表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/3

Ⅱ章

「ローレ」

 ある大きな屋敷の食堂で、青いドレスを着た、金髪の少女が執事に声をかけた。

「何でしょう、ミリアお嬢様」

 少し元気が見える仕草で、その執事が振り向く。

 いつもの義肢を再び着けたローレだ。

「今は、その。何してるの?」

 目も合わせずに、ミリアが言う。

 恐怖とはまた違う感情だ。

 多分、恥じらい?

「今は、暇してますよ」

 余裕のある大人の様な返答を言う。

「なら!」

 なら、と言葉を紡ぐ。

「う、後ろで応援して、欲しいです!」

 後ろに持っていた小さな箱をローレに見せつつ、言い切った。


「えっと、お母様を呼んでもらって。

その後に、私一人でやらせてもらいます!」

 この間アクセサリーショップで買った指輪をプレゼントするために、歩きながら計画を共有してる。

 コツコツと綺麗なタイルの上を歩いていた。

「では、私は呼ぶだけでいいんですね?」

「いや。あの……」

 ちょっとごもる。

「隠れて見守って欲しいな。って」

 ミリアがあらぬ方向に目が泳いでいる。

 子供っぽいお願いに聞こえた。

「分かりました。バレない様に善処します」

 善処と言っても、魔法を使えば完全にバレない事は余裕だろう。

 しかし、ミリアには感じれる程度には気配を消せって事だ。

「まあ、そろそろ始めましょうか」


「ミリアが?」

 綺麗な金髪の女性とローレが話している。

 ベリルの妻、コルテだ。

 綺麗な服に、少し黒いインクが付いていた。

 多分、手紙でも書いていたのだろう。

「そうです。

向こうに呼んでと言われましたから」

 少し柔らかい笑顔を浮かべ、返事をした。

「分かったわ」

 ローレが左手を腹部に当て、右手を後ろに回し、頭を下げる、敬意を示す礼をする。

「それでは、私はこれで」

 コルテは軽く目伏せをして、離れて行った。

 それを角まで見送ったのち、足音を消しつつ追いかける。

 まるで忍者かの様な身こなしで。

 数十秒後に見つけた。

 コルテと、ミリアが話している姿を、だ。

「その、これ」

 遠くでミリアの声が小さく聞こえる。

「あぁ、この間の外出で買ってきた物?」

 外出の話は話題になった。

 主に、単独で行かせたベリルだったり、ローレが倒した三人の話だったりが。

「はい! その。プレゼントです……」

「プレ、ゼント?」

 理解できてない様だ。

「この間の、チョコの、お返しです」

 最近できたばかりの固形チョコを、確かこの間食べていたな。

 飲み物や薬として流通していたチョコが、お菓子として、貴族に流行っていると聞いたコルテが、ミリアに送ったのだ。

「これ! 良い……の?」

「はい!」

 元気の良い笑顔でミリアが返す。

 小包から一つのアクセサリーを取り出す。

 銀色のフレームの中に、翡翠の宝石を嵌め込んだ、目立たない綺麗な指輪だった。

「き、れい。

これは、ミリアが選んだの」

「そうです!」

 目を輝かせながら返事をした。

「ありがとう。

大切に、着けさせてもらうよ」

 指輪を通し、指を広げて、手の甲から見る。

 しなやかな指に、翠の宝石が良いアクセントになっていた。

 綺麗なアクセサリーお陰で、コルテの魅力をいく倍にも増やしていた。

 えへへ、とミリアが笑っていた。

 もうこれ以上、私が話を聞く理由はない。

 邪魔をしない様にゆっくりと、その場を後にした。

 ローレは小さな平和に感謝する。

 こんな幸せが、ずっと続けば良いのに。


「襲撃犯の居場所が分かったと」

 暗い部屋で、ベリルがローレと話していた。

「ああ」

 短くベリルが返事する。

 ベリルが探偵に、外出時のごろつきと、この間の襲撃犯へと命令を出した貴族を見つけさせた。

 場所は掴んだ。

 しかし、それと同時に、敵が待ち構えている事も分かった。

 多分、あえて情報を掴ませたのだろう。

 ローレを殺すためか、時期にバレて不意打ちを喰らうなら、と掴ませたか。

 どちらも可能性は低いが、それ以外には考えづらい。

「まあ、人数によりますが、私一人で良いです」

 ベリルが眉根を寄せる。

「単独で行かせたくないのだが。

まあ、君に着いて行ける兵も居ない。

それしか無い、か」

 ローレは単独が強いのは分かる。

 そして、特殊部隊ならいざ知らず、ただの貴族の手兵達は、多分着いてくだけで精一杯だ。

 邪魔にしかならないだろう。

 ただ、ローレを単独で行かせるとなると、安全の保証もできないし、勝てるとも限らない。

 この前の襲撃犯並みが数人居れば、かなり怪しい戦いになるだろう。

 どうしようもないが、何かしたいというジレンマに、ベリルは悩まされていた。

「そもそも、一度死んだ命。問題はありません」

 冷たくローレが言って、部屋を出ようとする。

「待て」

 それをベリルが引き留める。

「命の危機があれば下がれ。

ミリアを悲しませたくない」

 心配なのだろう。

 確かに、今やただの兵器とは違い、一人の人として扱われている。

 守る対象を履き違えてはいけないのだ。

「了解です」

 優しい笑顔で、ローレが言葉を返した。

 そのまま部屋を出て行く。

 部屋を出ていくローレの左目には、決意が揺らめいていた。


「来ないっすね。敵」

 後輩が、高台から夜の街を見下ろしつつ、タバコを吸っていた。

 俺達は雇われの傭兵だ。

 敵に、先時代の究極兵器が攻めてくると言われて召集されたが、まだ放置されている。

「先輩。弓矢の手入れをよく飽きませんね」

 手元の金色の弓を、後輩が見ていた。

 そろそろ武器を手入れしすぎて磨く所が無くなり始めた。

 魔導兵器の弓矢は自動修復があるので、磨く意味は綺麗になる程度だが、武器を手元に残したまま待機を命じられたのだ。

 暇つぶしはそれしか無い。

 まあ、飽きない限り無限に続けられる暇つぶしだが。

「ていうか、“魔弓コカトリス”で暇つぶししてたら怒られません?」

 この魔導兵器は確かに大事な兵器だが、それ以上に。

「タバコ吸って体力を減らしてるバカに言われたく無い」

 タバコは肺をダメにして体力を落とす。

 魔弓で暇をつぶすのと、体が売りの兵士がタバコを吸うのと。

 どちらが悪いのだろうか。

「そろそろ来ないっすかねぇ。

こんな暇を持て余してると、体が鈍ってまうわ」

 確かに、この待機の間は訓練をしていない。

 明日まで続くなら、暇つぶしに筋トレでも加えるべきだな。

「ん? 先輩。あそこに黒いタキシードのイケメン居るけど、もしかし──」

「警戒体制の用意! 双眼鏡を貸せ!」

 両目で後輩の指が示した方角を見る。

 暗くて見つけづらいが、屋敷の前の通りに人影が見えた。

 右目の眼帯に、オールバックの髪。

 綺麗なタキシード。

 背中には、細長い楽器ケースを背負っていた。

 ブリーフィングで見た撃破目標と酷似している。

「今すぐに全体に通達。

同時に、奴隷共を前に出せ!」

 まだ絶対とは言い切れないが、可能性があるなら警戒すべきだ。

 更に、第六感が叫んでいた。

 奴はただの執事では無いと。


「先輩! 敵は一人、ランク3.0。

武装に魔剣、識別コードは……試作品? のヴァンパイアナイフらしいっす」

 屋敷の一室の窓際で外を見ていた。

 という事は、今まで会った敵の中で、最強レベルだ。

 こちらはランク2.0が八人。

 普通なら負ける。

 だが、こちらも無策では無い。

「最前線の奴隷隊が接敵!」

 双眼鏡で覗く。

 奴隷隊が各々の武器で攻撃を仕掛ける。

 それに対し、相手は左手を背中の楽器ケースに突っ込んだ。

 同時に、楽器ケースが内側から開いて、バラバラに地面へと落ちていき、内側の長い鉄の塊が顔を覗かした。

 それで戦闘の三人とも薙ぎ払われる。

 音を置き去る一振りが、人間を二つに両断する。

「あれは、斬馬刀? 魔導兵器では無いっすね」

 後輩が武器を見て言う。

 ただの鉄塊だと?

「ヴァンパイアナイフは?」

「右手だけっす」

 何故、両手で持たない?

 十人が一気に飛びかかる。

 それを左手の大剣で薙ぐ。

 目に追えない速度で。

 上手い具合に遅らせた三人も、ナイフで一人を貫き、それを盾にしつつ、残り二人ごと返しの大剣で真っ二つに切られる。

「あの馬鹿力に、場慣れ。

やっぱ、旧覚醒か」

 周りにも聞こえる様に、独り言を呟いた。

 本物なら、奴隷共じゃ無理がある。

「ヒュドラ隊! 大きな窓の廊下で、射撃体勢だ! できるだけ早く!」

 さあ、これにどう出る?

 最強兵器さん。


 薄暗く横に長い廊下に、八人が中腰で座っている。

 その手には金色の弓があり、薄く月光を反射していた。

 その十六の目は、一人を見つめていた。

 両手両足じゃ数えきれない人数を殺した化け物を。

「攻撃準備」

 弓に銀の矢がつがわれ、引かれる。

「撃て」

 小さい声だった。

 しかし、音が無いこの世界じゃ十分な声量な筈だった。

 ドシュっという音が重なり合い、爆音を生み出す。

 軽い耳鳴りが起きた。

 しかし、それを頭を振る事で無視して目標を見る。

 そうすると、見つかった。

 五本の矢が刺さった、黒い服の執事が。

 三本避けたか。

「目標沈黙! 魔力反応低下!」

 後輩から報告が飛ぶ。

 まあ、五本もコカトリスの銀矢を喰らったんだ。

 動ける方がおかしい。

「ん? 魔力反応ゼロ? どういう──」

 声が途切れた。

 何故──。

 その光景を見て言葉を失う。

 後輩の頭が無くなっていた。

 顎しか残っていない。

 上顎から上がミンチとなり、周りを汚している。

 後輩の真後ろには、棍棒級の大剣が深く刺さっていた。

 敵との距離は百メートル以上はあった。

 投げて当たる距離ではない。

 クソ──。

 ガシャァァァン。

 ガラスが砕け散る音が響く。

 月明かりが一層強くなり、廊下を照らした。

 九つの影が壁を黒く染める。

 その内の一つが、月光を強く反射する。

 白く光り輝く悪魔が、視線を伏せていた。

 陰っている顔の、青い三つの目の輝きが強くなる。

「敵接近! ナイフを出せ!」

 急いで腰から黒いナイフを抜き、魔力を込める。

 そうすると、青い筋が蛇の様に刃を這った。

 完全量産型の魔剣バジリスクだ。

 残った六人が、同時にナイフを取り出す。

「パルィーフ!」

「な! バカ!」

 風魔法で部下の一人が叫びながら飛び出した。

 敵はそれを認知すると同時に、姿が消える。

「上──」

 警告するも、もう遅かった。

「がふ」

 上に向きかけた目に、ナイフが突き刺さった。

 深く突き刺さり、持ち手しか見えなくなる。

 持ち主はというと、天井の光の無いシャンデリアの上に乗っていた。

「敵は武器を喪失! 上方警戒」

 弓──は、撃つ前に殺される。

 確かに、良い手だ。

「うわぁぁあああ!」

 何かの力で、一人が引き上げられた。

 まるで釣り竿かの様に、右手から灰色のワイヤーが伸びている。

 おいおい。

 おかしいだろ、その装備。

 空中に投げ出された体に、銀の矢が刺さった。

 胸に深く突き刺さる勢いで。

 直後、青い目がこちらを向く。

「詠唱開始!」

 右手が振られ、しなる様なワイヤーが伸びてくる。

 それをギリギリで弾いた。

 ワイヤーの切先が地面に突き刺さる。

 これでどうだ!

 そう、言うかの様に、視線を向けると、胸に激痛が走る。

 なん、で。

 見ると、敵の足からナイフ付きのワイヤーが伸びていた。

 自分の胸へと。

 心臓を貫かれてるせいか、意識が急激に薄れる。

 最後くらい、後輩から貰ったタバコを吸いたかったのに、な。


「ラスト。ですか」

 竜人化を解きつつ歩く。

 荒い息遣いが廊下に響いていた。

 歩く道の横には、八人の動かない人間が居る。

 そんな中、ローレは白い手袋を右手だけに着けなおす。

 コツッと靴と何かがぶつかる。

「これは?」

 拾うと、レーダーの様な物だった。

「便利……ですね。じゃあ、残りの敵は──」

 一人居た。

 同じ階の奥の部屋だ。

 ランクは3と書かれている。

「なるほど」

 レーダーを捨て、それ通りに音を立てずに廊下を進む。

 ここか。

 ゆっくり扉を開けると、光が段々と漏れ出てくる。

 急な光の変化により見え辛いが、一人の影が見えた。

「ようこそ! そして、時間通りに来てくれてありがとう!」

 子供っぽい声が聞こえる。

 ゆっくりと光に慣れてきた目で、見た。

 和服に、袴。

 帽子に靴。

 それはまるで、書生の様な服で、古風な、しかし、今風な雰囲気を出した服だった。

「どうも」

 動揺を出さない様に、静かに挨拶を返す。

 顔を見ると、幼かった。

 多分、十代といった所だろうか。

「じゃあ、今回はよろしく! No.4さん」

 なっ!

 いきなり振りかぶって、銀の矢を敵に投げつける。

 が、体を捻って避けられた。

「なぁに? ヒロさん。

普通に戦わないの?」

 煽る様な口調で、話し続ける。

 コイツは俺を知ってる?

 なら、

「旧覚醒か……」

「御名答!」

 跳ねる様な声色で、会話を楽しんでいた。

 余裕を見せつける様な姿に怒りを覚えつつ、冷静さを研ぎ澄ますため、周りを眺める。

 地面は大理石。

 照明は蝋燭のみだった。

 とても質素な部屋だ。

 地面には、何故か石が落ちている。

「あ! 自己紹介? No.23リオ。よろしくね!」

 沈黙を突き破る様に、自己紹介をしてきた。

 21番代?

 また新しく作ったのか。

 何人の人が死んだだろう。

 このガキ一人を作るために。

「一つ聞きたい。一桁代は何人生きてる?」

「あー。一桁代はね。ほぼ死んだからなぁ」

 死んだ?

 聞きたくない。しかし、分かっていた答えが聞こえる。

「えーと。No.1と、あんたと、No.9。の三人? だっけ?」

 2と5の音が聞こえない。

 残った人は、三人のみ。

 きっと、あの先輩達は、消えたのだろう。この世から。

「そうか……」

 声色に、悲しさが滲み出てしまう。

 もう、会えないのだろう。

「でも、死んだ人ってランク3序盤とかだよね?

俺だって3.5あるし、気にしなくて良いんじゃない?

それに、ヒロさんだって3.6はあったんだし」

 呆れた。

 まあ、こいつは人生経験が短い。

 仕方ないか。

 手袋を外し、リオの足元に投げつける。

「手袋を落としてしまいました。拾ってくれませんか?」

 それを相手は、文字通り踏みにじる。

「話はお終い?

なら、本気出してよ。

時間が勿体無いし」

 本当に無作法だ。

 話をしてやった、俺が馬鹿みたいだ。

 ナイフの柄に手をかけつつ、隙を窺う。

 沈黙が二人を包む。

 部屋には蝋燭の火が揺れていた。

 時間はかけたくない、ってのはそうかもな。

 こちらも時間をかけたくない。

 仕掛けるか。

 足を曲げ、腰を落とし、頭も下げる。

 相手はまだ武器すら構えない。

 手のひらを見せつけて、余裕を見せていた。

 シュトッと小さい音を立てて、地を蹴る。

 二十メートル程を瞬き一つ分の時間で跳ぶ。

 ナイフは添えるのみ。

 敵の首を刈る、その瞬間に、消えた。

 ザズズズと地面を削りつつ止まりつつ振り向くと、視界内には誰も居なかった。

「ヒロさんって、力押しが多いよね? 頭使わないんですか?」

 後ろ!?

 ナイフを振りつつ振り向くも、誰も居ない。

「あー! そっか! オレイさんが死んだからか!」

 左耳の真横で声が聞こえた。

 体に悪寒が走る。

 右手のワイヤーを右の壁に食い込ませ、それを引っ張り、高速で移動した。

「まあ、スキル竜人化も、ほぼ脳筋ですもんね」

 壁に背をつけて部屋中を見ても、見つからない。

 上を見ると、蝋燭台で体を支えて、壁に立つリオが見えた。

「瞬間移動……ですか」

「大正解!」

 上からリオが降りてくる。

 真横に避け、先程いた場所にナイフを振るも、地面に突き刺さるだけだった。

 真っ二つに割れた石が転がる。

 これは、魔鉱石?

 何故ここに?

「よそ見はダメだよ」

 目の前で聞こえる。

 視線を上げると、丸い銃口と二つの瞳が同時に見えた。

「バァン!」

 馬鹿にした様にコロコロと笑いながら言う。

 狩猟用ライフルか。

 木製の銃床に、先端のナイフ。

 銃剣だ。

 魔導兵器か?

 ならば、手を抜くと本当に死ぬな。

 もう、諦めるか。

「スキル発動。竜人化」

 左手と、背中が膨らむ様にシルエットが大きくなる。

 左手の肌が白く染まり、鱗が現れた。

「おぉぉ」

 リオは感嘆する様な声を上げる。

 鱗がゆっくりと逆立ち、鱗と鱗の間に、真っ赤な筋肉が見えた。

 その筋肉から、プシューッと熱い蒸気が噴き出す。

 まるで、爆発寸前のエンジンの様だった。

 ローレの息が荒くなる。

「これで、戦えますか?」

「うーん。まあ、いっか。分か──」

 言い切る前に、左手で突きにかかる。

 しかし、握りしめた金色の爪の拳は、空を切る。

 ズシュと音を立て、左腹部を弾丸が貫通した。

「でも、やっぱ弱点だらけだ」

 振り向くと、そこには誰も居ない。

 ただ、ゆらめく蝋燭の光があるだけだ。

 避けろ! そう第六感が叫ぶ。

 体を捻ると、ビュンと視界の真横に銃弾が通り過ぎ、眼帯のみを切る。

 露わになった赤い宝石の瞳が怪しく光る。

「お好きに言って下さい!」

 ワイヤーを伸ばすも、誰もそこには居なかった。

 骨が折れそうだ。

 こいつは。


 ヒロ先輩と戦えているのに、段々と心は落胆に進んで行く。

 熾天使セラフィムを単騎破壊した英雄、No.4のヒロ。

 そんな人間だ。

 何度も戦いたいと願った。

 でも、本当の姿を知り、落胆している。

 スキルの出力は最低値並みの3.0。

 一部は、竜人化すらできない。

 ワイヤーで移動を補助しているし、武器も古い試作品。

 何もかもが足りない。

 なのに──。

 ギィィンと耳障りな音が部屋中に響く。

 金色の爪と、銃の先端のナイフがぶつかり合う。

 なんで、追いつけない!

 押し込まれかけて、瞬間移動を発動させる。

 移動先は、魔鉱石の上だ。

 俺のスキルは、どんな離れてても飛べる。

 数多ある選択肢から一つを選んでるのだ。

 だから、読まれるはずがない。

 なのに──。

 シュルルルと音が聞こえた。

「もう少し右ですか」

 目の前をワイヤーが高速で通り過ぎる。

 三回目だ。

 何故読まれてる?

 どうすれば、読まれない?

 分からない。

 なら、軌道を読むか?

 できない。

 くそ!

 瞬間移動でヒロ先輩の真後ろを取り、銃剣の先で突きにかかる。

 そうすると、右手に刺さった。

「え?」

 回避もせず、左手でも受けず、右手で受ける?

 何故?

 混乱していると、左手の爪が迫ってくる。

 いや、瞬間移動だよ? 俺。

 引き金を引き、銃弾で破壊を試みるも、破片が散るだけで、壊れない。

 無駄に硬いな!

 迫る爪に少し焦る。

「チッ!」

 銃から手を離し、離れた位置へ瞬間移動する。

 一瞬のホワイトアウトから覚めた視界で見たのは、右足をこちらに向けたヒロの姿だった。

 その足先から、灰色のワイヤーが伸びてる様に見える。

 俺の胸へと。

 痛い? じわっと広がる様に、圧迫感を覚える。

 え? 当たったのか?

 読み切られた。

 右手で胸を触れると、手のひらが真っ赤に染まった。

 そんな中、視界の中でヒロが体を捻る。

 ハハッ!

 ワイヤーが高速で巻かれると同時に地面を蹴り、腹部にヒロの足が刺さる。

 衝撃で体が揺れた。

 そのままの勢いで壁に縫い付けられる。

 肺から押し出された空気が、口から外へと逃げ出てく。

 いってぇ。

 頭がぼーっとする。

 何も考えれない。

 そんな頭に、痛みが加わる。

「ガッ! ぐぅ!」

 ヒロ先輩が姿勢を整えるために、ナイフを体に刺したまま捻ったせいで、内臓が抉られる。

 視線を動かすと、ヒロ先輩は、肩で呼吸をしていた。

「な……ぜ?」

 喉もやられたのか、声が上手く出ない。

「あれ? 貴方は気付きませんでしたか?

貴方は焦った時に、無意識に部屋の真ん中に来ていて。

更に、相手の背中側へと飛んでいた。

訓練の賜物でしょうけど、読まれたら弱いですよ」

 先生みたいな口調で諭された。

 部屋の真ん中は射角が取れるし、相手の背中は反応が遅れる。

 だからこそ、最善手を考えて、読んだと。

「で……も、下手ですね」

 一気に血が口からこぼれ落ちる。

「心臓を……外してますよ」

 刺さってる場所は右胸。

 そこには肺しかない。

 無理矢理スキルを使おうとする。

 血は十分溢れてるから。

 普通はできるはず、なのに。

「う、ごけ!」

 一切できない。

 何故?

「あぁ。このナイフ、血の魔力を奪うから、スキルは使えませんよ」

 ローレは今更の様に気付いたのか、説明してくれた。

「まあ、抜いてあげますか。

死なれても困るので。

引き出したい情報があるんです。

今から縛りますから、逃げないで下さいね」

 ナイフを抜きながら言う。

 な!?

 ──殺すつもりが無かったと。最初から。

 遊ばれてたのは俺の方か。

 悔しい気持ちともう一つの感情が攻めぎあう。

 本当に。

「英雄……か」

「ん? なんですか?」

 鱗が剥がれ落ち、人間の様な顔が見える。

 その顔は、ただのかっこいい大人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ