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ジェルソミーナの攻略は難易度が高い。彼女の思い込みは非常に激しかった。その癖常識的な考えをしている人物であるという点が複雑さを増していた。もし、彼女が非常識な人間であれば、もっとやりやすかっただろう。
非常識であるという点を強く指摘してこちら側の考えを押しつける事も可能だったはずだから。もちろん、強硬的な手段を取る事にはデメリットもある。だが、少なくとも今よりは簡単に解決しただろう。
「ジェルサはね……手ごわいよ」
「そうか」
「うん」
ロスヴィータが手元のペンを弄びながら「この前遠巻きにしてみていた時、彼女に押されている雰囲気を感じたが、その通りだったか」とため息を漏らす。彼女に心配をかけてしまっている。
エルフリートはどうすれば早くジェルソミーナを説得できるのか頭を悩ませる。本当ならば、もっと簡単に話が進んだはずなのだ。このままでは、エルフリートが新人一人説得できない人間になってしまう。
ロスヴィータから失望される事だけは避けたい。ただでさえ情けないところばかり見せてしまっているのだ。これ以上はいけないという事くらいエルフリートにだって分かる。
エルフリートがこっそりとロスヴィータを観察すれば、彼女は小さく頭を振っている。
「私が急に割り込んでも話がややこしくなるだけだろうからな」
「そうなんだよねぇ……」
元々ロスヴィータを巻き込むつもりはない。エルフリートの退団が気に食わないだけなのだから、こじれる要素もない。
「私が女性騎士団を抜ける事は確定していて、何も問題がないはずなのにどうしてこうなっちゃったんだろ」
「この件は、感情の問題だからな。説得は難しいのかもしれない」
「感情だけで動かれるのは、騎士として困る」
「それもそうだな」
騎士として普段から理性的でなければならない。そうであるべきだとエルフリートは思っている。それは、ロスヴィータも同じ考えなのだろう。
感情に振り回されれば、任務をこなしきれなくなる。常に冷静でいる必要があるのが、この仕事だと考えている。
感情が不要だとは思わないし、そう断言してしまえば騎士として大切な部分を見失ってしまう。だが、ジェルソミーナのこれはさすがに行き過ぎだ。
「感情優先でこのまま突き進むのであれば、騎士としての引導を渡すしかなくなるぞ」
「え、そこまで?」
あまりにもきっぱりと言うロスヴィータに身を起こせば、彼女はエルフリートの方をしっかりと見つめていた。心なしかその眼光は普段以上に鋭いように見える。
美しい碧眼は鋭利な光を湛え、今にもエルフリートの事を切り捨ててしまいそうだ。
「犬死にさせたいのか?」
「絶対させたくない」
身震いしてしまいそうなくらいの恐怖を感じたエルフリートだったが、彼女の威圧感に負けないように言い返す。命よりも重いものはない。ジェルソミーナの頑固さに妥協をした結果が彼女の死であるというのは許される事ではない。
騎士は数字ではない。騎士一人ひとりだって大切な国民なのだから。
「死なせたくないのなら、しっかりと彼女を口説いてくれ」
「えっ」
「説得が難しいなら、そうするしかないだろう?」
「無理!」
ロスヴィータがにやりと笑った。あ、かっこいい。目を見開いて彼女の魅力を目に焼き付けてからエルフリートは睨み返す。エルフリートが動揺するのを分かっていてそういう顔をするのはずるい。
ロスヴィータは厳しい事や意地悪な事を言ってエルフリートから何かを引き出そうとしているのだろう。が、何を引き出そうとしているのかエルフリートには見当がつかない。
「私がいなくなった後の女性騎士団を担うのはあなただよ、くらいは言えないのか?」
「似たような事を言った気はするけど……」
「もう少しがんばってみてくれ」
「うぅ……」
エルフリートは再びデスクに突っ伏した。ロスヴィータが笑う気配がする。
「そもそも、どうしてそこまで依存する考えになるのだろうな。原因を探るところから始めても良いのかもしれない」
「え……?」
「我々の意見を押しつけるのではなく、彼女の考えの根本を探っていく方法もありかもな、と思った」
ロスヴィータの言わんとしている事は分かる。どうしてジェルソミーナがここまでエルフリートの不在を恐れるのか。なぜエルフリートの存在を気にするのかという部分に焦点を当てて、その部分を解消する事で解決を目指すという事だ。
確かに、今までは説得しようという気持ちが先に向かってしまっていたようにも思える。
ジェルソミーナの思考を理解できなければ、説得をするのも難しいだろう。試してみる価値はあるかもしれない。
「今度、話を聞くだけっていう気持ちでジェルサとお話をしてみようと思う」
「それも良いな」
「仕事が休みの日に、喫茶店とかでゆっくり過ごしてみようかな。どう思う?」
良い案を思いついたと思ったエルフリートだったが、ロスヴィータが半眼するのを見て口を閉じる。
「……私を放ってジェルサとデートか」
「そ、そういう意地悪な事言わないで!」
「ははは、大丈夫だ。彼女との仲を気にしたりはしない。事情を知っているからな」
エルフリートの心から焦る声に、ロスヴィータは軽やかに笑って応えるのだった。




