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想定外の事ばかり起きた山岳訓練は、様々な課題を見つけ出すのに十分意義のあるものになった。人数が増えれば問題が起きやすくなる事、騎士学校卒の人間がほとんどだったとしても精神的な訓練が不足していて従騎士くらいの気持ちで考えていないといけない事、山岳訓練を実施するには少し早かった事などを筆頭にたくさんあった。
少なくとも、こういった訓練は騎士たちの絆をもう少し育ててから実施した方が良かったかもしれないなというのがエルフリートの考えだった。今までは騎士学校卒の人間が少なかったからか、訓練中は個人の感情よりも集団での活動を優先させる人間ばかりだった。
騎士学校ができた事によって能力の底上げが可能になったのは事実だが、精神面を鍛える側面が減ったのだろう。騎士学校に通わず、自力で女性騎士になるのは難しい道のりだ。
身内に応援してくれる人がいなければ騎士になる事は不可能に近いはずだ。女性騎士という職業が珍しいから、というのもあるが、魔法や剣技を磨く為には師となるべき人間が必要だ。
簡単に身につける事のできない技術である。見よう見まねでそれなりに動けるようになるかもしれないが、それ以上の成長は見込めない。
魔法も武術も、基本というものがあるのだ。どんな仕組みなのか分からなくとも何となくでできてしまうような天才ばかりではない。
つまり、協力してくれるメンターが必要なのだった。
エルフリートにとっては周囲の環境が先生のようなものだった。両親、周囲の人間、そして自然環境自体、全てが師であった。ロスヴィータの場合は身内に騎士――それも特別素晴らしい騎士――がいた。
マロリーは魔法を教えてくれる教師がいて、剣術は護衛騎士が教えてくれたのだと言っていた。バルティルデは生まれながらの傭兵だ。エルフリートのようにそうなるべくしてなったという感じなのだろう。
騎士学校は周囲の環境が整っている。そういう意味では、大きな覚悟は必要がない。自分で師匠となる人間を探すか、周囲の人間の伝手に頼るか、いずれにしろ「やりたい」だけで何とかなってしまう世界ではない。
いつか、そういう簡単な動機でも騎士を目指す事ができるくらい女性騎士という存在が普通の職業になる日が来ると良いとは思っている。
「フリーデ」
「あ、うん。何?」
エルフリートの長いため息が気になったのだろう。ロスヴィータがペンを持った手を止めてエルフリートの事を見つめていた。
今日の二人は執務室で書類を整理する日だ。毎日少しずつは片付けているのだが、どうしても溜まっていってしまう。それを解消する為に、まとまった時間を取る事にしていて、今日がその日なのだった。
「何か気になる事でもあったのかと思ったのだが」
「あー……いや、うん。騎士学校に通うと精神面でちょっと幼くなっちゃうのかなって」
エルフリートはそう言って、さっきまで頭の中でぐるぐると巡っていた思考をロスヴィータに説明する。彼女は考えるそぶりを見せ、それから軽く頷いた。
「……なるほど、そういう考えもあるのか」
「精神面を鍛えるって簡単じゃないと思うから、どうしたらいいのかなって。課題に入れるって言っても難しいじゃない?」
「それもそうだな」
精神力を鍛えるというのは難しい。困難な環境に身を置いて成長するのを待つ、というのがある意味自然な育て方かもしれないが、時間がかかりすぎる。かといって「精神とは」と学問的に勉強させても理屈っぽくなってしまって良くない気がする。
精神の強さは座学で何とかなるものではない――はずだ。少なくとも、勉強したからといってすぐに実行できるものではない。剣術の基礎や魔法の基礎を学んだところで実際に技能が伸びるわけではないのと同じである。
「我々とは違うからな」
「その通り。騎士になるにはどうすればいいのか考え抜いて自力で頑張ったとか、元々そういう教育を受けていて土台があったとか、そういうわけじゃないから」
エルフリートの言葉にロスヴィータが小さく唸る。難しいよね。私もそう思うもん。エルフリートは心の中で彼女に同意する。
「騎士学校を卒業した騎士は、従騎士と同じだと思った方が良いかもしれないな」
「あ、それ私も思った」
「はは。気が合うな。だが、従騎士ではなく騎士としての入団だ。その対応はできない」
「そうなんだよねぇ」
ロスヴィータが困った表情で笑う。エルフリートも同じ気持ちだ。
「どうすれば鍛えられるのか、真面目に考えた方が良いな。今度の議題にしよう」
「はぁい」
ロスヴィータがメモを書きながら「そういえば、なんだが……」と言いにくそうに切り出した。
「彼女の件は大丈夫なのだろうか?」
「彼女って?」
「ジェルサだ」
「ああ……そっちは、まだ」
エルフリートはデスクに突っ伏した。ジェルソミーナとは、まだ和解できていない。ゆっくりと対話をする時間が取れていないというのもあるが、彼女の思い込みがあまりにも強すぎるゆえに苦戦していたのだ。




