第22話 道を探す2
向陽はスマホを取り出し、画面に目を落とした。
【今日、園芸部に来られる?】
「そういえば、前に園芸部で高橋さんを誘ってなかったか? 結局、二人とも別々に帰ったみたいだけど、どうしたんだ?」ポーロが顔を近づけ、画面を覗き込みながら尋ねた。
向陽はハッとその時のことを思い出した。「あ……そうだった。あの時はなんか雰囲気が微妙だったからさ。彼女が帰ったのを見て、私も特に何も言わなかったんだ」
向陽は【今、部室の前にいるよ】と返信し、それ以上は特に深く考えずにスマホをしまった。マルコと波羅も向陽と一緒に花壇の手入れを始めた。
「まさか、この作業がこんなにストレス解消になるとはな……」マルコが雑草を抜きながらしみじみと言った。
ポーロは呆れたようにツッコミを入れた。「お前はおじいちゃんかよ! 俺はめちゃくちゃ退屈だけどな」
タッタッタッ——
足音が近づいてくる気配を察知し、マルコは耳を澄ませた。「ポーロ! 誰か来る、一度離れるぞ!」
二人は慌てて近くの茂みの陰へと身を隠した。
直後、高橋が息を切らしながら園芸部へ駆け込んできた。「ご、ごめんなさい! 遅くなっちゃって……今朝ちょっと寝坊しちゃって」
向陽は振り向き、穏やかに笑った。「大丈夫だよ。花壇の整理はほとんど終わったから、あとは水やりだけでいいんだ」
そう言って器具置き場へ向かう向陽の背中を見送りながら、茂みのポーロが首をかしげた。「なんだあいつ? 急に妙に落ち着き払ってんな」
「いや……」マルコは顎に手を当て、冷静に分析した。「表向きは平然を装っているが、内心はパニック状態のはずだ」
器具置き場に入ると、向陽は扉を閉めて深々と息を吐き出した。
「はぁ……」向陽はうつむき、考え込んだ。昨日のカフェの件、彼女はもう忘れてるのかな? あとで聞いてみるべきか、それともこのまま流すべきか……でも今日の高橋さん、前よりずっと元気そうだな……
そこへ、マルコとポーロがこっそり忍び込んできた。
マルコが「機嫌が良さそうな今のうちに誘うべきだ」と助言すると、ポーロは「待てよ、お前はまずやりたいことを探すんじゃなかったのか?」と制止した。
二人の押し問答に嫌気がさした向陽は、頭を抱えて低く叫んだ。「もう二人とも静かにしてて! 私に任せてよ!」
向陽は棚からバケツを取り出すと、たっぷりと水を汲んで表へ向かった。
「これ、どうぞ。もう水汲んであるから」向陽はバケツを高橋に手渡した。
再び、二人の間に短い沈黙が流れた。高橋が静かに水をやっている隣で、向陽は緊張でガチガチになりながらも、意を決して口を開いた。
「あのさ……昨日……」向陽は恥ずかしさと気まずさのあまり一気に言えず、昨日のことを思い出し、恥ずかしさのあまり思わず笑いそうになって、口元を手で覆った。
高橋は手を止め、不思議そうに向陽を見つめた。「昨日……?」
向陽は照れくさそうに微笑んだ。「昨日、カフェに行こうって約束してたのに……私が一人で先に帰っちゃって。ごめんなさい」
高橋は目を見開き、ハッと思い出したように慌てて頭を下げた。「ごめんなさい! 私も一人で帰っちゃって……」
「それで……今日……」その先がどうしても恥ずかしくて言葉にならない。
陰で見守るマルコとポーロは、やきもきしながら「言え……早く言えよ!」と心の中で叫んでいた。
「もしよかったら、今日一緒に行かない? おしゃべりでもしながらさ」向陽はついに一気に言い切った。
高橋は一瞬ポカンとした後、柔らかく微笑んで頷いた。「うん! 全然いいよ」
その返事を聞いた瞬間、向陽の口元が緩んだ。彼は慌てて手で顔を隠し、ニヤケ顔を必死に抑え込んだ。「じゃあ、放課後に校門の前で集合ね!」
高橋も嬉しそうに頷いた。「うん、校門前ね。分かった!」
園芸部で別れた後、向陽は教室へ戻り、いつもの一日の授業が始まった。
授業中、教室の向陽を盗み見ていたポーロが、マルコに話しかけた。「マジで高橋さんを誘えたな!! でもあいつ、特に浮かれてる様子もないぞ。めちゃくちゃ真面目に授業受けてるし」
「いや……」マルコは再び指摘した。「向陽の足元を見てみろ。猛烈に貧乏揺すりをしてるし、手元のペンもずっと回している」
ポーロがよく見ると、苦笑いを浮かべた。「ほ、本当だ……めちゃくちゃ緊張してんじゃん……」
昼休み。
向陽が一人で弁当を食べていると、マルコとポーロが自然な動作で隣に腰掛けた。ポーロが向陽の首に腕をまわし、意地悪く笑った。「何もなかった顔してるけど、本当はテンパりまくってんだろ?」
向陽はポーロを振り返り、降参するように言った。「テンパるに決まってるだろ! 何を話せばいいのか全然分からないんだから」
マルコは向陽の肩を軽く叩いた。「ちょうどいい機会だ、彼女のことをもっとよく知るといい。彼女は、君が思ってる以上に面白い子だからね」
「そうなの?」
マルコは不敵に笑った。「彼女が好きそうな店ならいくつか知っている。あとで君のスマホに送っておくよ」と言い残し、ポーロと一緒にトレーを持って立ち去った。
スマホを見つめ、これから起こるであろう出来事に思いを馳せながら、向陽は一人でニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「一人でニヤニヤして、気持ち悪い……」
突然頭上から降ってきた声に、向陽は飛び上がらんばかりに驚いた。仰ぎ見ると、そこには優依が立っていた。
向陽は慌てて手を振った。「な、なんでもないって!」
優依は椅子を引いて座ると、気遣うように尋ねた。「ところでさ、やりたいこと何か見つかった?」
向陽は頷き、スマホを取り出して昨夜リストアップした興味のあることのメモを優依に見せた。
優依は覗き込んだ。「へえ……なるほどね。じゃあ今日、片っ端から試してみる? 私、今日は部活休みなの!」
「あ……ごめん、今日はちょっと用事があって無理なんだ」向陽は申し訳なさそうに言った。
優依の瞳が一瞬かげり、少し強気なトーンになった。「用事? なんの用事?」
「放課後……高橋さんとカフェでおしゃべりすることになってて」
「あ……そっか」優依の表情が目に見えて落胆の色を帯び、声のトーンが下がった。
だが、彼女はすぐに強がってみせた。「じゃあ明日! 部活が終わったら一緒に試そうよ!」
向陽は大きく頷いた。「うん、約束ね」
優依はそのまま立ち上がり、弁当箱を持った。「一緒に食べないの?」と向陽が尋ねると、「ううん」と素っ気なく答え、背を向けて友達のグループの席へと去っていった。
向陽は少し首をかしげたが、深くは追及しなかった。
放課後。
向陽が校門へ走っていくと、そこにはすでに高橋が待っていた
走ってきた向陽に気づくと、高橋は柔らかく微笑んだ。
「行こっか!」




