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予定を大幅に変えての訓練は、予想以上の効果があった。ジェルソミーナという不安定要素はあったが、揉め事を起こしていた面々は大人しくなっているし、全体的な雰囲気も前のようにピリピリとしていない。
とはいえ、肉体的な疲労は順調に積み重ねられている。それが如実に彼女たちの表情に現れていた。
「ここの騎士のみなさんってすごいですね。こんな場所で長時間過ごすなんて……」
ジェルソミーナがエンリケの後ろ姿を見つめながらエルフリートに話しかけてくる。エンリケは弓の扱いについての質問をしてきたニコレッタにアドバイスをしている最中だ。
エンリケの弓の扱い方から、弓のしなり具合や弦の調整などの話をしているのが分かる。
「自然が多い領で過ごされていた副団長も、こういう場所があるんですか?」
「えっと、ジェルサ?」
「私、クノッソ領の騎士のみなさんがこうして活動している姿を見て、考えを改めたんです」
嫌な予感がする。エルフリートはその予感が外れていてほしいと思いながら話を促した。ジェルソミーナはエンリケを見つめていて、こちらを見ようとする気配がない。
この前の事を考えると、あまりに不自然な気がしてしまう。彼女はエルフリートに背中を見せたまま話し始めた。
「私、副団長が引退したら、私も女性騎士団を退団してカルケレニクス領の騎士になりたいです」
「え?」
ジェルソミーナの頭がゆらゆらと左右に揺れる。
「分かっています。副団長がカルケレニクス領にいないって事は。だからこそ、私はカルケレニクス領を守る人間の一人になりたいなって……」
「ごめん……それは考え直した方が良いよ」
エルフリートは即答した。そもそも、カルケレニクス領にいる騎士は少数精鋭である。残念ながら今のジェルソミーナにその実力はない。
頑張っても領兵止まりである――が、カルケレニクス領の領兵は領民である。わざわざ外部募集はしないし、する必要もない。カルケレニクス領は、良くも悪くも全て自給自足できるのだ。
「あのね、カルケレニクスは外部の人手がほとんどいらない土地なんだ」
「いらない……?」
「うん。そう。領民だけでだいたいの事が完結しちゃうの。だから、騎士や領兵の募集はしていないんだよね」
「そう、なんですか……」
エルフリートはジェルソミーナがカルケレニクス領で何をしたいのかについては触れず、事実だけを伝える。実際はカルケレニクス領に戻ったエルフリートが“エルフリート”としてジェルソミーナに会わなければならないのが不安だからなのだが、それを口にするわけにはいかない。
エルフリートがエルフリーデとして過ごしている事を知られるのも、過ごしてきた過去を知られるのもどちらも避けたい。少なくとも、エルフリートに対して執着を見せる人間を近くに置いておくのはあまり良い考えとは言えなかった。
エルフリートは自身の意図を気取られないように言葉を重ねていく。
「クノッソ領はボルガ国と隣接していて、実際に人が迷い込む事もあるくらいの地形だから人手はどれだけあっても嬉しいだろうけど、カルケレニクスはそうじゃないんだ。だから、ジェルサがそう言ってくれるのは嬉しいけど……私は、あなたがこの女性騎士団で活躍してくれる方が嬉しいな」
「……」
カルケレニクス領はジェルソミーナを必要としていない。ときっぱり言いきる事はできず、話の軸がずれた言い回しになってしまった。
「――副団長は」
「うん?」
ジェルソミーナが振り返った。彼女の前髪が揺れ、隙間から凛とした目が覗く。
「私がここで活躍できるとお考えですか?」
あっさりとカルケレニクス領で騎士生活を送るという考えを捨てた事を意外に思って反応が送れてしまった。彼女は目を伏せ、それから再びエルフリートを見つめてくる。
その意味深な動作にエルフリートは瞬いた。
「私は、あなたがこの騎士団から去ってしまうのを受け入れるべきですか?」
「えっと、ごめん。ちょっと分からなかったんだけど……ジェルサが今後活躍できるかどうかと私の退団を受け入れるべきかという内容って関係ある?」
話をずらそうとしたのはエルフリートだったが、ここまで話が壊れるとは考えていなかった。エルフリートの戸惑いに対してジェルソミーナは首を傾げた。
話がおかしな方向に向かっている自覚がないようだ。
「私が女性騎士団の一員でい続けるという事は、あなたが引退する事を受け入れなければいけないという事です」
「……そうなの? じゃあ……さっきの話は私の引退を受け入れた上で、退団してカルケレニクス領の騎士になりたいと言い出したわけじゃないって事?」
「私はあなたを失う事を耐えられる自信がありません」
すごい言い方だ。エルフリートは表情を変えないようにするだけでいっぱいいっぱいだった。
「うーん……そこまで言ってもらえるほどの事はしてないんだけどな」
これはどうしたものか。エルフリートは心の中でため息を吐くのだった。




