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第21話 道を探す1

「俺がここにいられる時間はもう少ない」中年男性は焦りを色濃く滲ませ、早口で捲し立てた。「だが、これだけは言っておく——自分じゃどうにもできないことに振り回されて、気分を落ち込ませるのはやめろ!」


「どういう……意味ですか?」向陽は首を傾げた。


中年男性は真剣な眼差しで畳みかけた。「自分のことに集中しろ! お前が本当にやりたいことを見つけるんだ!」


向陽はその言葉の意味を理解しきれず、「ちょっと待ってください! 『未確定の世界』ってどういうことなんですか!?」


しかし、中年男性の身体はすでに淡い光を帯び始めていた。彼は向陽を強く見つめ、最後にそう言い残した。。「時間がない……俺が言ったことを覚えておけ!」


言いきると同時に、彼の姿は空間の歪みに飲み込まれ、そのまま跡形もなく消えた。


向陽はその場に立ち尽くし、頭をかきながら首を傾げた。。あの人、一体何だったんだ? 急にわけのわからないことばかり言い出して……


「ちょっと!」


「うわあっ!?」向陽は跳び上がり、慌てて振り返った。


そこには、手を後ろで組み、小首を傾げた優依が立っていた。「なんでこんなところでポツンと突っ立ってるの?」


「あ……いや、ちょっと考え事をしてて」向陽はまだ動揺を引きずったまま答えた。


優依はニカッと笑い、一歩踏み出した。「じゃあ、私に話してみたら? 何か悩み事でもあるんでしょ?」


「悩みと言えるか分からないけど……話すくらいなら」


「じゃあ、向陽の家に行こ!」優依はパンッと手を叩き、無邪気に提案した。


「え……う、うち!?」向陽は声を裏返した。


優依は返事も待たずにあっかんべーをすると、向陽の家に向かって駆け出した。「ほら、早く来ないと置いてっちゃうよ!」

向陽は慌ててその背中を追いかけた。


一方その頃、向陽の部屋では。


帰りの遅い向陽を待ちながら、マルコとポーロは「……あいつ、どこに行ったんだ?」


その時、廊下からバタバタと足音が近づいてきた。


「お? あいつ、やっと帰ってきたか」ポーロがのんきに言った。


マルコは耳を澄ませ、突如表情を強張らせると、ポーロの襟首を掴んだ。「待て! 二人いるぞ……誰か一緒だ!、隠れるんだ!」


ポーロはドアを少しだけ開けて隙間から覗き込み、目を丸くした。優依だ!?


二人はパニックになりながら身を隠した。ポーロは熟練の動きでベッドの下へ滑り込み、マルコは素早くクローゼットの中へと身を潜めた。


ガチャリ。


扉が開き、優依は遠慮なく床の上にペタリと座り込むと、興味津々に部屋を見回した。


「お待たせ」向陽がジュースを持って部屋に入ってくると、少し気まずそうに優依の向かいに座った。


そのまま、気まずい沈黙が部屋を包んだ。。


クローゼットの隙間から覗くマルコは、眉をひそめて首をかしげた。なんなんだ、この二人は……


優依はジュースを一口飲むと、先に口を開いた。「で? 何に悩んでるの?」


向陽は数秒間黙り込んだ後、低く呟いた。「……多分、私、自分が本当にやりたいことを見つけなきゃいけないんだと思う」


優依は驚いたように目を丸くした。「急にどうしたの?」


「ただ……みんなはそれぞれの方向に向かって前に進んでるのに、私一人だけが……ずっと同じ場所に立ち止まってるような気がしてさ」


優依はふむふむと大げさに頷いた。「なるほどね……なるほど! よーし、それなら私が協力してあげる! 今すぐ真剣に、自分の好きなものを思い浮かべてみて!」


向陽は頭を掻き、気まずそうに呟いた。「好きなもの、か……漫画とか、ゲームくらいしか思いつかないけど……」


「それ、ただの娯楽じゃない!」優依はすかさず呆れたようにツッコミを入れたが、すぐに顎に手を当てて思案した。「まあいっか……漫画! 自分で漫画を描いてみるのはどう?」


向陽は首を横に振った。「私の頭の中に面白いストーリーなんてないし、漫画を描くのはちょっと違う気がするな」


「んー……じゃあ、自分だけのゲームを作ってみるとか?」優依は目を輝かせて提案した。


「でも、ゲーム作りってプログラミングとか覚えなきゃいけないし、難しすぎるよ」向陽は口を尖らせた。


優依はすぐさま反論し、強い眼差しで言い放った。「難しくて当然でしょ! 世の中に簡単なことなんて一つもないんだから!」


「でも……私の胸の中に、そこまでの熱量はない気がするんだ」向陽は深くうつむき、落胆した様子で呟いた。「だから、羨ましいよ…みんなには、夢中になれる何かがあって…」


そんな向陽を見て、優依は彼の肩をポンと叩き、太陽のような笑顔を向けた。「ほら、しゃきっとしなよ! もう少し自分に自信を持ちなよ。探し続ければ、絶対に見つかるからさ!」


向陽は小さく頷いた。「うん……わかった。明日から何か試してみるよ」


優依は満足そうに頷くと、時計に目をやった。「うんうん! じゃあ、今日はもう遅いし、私はそろそろ帰るね!」


優依を見送り、扉が閉まると、マルコとポーロがクローゼットとベッドの下から気まずそうに這い出てきた。


「どうしたんだ、向陽?」ポーロが服のホコリを払いながら尋ねた。


向陽は静かに言った。「ただ……私も何か自分が本当に好きになれるものを見つけるべきなんじゃないかって、そう思ったんだ」


ポーロは優しく頷き、向陽の肩に腕をまわした。「いいんじゃないか! 大丈夫、俺たちも一緒に探してやるよ」


そんな二人を見つめながら、マルコは一人静かに冷徹な現実を噛み締めていた。


(付き合ってやる、か……だが私たちには、そんな悠長な時間はないんだ……)


翌朝。


向陽はいつものように早く園芸部へやってきた。まだ高橋の姿はなく、花壇には向陽一人だけだった。


向陽は袖をまくり、黙々と雑草を抜き始めた。これまで自分がどれだけ適当にこの作業をこなしていたのか、改めて思い知らされた、今回は余計なことを考えず、いつも以上に真剣に雑草を抜き、丁寧に水を与えた。


三十分後。


「ふぅ……やっと終わった」向陽は額の汗を拭い、整えられた花壇を見つめた。胸の奥からささやかな達成感が湧き上がってくる。「なんか……今回はいつもと違う感じがするな」


ピコン!


ポケットの中で、スマホが急な通知音を響かせた。


向陽がスマホを取り出して画面をロック解除すると、差出人の名前を見て驚いたように呟いた。


「あれ……? 高橋からのメッセージか……?」

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