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ジェルソミーナの話を聞く為に彼女をカフェへ誘ったエルフリートだったが、早速後悔していた。ジェルソミーナの考えを知り、理解すれば説得する方法を思いつく事ができるかもしれないという希望的観測があったから誘ったのが裏目に出てしまったのだ。
ジェルソミーナからすると、エルフリートが自分の話を聞いて歩み寄ろうとしてくれているように思えたようだ。半分くらいはそうなのだが、着地点として考えている方向は真逆だ。
妙に温度差のある状態から始まったこのお茶会は、向かう方向を見失っていた。
「副団長が前向きに検討してくださっているようで嬉しいです!」
「いや、ジェルサ……そうじゃなくてね」
「私がいかに副団長の存在が大切か、もっとお伝えします」
ううん、強い。エルフリートは目の前にあるタルトをつつきながら苦笑する。蜂蜜漬けのレモンとチーズクリームが使用された爽やかなタルトも、ジェルソミーナの話を聞きながらだとこってりとした食べ物に感じてしまう。
ジェルソミーナはいかにエルフリーデが素晴らしいのかについて語り続けている。彼女の手元にあるブルーベリータルトはほとんど口がつけられておらず、食べてもらえる時が来るのをじっと待っている。
「――副団長は優雅で可憐、動きも洗練されていて淑女の鏡のようなのに、騎士としての実力は人一倍。男性の騎士ですら簡単にあしらってしまう素晴らしい実力者なんです」
エルフリートの知るエルフリーデ像は「見目は麗しいが中身は……」というものばかりだ。少なくとも、賞賛の言葉だけで飾り立てられるような評判ではない。
いったい、これは誰から聞いたものなのか――あ、本人からか。エルフリートは半眼しそうな瞼に力を入れて目を見開いた。
無理やり瞬きをして表情を整えれば、ジェルソミーナが「ああ、そういう姿は愛らしくて正に妖精さんのようですね!」と両手を組んで笑みを浮かべている。
明らかに感激している様子の彼女とそれを引いて見ているエルフリートの温度に差がありすぎる。エルフリートがなるべく悟らせないようにと気を付けているから何とか維持されている空気は今にも崩壊しそうだった。
「でも、私一人に能力があっても意味がないよね? 騎士団としての活動は個人の活動じゃないんだから」
「副団長がいるだけで、大きな底上げになるではありませんか」
ジェルソミーナの言いたい事は分かる。だが、一人だけ能力が飛びぬけていればいいという話ではない。エルフリートは口の中を紅茶で満たしてさっぱりさせてから首を横に振った。
「それって、あんまりよくない事なんだよね」
「何でですか?」
「物事にはバランスが必要なんだよ。私が別行動を取るしかない時、私が別の行動をしていて合流できない時、どうするの?」
ジェルソミーナはぱちくりと目を瞬かせ、少しだけ考えるそぶりを見せてから笑顔で言った。
「副団長と何としても合流します」
エルフリートの不在時の話をしているのに、どうやってもエルフリートを登場させようとするのはおかしな話である。頭を抱えそうになりながら、エルフリートは「それは回答になっていないよ」と告げた。
「私がいなくても変わらず機能しなければいけない。それが騎士団というものだよ。それは、私じゃなくてロスがいない場合も同じ」
「でも……」
「誰か一人が欠けたら機能しない、なんていう組織はあってはならない。何の為の組織なのか分からなくなってしまう」
ジェルソミーナは納得いっていない表情でエルフリートを見つめた。どこか恨めしそうにも見える。
エルフリートは彼女の反応を無視して続ける。
「私たちは好き嫌い、一緒にいたい、そんな考えで組織としてまとまっているわけじゃないのは分かっている? 私たちの目的が何なのか、ジェルサは理解している?」
エルフリートに騎士としての心構えを聞かれたジェルソミーナは言葉に詰まってしまった。口を開くそぶりを見せては言葉を発する前に閉じてしまう。
エルフリートは彼女の話を聞いている内に、嫌な事に気付いてしまっていた。ジェルソミーナは、エルフリートが活躍する姿を見たいからこの騎士団に所属しているだけであるのだ。
憧れて騎士になったと言っていたが、それは少し認識がずれていたようだ。
仲の良い友達と離れたくないから同じ学校に行く。同じ職を目指す。それとほとんど同じであるのだと気付いてしまった。
騎士とは、そういう気持ちでいて良い職業ではない。残念な事だが、そんな考えでは人々を守っていく事はできないのだ。
「あなた、本当にこの国の人々を助けたい。守りたいって思っている? この国で過ごす誰かの為に、命をかけても良いって思えている?」
エルフリートの問いに、ジェルソミーナは唇を震わせたまま答えない。彼女がどの答えを出すのかを待つ間、エルフリートは目の前のタルトを胃に収める事にした。
エルフリートに見つめられ続けるのも負担になるだろうという配慮である。だが、ジェルソミーナはエルフリートがタルトを食べ終わっても答えを出しそうになかった。




