると、ひんやり心地よい風が入ってきた。頭が熱かったのか、風に頭を浴びせるように突き出すと気分がだいぶマシになった。
そのままソファでウトウトしていると、フリオから連絡が来た。
「どうも、昨晩はすいません」
「なにがです? いえ、もういいです。それで?」
開口一番謝ってきたが、もう既にこれが白状しているようなものじゃないか。私に正気を疑わせやがって。だが、もういい。彼らも、いやフリオは渋々姪っ子に付き合っただけだろう。追求せず、要件だけ聞く。
要件は家をよく見てほしい、ということだった。「ええ、そのつもりですよ。ただ良くみるというよりは──あの家自体が呪われているのです。非常に強力な幻の呪術がかけられていて⋯⋯」フリオには、適当なことをいいつつデイビットよりもあの家自体がおかしいのだと伝えておく。
フリオは「──え、家が?」と驚いたような反応をみせた。
なにを言ってるんだ。そう言ってほしかったんじゃないのか?
そもそもマルセリーナもそう言ってただろう。ちゃんと話してないのか? ああ、そう言えば彼は手伝うだけ手伝ったらさっさと帰るような男なのだと思い出した。出会ってから今日まで常にその傾向はあった。基本的に手伝い以外のことはしないし、要件なければ馴れ合わない男なのだ。ちゃんと姪っ子から話を聞いてない可能性は十分にあった。
考えていると⋯⋯
「うん、多分そうかも。こっちも、確かにそんな気がしてて⋯⋯」
などと言い出した。ああ、もしかしたら話半分に聞いていて、私の話を聞いて姪っ子の要望を思い出したのかも知れない。
まぁ、いい。とにかく家がおかしいのだと言って、さっさと仕事を終わらせよう。
「後、今日が最後ですけど。デイビットが学校に行くから。家に来るのは夕方以降のほうがいいかも」
別にいつも夜だったろ。と思いつつ頷く。
「あの家がおかしいなら、今言って祓いの儀式をやるだけやって終わらせてもいいですが、どうします?」
さっさと終わらせたらいいだろう。デイビットのせいじゃないんだから、そもそもデイビットを見る必要さえない。
「ああ、それなら一度マルセリーナに確認しましょうか」
「お願いします」
昼前。電話を切って20分後には、フリオからコールがあって、ピーターが会いたいと言っていると告げられた。嫌な予感がしつつも承諾、ランチを一緒にすることになってしまった。




