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第11話 花壇とグラウンド 3

ポーロが考え込んだ様子でグラウンドに戻ると、優依は振り返り、彼が一人でぽつんと立ち尽くしている後ろ姿を目にした。彼女は少し不思議そうに歩み寄り、ぶっきらぼうに尋ねた。「ねえ、あんたさっきからそこで何してんの?」


ポーロは振り返った。今度の彼の瞳にはもう焦りはなく、ただ優依を見つめ、その口元に優しくもどこか深みのある微笑みを浮かべた。そして、彼は何も言わずに優依の横を通り過ぎ、そのまま校舎の方へと歩いていった。

優依はその場に立ち尽くし、彼のいつもと違う冷静な後ろ姿を見送った。妙な感じはしたが、それ以上は何も言わなかった。


日常の裏側では、マルコが小走りで園芸部の近くの草むらへと戻り、身を隠していた。彼がひょっこり顔を出すと、向陽と高橋さんはまだ楽しそうに話していた。会話はまだ少しぎこちなく、短いものだったが、その微妙な進展を見て、マルコは満足そうに微笑んだ。

そこへ、騙されて行ったはずの木村先輩が不思議そうな顔で戻ってきた。二人の隣にしゃがみ込み、お花を見つめながら首を傾げる。「おかしいなぁ……。さっき急いで職員室に行ったんだけどさ、先生にそんな用事ないって言われちゃったよ」


その言葉を聞いた瞬間、向陽は慌てて下を向いた。これがマルコの仕業だとすぐに察し、必死に笑いを噛み殺そうとしたため、肩が細かく震える。

木村先輩は頭をかきながら、一人で納得したように笑った。「まぁ、でも何事もなくてよかったよ。成績のことで呼び出されたんじゃなきゃ、それでいいさ」

高橋さんは少し心配そうに彼を見つめる。「先輩、本当に大丈夫なんですか……?」

「さぁね、でもきっと大丈夫だろ!」木村先輩は勢いよく立ち上がると、今度は自分に言い聞かせるように胸を張った。「いや、気にしていなわけじゃないぞ! 俺はただ、自分の力じゃ『もうどうにもできないこと』をわざわざ心配したくないだけさ」


「木村先輩……本当に救いようのないポジティブ思考ですね」向陽は心の底から感心したように呟いた。

三人で顔を見合わせて笑い、高橋さんが立ち上がってスカートを払いながら、元気いっぱいに言った。「よし! 植え付けもこのくらいで大丈夫そうだね! みんな、今日はお疲れ様!」


三人が道具を片付け終えると、木村先輩が高橋さんを振り返って尋ねた。「高橋、この後ちょっと商店街で何か飲んでいかない?」

高橋さんは少しうつむいて考えた後、嬉しそうに小さく頷いた。

木村先輩はすぐに向陽の方を向く。「向陽も一緒にどう?」


この時、草むらに隠れていたマルコは、向陽に向かって必死に親指を立てていた。その目には『早く乗っかれ! 大チャンスだぞ!』という猛烈なプレッシャーが込もっている。

しかし、向陽は少し考えた後、ただ申し訳なさそうに微笑んで首を横に振った。「あ……また今度にします! この後、ちょっと用事があって」

木村先輩と高橋さんは一瞬顔を見合わせたが、先輩は笑顔で頷いた。「そっか! じゃあ次は絶対一緒に行こうな!」


向陽はその場に残り、二人が並んで歩いていく後ろ姿を見送りながら、大きくため息をついた。

マルコがすぐに草むらから飛び出してきて、もどかしそうに問い詰める。「なんで一緒に行かなかったんだよ! せっかくいい雰囲気だったのに!」

向陽は静かに首を振った。「自分でもよく分からないけど……でも、今日はもう十分たくさん話せた気がするから。」

マルコは思わず「お前、それはどういう理屈だよ? ゲームをやっと一面クリアしたから、次のステージは明日に持ち越し、みたいな感覚か?」

向陽は困ったように頭をかき、苦笑いした。「そういうわけじゃないんだけどさ……」


その頃、グラウンド。

夕日が沈むにつれて、陸上部の部活動も終わりを迎えていた。

部員たちがパラパラと片付けをして帰っていく中、優依は振り返り、ポーロが帰り道でもずっと黙り込んでいることに気づいた。そのあまりにも重苦しい様子を不審に思い、彼女は大股で歩み寄ると、首を傾げて尋ねた。「どうしたの? あんた、今日本当に変だよ」


ポーロはうつむいたまま、自嘲気味に小さく首を振るだけで、胸の中にある宿命の重さを必死に押し殺していた。

優依は諦めずに顔を覗き込む。「さっきの休憩の時もそう。本当に、何もなかったの?」

ポーロはもう一度首を振った。やはり、何も語ろうとはしない。


そんな彼の頑なな様子に、優依は少し呆れたようにため息をついた。何か言おうとしたその瞬間、ポーロが不意に足を止めた。


まるで、ずっと迷っていた何かを決心したかのように、彼は勢いよく顔を上げた。その深みのある真剣な瞳が、まっすぐに優依を射抜く。「優依、明日って休みだけど、何か予定ある? よかったら……一緒に映画でも観に行かないか?」


「え……?」

あまりにも突然のストレートな誘いに、優依は完全にフリーズした。驚きに目を見開いた彼女の白い頬が、夕日の残光に照らされながら、見る見るうちに真っ赤に染まっていく。


「な、何言ってるのよ、急に!」

自分の動揺と激しい鼓動を隠すように、優依は慌てて顔を背けると、そのまま小走りで逃げ出してしまった。しかし、少し離れたところで彼女はパッと振り返り、後ろ向きに走りながら、夕日の中で眩しいほどに無邪気な笑顔で手を振った。「じゃあ!!また明日ね!」


遠ざかっていくその活発な後ろ姿を見つめながら、ポーロの固まっていた表情がようやく緩み、その口元に、静かで優しい微笑みが浮かんだ。


マルコと話している途中だった向陽のポケットで、スマートフォンが突然「ブブッ」と激しく震えた。

向陽が不思議そうにそれを取り出すと、画面には優依からの新しいメッセージが表示されていた。


『明日、午後一時に駅前集合ね。 — 優依』


向陽はそのまま呆然と立ち尽くした。横からマルコも首を伸ばし、その文字を覗き込む。

二人の少年は、夕暮れの影の中で顔を見合わせた。。

完全にハモりながら叫んだ。

「……は!?」

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