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第14話 優依とデート3

少し離れた角の陰から、マルコとポーロは身を潜めて二人の後を追っていた。

前方の様子をうかがいながら、ポーロは焦ったような顔で声を潜めて呟く。「ちょっと待て……向陽のやつ、どこへ行く気だ? こんなの、俺の立てたルートにないぞ!」

マルコが小声で急かした。「ルートなんかどうでもいい、とにかく付いていくぞ!」


その頃、手を引かれるがままに歩いていた向陽は、隣で楽しそうに微笑む優依に、緊張を隠せず尋ねた。「あの……優依、俺たちどこに向かってるの?」

優依は振り返り、いたずらっぽく片目を瞑ってみせた。「秘密。特別な場所だよ」


その言葉が終わるか終わらないかの瞬間、分岐点に差し掛かった優依が突然、何の前触れもなく加速した。そして、向陽の手をぎゅっと握りしめて走り出したのだ。


「う、うわっ!?」

不意に柔らかくて温かい小さな手に手を引かれ、向陽の全身に電気が走った。

優依はまるで、目に見えない追跡者から逃れるかのように、楽しそうな笑みを浮かべながら入り組んだ路地を軽快に駆け抜けていく。


「クソッ、急に走り出しやがった!?」

後方を追っていたマルコとポーロは、この突然の行動に出遅れた。大慌てで角を曲がって追いかけたものの、目の前に広がる入り組んだ路地には、すでに二人の姿はどこにもなかった。完全に撒かれたのだ。


マルコは呆然とポーロを振り返った。「どうするんだよ? 見失ったぞ!」

ポーロは立ち尽し、少し困ったように俯いて思考を巡らせた。やがて、その瞳に懐かしさと全てを察したような光が宿り、静かに呟いた。

「……俺に付いてこい。あいつがどこへ行くか、分かってる」


優依が向陽を連れてやってきたのは、賑やかなゲームセンターだった。

ここのクレーンゲームは少し特殊で、筐体の横にあるボタンを押せば、中の景品をそのまま直接購入できるようになっている。

二人は可愛らしい犬のぬいぐるみキーホルダーの筐体の前で立ち止まった。向陽は、優依の目がキラキラと輝き、そのキーホルダーをじっと見つめていることに気づいた。

「よし、俺が取ってあげるよ!」

向陽は張り切ってコインを投入したが、二、三回挑戦したものの、アームは虚しく滑り落ちて失敗に終わってしまった。

優依はそれを見てクスッと笑い、向陽の肩をポンポンと叩いて慰めた。「いいよいいよ、気にしないで! こんなのに無駄遣いしなくて大丈夫だから」


向陽は少しきまり悪そうに頭を掻きながら、優依と一緒に隣のバスケットボールゲーム機へと移動した。

二人は顔を見合わせ、優依が自信満々に挑発する。「私、シュートには結構自信あるんだからね!」

向陽もすぐに言い返した。「へえ、俺だって負けないよ」


ゲームが始まると、ゴールに次々とボールが吸い込まれていく。優依は横目で向陽のスコアが自分より高いことに気づき、焦ったのか、時折足を伸ばして向陽の脚を軽く蹴って邪魔をし始めた。

向陽は笑いながら避ける。「おい! 反則だろ、それ!」

優依は悪びれもせずに大笑いした。「反則じゃないよ! これは正当なディフェンス!」

結局、勝負は向陽のスコアが上回った。向陽は誇らしげに鼻を鳴らした。「どうやらプロリーグからスカウトの電話が来るのも時間の問題だな」

それを聞いた優依は、隣でこらえきれずにぷっと吹き出して笑った。


優依はスマホに目を落とし、夕暮れが近づいていることに気づくと、向陽に言った。「そろそろ次の場所に行こっか」

「あ……そ、その前にトイレ行ってくる! ちょっと待ってて!」向陽は少しきまずそうに洗面所を指差した。

優依は呆れたように目を丸くした。「もう、相変わらずタイミング悪いんだから。入り口で待ってるね」と、先に外へ出て行った。


五分後、向陽は息を切らせて慌てて入り口まで走ってきた。

優依は彼を見つけると、くるりと背を向けた。「よし、行こ!」

「どこに行くの?」

「付いてくれば分かるから!」


優依が連れてきたのは、川をまたぐ一本の大きな橋の上だった。

足元を静かに流れる川、武骨な山並みの向こうへとゆっくりと沈んでいく美しい夕日。夕映えの朱い光に照らされて、二人の頬は少し赤く染まって見えた。

.......................

...........

....

...

.

しばらくの間、二人は何も言葉を交わさなかった。

周囲に響くのは、遠くの道路を走る車の音と、橋の下を流れる川のせせらぎだけ。静寂が、どこか甘酸っぱい空気を醸し出していた。


二人はほぼ同時に顔を見合わせ、数秒間視線が交差した。そして、お互いの少しぎこちない表情に、思わずおかしそうにクスッと笑い合ってしまった。


優依は沈みゆく夕日を見つめながら、背を伸ばして笑った。「どう? ここ、すごく落ち着く場所でしょ? なんだか、こういう雰囲気だと、心の中にあることを何でも話せそうな気がしちゃうんだよね」


優依のキラキラとした瞳が向陽をじっと見つめる。まるで、彼が先に何かを話し出すのを優しく促しているかのようだった。


その時、向陽はポケットにそっと手を入れると、それを勢いよく優依の前に差し出した。

彼の手のひらには、先ほどゲームセンターで見つめていた、あの犬のぬいぐるみキーホルダーが乗っていた。


優依は呆然とし、驚いて口元を両手で覆った。「これって……」

「ぷ、プレゼント。」向陽は照れ隠しに視線を逸らした。「さっき待たせてる間に取ってきたんだ

——もちろん、それは彼が直接購入ボタンを押して買ったものだった。クレーンゲームで取るより少し高くついたけれど、彼女の喜ぶ顔が見られるなら、十分に価値がある。


優依はキーホルダーを見つめ、頬を林檎のように赤く染めた。少しもじもじしながらそれを受け取ると、それでも強がってぷいっとそっぽを向いた。「ふんっ! 無駄遣いしなくていいって言ったのに……」

それから、俯きながら、消え入りそうな声で恥ずかしそうに囁いた。「ありが……とう……」


その姿に向陽の胸は温かくなり、笑って鼻の下を擦った。「いいよ。この綺麗な景色を見せてくれたお礼さ。すごく落ち着く場所だね」


向陽はスマホを確認し、もう遅い時間であることに気づいて優依に言った。「そろそろ帰る時間だね」

優依も時間を見て素真面目に頷き、向陽の隣に並んで帰路についた。


一方、少し離れた橋のふもと。

マルコは額の汗を拭いながら、感心したように言った。「よくここが分かったな、ポーロ」

ポーロは前を歩く二人を優しい眼差しで見つめながら、静かに答えた。「ここは優依の一番お気に入りの場所だからね。きっとここに来ると思ってた。ただ……」

「ただ?」マルコが不思議そうに尋ねる。

ポーロは少し眉をひそめ、その瞳に複雑な光を宿した。「優依がこの場所を教えてくれるのは、元々の時間軸なら、もっと先のことのはずだったんだ……」

マルコはそれを聞き、ポーロの肩を叩いて豪快に笑った。「なんだ、それなら俺たちのサポートのおかげで、時間軸が良い方向に少し縮まったってことだろ!」


家に帰った向陽は、リビングに誰もいないことに気づいた。マルコもポーロも、まだ戻っていないようだ。

ベッドに寝転がり、天井を見つめながら向陽はしばらく考え込んでいた。スマホを手に取り、優依とのトーク画面を開く。

「今日は楽しかったよ」と、メッセージを送るべきかどうか……。

しかし、彼は少し躊躇した。*(いや……わざわざ送るのも、なんか意識しすぎっていうか、不自然かな……)*


スマホを置こうとしたその時、背後から突然、低く楽しげな声が響いた。

「なんで送らないんだよ?」


「うわあああっ!?」

向陽は心臓が飛び出るほど驚き、ベッドから跳ね起きた。大慌てで振り返ると、いつの間にか窓から侵入したポーロが、窓枠に腰掛けてニヤニヤと彼を見下ろしていた。


「なんでお前は毎回窓から入ってくるんだよ!?」向陽は狂いそうな心拍数を抑えながら声を荒げた。

ポーロは平然と肩をすくめた。「玄関から入ったら目立つだろ?」

「窓から入る方がよっぽど怪しいだろ!」向陽は大声でツッコミを入れた。


けれど、ポーロの突然の乱入のおかげで、向陽はついに吹っ切れた。画面にいくつかの文字を打ち込む——【ありがとう。今日、すごく楽しかった。】そして、送信ボタンを押した。


ポーロは送信完了の画面を見て、向陽の肩を嬉しそうにバシバシと叩いた。「よし! 今日のデートは大成功だな!」

その時、部屋のドアがガチャリと開き、マルコがリラックスした表情で入ってきた。「今日は本当に良い一日だったな。明日もこの調子で頑張るぞ!」

翌朝。

ポーロは階段を下りてキッチンへ向かおうとした。しかし、二階の角の窓を通り過ぎようとした瞬間、彼の動きがピタリと止まった。

彼は信じられないものを見たように目を丸くした。

なんと玄関の前に、優依がこんなに早い時間から立っていたのだ。彼女は足元の小さな小石をコツコツと蹴りながら、向陽が起きてくるのを待っているようだった。


ポーロは目を見開き、大慌てで部屋に引き返した。向陽の布団を思い切り引っぺがし、焦りを含んだ低い声で彼を揺さぶる。「おい! 向陽! 起きろ! 大変なことになってるぞ!」


十分後、大慌てで身支度を整えた向陽が階段を駆け下り、玄関の扉を開けた。

朝の光の中に佇む優依の姿を見て、向陽は言葉を失った。

同時に、彼の視線はある一点に吸い寄せられた。

彼女のスクールバッグのファスナーに、昨日プレゼントした、あの犬のキーホルダーが揺れていたのだ。


優依は扉が開く音に気づいて振り返り、呆然とする向陽を見つめた。

「ねえ、向陽……私、今日も園芸部に遊びに行ってもいいかな?」

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