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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
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 ジェルソミーナは黙りこくったまま、エルフリートは彼女の発言を待ったまま、気まずい沈黙の時間が流れている。エルフリートは最速すべきなのか悩みながら飲み物を少しずつ口にしては時間稼ぎをしていた。

 エルフリートの質問は答えにくい内容かもしれないが、答えるだけなら難しくはないはずだ。これ以上待ってもジェルソミーナが答えないだろうと結論づけたエルフリートは、ようやく口を開いた。


「……答えられない?」


 エルフリートが真っ直ぐ見つめれば、彼女は悔しそうに唇をきゅっと閉じている。視線は手元に落ち、エルフリートの方には向いていない。

 あれほどまでにエルフリートを注目していた少女が今、徹底的にエルフリートを避けている。ジェルソミーナが騎士という職業について真剣に向き合ってきていなかったのだということは明らかだ。

 エルフリートはその事を強く糾弾するつもりはないが、結果的には似たような事になるだろう。


「私の事を褒めてくれるのは嬉しいよ。ありがとう。でもね、私に憧れて騎士になりたいと言うのなら私と同じような視点で活動してほしいの」


 エルフリートはジェルソミーナに手を伸ばし、そっとその小さな手を包み込んだ。触れた瞬間、びくりと震えた。触れた部分から彼女の緊張が伝わってくる。

 力の込め方に細心の注意を払いながらジェルソミーナの手を握ったエルフリートは、囁くように「ジェルサ、こっちを見て」と言った。エルフリートの声に反応して彼女の瞼がぴくりと動く。


「私に憧れて騎士になろうと決意をしたのなら、今の状態が理想ではないって事は分かるよね? でも、私はそのくらいの軽い気持ちから始まるのは悪い事だけじゃないと思ってる。ちゃんと目と目を合わせてお話ししたいんだ」


 催促はせず、ただゆっくりと待つ。ジェルソミーナの緊張がほぐれるまで、エルフリートは淡々と話し続けた。


「私を目指したいって言うのなら、私がどういう気持ちで騎士として過ごしているのか、騎士がどんな存在だと考えているのか、そういうのを知ってほしいなって思って」

「……」

「さっきも言ったけど、騎士は国民を守る為に存在しているんだよ。でもね、騎士も国民の一人だから騎士が守られる存在じゃないとは思わない。むしろ、騎士自身にも自分を大切にしてほしいって思ってる」


 ジェルソミーナの手が拳を握る。エルフリートはそれを宥めるようにさすりながら続けた。


「最近、戦争があったように絶対の平和というのは存在しないんだ。だからこそ、騎士には騎士としての自覚を持ってもらいたい。そうしないと、大切な命が失われてしまうかもしれないから」

「……副団長は」

「うん?」


 エルフリートは少女の口からぽつりと漏れた声を聞き逃さなかった。


「このまま私が騎士団にいたら、死ぬかもしれないって思っているんですね」

「現時点でって限定するなら、今戦争が起きたら真っ先に死んじゃいそうだなって思ってる」

「それは、私の能力が問題だというのではなく、心の持ちようの問題だという事ですか」

「概ねその通り」


 エルフリートは肯定した。否定するまでもない。


「今の私は、死ぬとすればどんな風に死んでしまうと思いますか?」


 意外な質問だった。てっきり「私はそうならない」だとか「死ぬとは思えない」だとか否定的な反応をすると思っていたエルフリートは思わず瞬いた。

 俯いていた少女は頭を上げ、エルフリートの事を真っ直ぐに見つめ返した。彼女の目には怯えはない。授業を聞いている生徒のような誠実さがあった。


「私のようになりたいと言って、できない事をしようと飛び込んでしまいそう。もしくは、急に私の目の前に飛び出して自爆しそう」

「私が逃げるとは思わないんですか?」

「逃げる? どうして?」


 エルフリートが首を傾げてみせれば、ジェルソミーナは眉間にしわを寄せた。


「だって、私はあなたに憧れているだけで、国民を守りたいという純粋な動機がほとんどない……から……」


 ジェルソミーナの声は小さくなり、最後には囁くような声になってしまった。だが、エルフリートの耳にはしっかりと最後まで届いていた。

 エルフリートは、彼女が逃げるとは思わなかった。今も思っていない。なぜなら――。


「だって、ジェルサ。あなた、私に助けられた事がきっかけで騎士を目指そうって思ったんでしょ? それなら、助けなければならない存在が目の前に現れたら、逃げるなんて単語は思い浮かばなくなるはずだよ」

「え、あ……」


 どうして彼女が戸惑うのかエルフリートには分からなかったが、エルフリートは優しく微笑んだ。


「ジェルサは私みたいになりたいんでしょう? あなたは、きっと逃げられない。私が近くにいようがいまいが関係なく、ね」


 憧れを拗らせた事のあるエルフリートだからこそ分かる。ここまで盲目的にエルフリートを尊敬しているのならば、逃げるという選択肢は頭に浮かばないだろうと簡単に想像する事ができる。

 騎士になるという事について深く考えた事がなかったというジェルソミーナだが、動機の根底にある行動だけは曲げないだろう。


「だから、騎士がどういうものなのか。私の考えをしっかりと聞いてほしい。その上で、私がいなくなった後の話について考えてほしい」


 エルフリートは改めて話をしたいと言えば、今度こそジェルソミーナは頷いた。

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