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第20話 高橋さん2

「高橋は!? 高橋はどこだ!?」木村先輩が焦った様子で向陽のもとへ駆け寄り、周囲を落ち着きなく見回した。


向陽は突然の態度に驚きつつ、後ろを指さした。「あ……荷物を取りに行きましたけど」

「そうか……そうか……」木村先輩は胸を撫で下ろし、小さく呟いた。


向陽は首を傾げた。「どうかしたんですか?」

「高橋から何も聞いてないのか?」

向陽は呆れたように息を吐いた。「だから聞いてるんじゃないですか」


木村先輩は気まずそうに向陽の肩を叩き、妙な口調で言った。「そ、それはお前から直接聞いた方がいい……」

そう言い残すと、木村先輩は振り返りもせず、慌ただしく走り去っていった。


向陽はその背中を見送りながら、思わず大声で叫んだ。「一体何しに来たんだよ!?」


草むらに身を潜めていたマルコとポーロは顔を見合わせた。マルコは眉をひそめ、低く呟く。「あいつ……本当に何をしに来たんだ?」

ポーロも肩をすくめた。「さあね……私にもさっぱりだ」


しばらくして、高橋が道具を抱えて戻ってきた。その瞳はどこか空洞で、力なく呟いた。「じゃあ……花壇の手入れ、続けようか……」

向陽は心配そうに声をかけた。「あの……私たち、今まさに手入れをしてたところだけど……」

高橋はハッと正気に戻り、顔を赤くして謝った。「あ! ごめん……ボーッとしてた……」


そう言うと、高橋は花壇の脇に力なく腰を下ろし、うつむいたまま黙り込んでしまった。

向陽もそっとその隣に腰掛けたが、横顔を盗み見るばかりで、重苦しい沈黙が二人の間に横たわっていた。


一体何があったんだ? 向陽の頭の中で焦燥感が膨らむ。

私たちがもっと親しい関係だったら、話してくれたのかな。どうしてこんなに近くに座っているのに、こんなにも遠く感じるんだろう……私に何ができるっていうんだ?


草むらの中では、マルコが固まっている二人を見てポーロに低く尋ねた。「なんで何も話さないんだ?」

ポーロは溜息をついた。「私に聞かれたって分からないよ……」


長い沈黙の末、向陽は意を決して小さく声をかけた。「高橋……今日、何か嫌なことでもあった?」

高橋はただ静かに首を横に振った。「ううん……なんでもないよ」


それだけ…? 向陽の心は一気に冷え込んだ。


気づけば、部活の時間も終わっていた。。高橋は暗い表情のまま荷物をまとめ、「お疲れ様」とだけ言い残して去っていった。向陽はただ一人、その場に取り残された。

挿絵(By みてみん)


高橋の姿が見えなくなると、マルコとポーロが草むらから姿を現した。「あまり気にするな……」マルコが声をかけようとしたが、向陽はうつむいたままそれを遮った。「ごめん、今日は一人で帰るよ」


落胆した様子で歩き去る向陽の背中を、二人は見送るしかなかった。その時、マルコの腕端末が甲高い警報音を鳴らした。

ポーロが覗き込む。「何これ?」

マルコは表情を硬くした。「緊急事態の知らせだ……一度本部に戻る」


時空管理局本部。


マルコが帰還するなり、局長が険しい顔で歩み寄ってきた。

「君が調査しているあの世界に異変が生じた。報告によると、二人の人間が時空の裂け目に落ち、その世界へ入り込んだようだ」

「二人……!?」マルコは目を見開いた。

局長は一歩踏み出し、冷徹な声で告げた。「あそこは『未確定の世界』だ。期限内に事態を収束させろ」


言い残して去っていく局長。

一人残されたマルコの元へ、この世界の高橋が寄り添うように現れた。「どうしたの? 最近なんだか様子がおかしいよ。大丈夫?」

マルコは目の前の彼女を見つめ、低く呟いた。「……どうやら、私の手に負えない状況になりつつあるようだ」


一方その頃。


向陽は一人、トボトボと暗い帰り道を歩いていた。頭の中では、先ほどのやり取りが何度もリフレインしていた。

もし私が違う言い方をしていたら……もっと上手く返せていたら、結果は変わっていたんだろうか。


「おい! 向陽!」


突然、渋みのある中年男性の声が彼を呼び止めた。向陽が足を止め、振り返ると、そこにはどこか見覚えのある苦労を重ねたような大人の男性が立っていた。

「あ……私の名前、どうして知ってるんですか? あなたは……?」


中年男性は少し考え込んだ後、静かに言った。

「簡単に言えば、俺はお前だ」

「私が……あなた!?」向陽は驚愕し、身構えた。「嘘つけ! そんなわけないだろ!」


中年男性は反論せず、ただ穏やかに微笑んだ。

「そんなわけない、か。……お前はすでに、あと二人の『自分』に出会っているんだろう?」


向陽は息を呑み、その場に凍りついた。

な……なんでそれを知ってるんだ!?


中年男性は動揺する向陽を静かに見つめ、落ち着いた声で語りかけた。

「俺は、お前に誰かを追いかけろとか、恋愛しろと言いに来たわけじゃない。」

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