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全員が同じ場所にいられるほどの広さはどこにもない。樹上の通路や踊り場などに分散した状態で目的地周辺に集まる事になる。殿になっているエルフリートからだとロスヴィータの姿が見えない状態だったが、ロスヴィータと揃いの魔法具から彼女の声がそのまま聞こえてくるから問題はない。
エルフリートはロスヴィータの語りを一字一句間違えないように再現する。
「私の声が聞こえる者は私の声を。そうでない者はフリーデが続いて同じ内容を話すから彼女の声を聞いてくれ。
聞こえない者がいたら、合図をしてくれ。大丈夫そうだな。では、説明を始める」
ロスヴィータとエルフリートの声は決して大きくはない、が小さくもない。この周辺に関係者以外の立ち入りがない事を事前に確認していたから、声量については常識の範囲内であれば大丈夫だと分かっていたからこその説明方法だった。
この通路を知られるわけにはいかないから、少しでも第三者の存在という懸念材料があれば、そもそもここに女性騎士を集めたりしない。エルフリートはロスヴィータの代わりにこの場所がどういうところなのか、誰が何をしているのか、などの説明を続ける。
ロスヴィータの言葉をそのまま口にするのは苦ではなかったが、一番近くにいるジナイーダが、なぜか百面相をしているのが気になって仕方がない。エルフリートは気が散りそうになりながらも最後までロスヴィータの伝言係をやり遂げた。
「では、この話を聞いて先ほどの移動は適切だったと思う者は挙手してくれ。……まあ、そうだろうな。あなたたちの移動は控えめに言っても賑やかだった。そんな移動をしていたら地上を歩く人にすぐに見つかってしまうだろう」
魔法具越しにロスヴィータが笑う気配がした。きっと、ロスヴィータの見える範囲にいる騎士で動揺を表に出している人がいるのだろう。
「これから正しい歩き方を指導する。それが終わったら現場の騎士と交流する時間だ。とても勉強になるはずだから楽しみにすると良い」
エルフリートはロスヴィータが歩き方の指導に入ったタイミングで復唱するのをやめた。エルフリートの近くにいるのは、自力で歩けるものの負傷中のジナイーダを筆頭に、体力的に厳しいメンバーと補助の為に待機していたバルティルデたちだ。
「バティ、ここは私に任せてもらって、中央部分で指導しにくい子たちの面倒をお願いしても良いかな?」
「任せときな。中途半端な場所で突っ立ったままになってるなんて時間がもったいないからね」
「ありがとう!」
バルティルデはエルフリートに笑みを向け、すれ違うのも一苦労なほどに細い吊り橋をすたすたと歩いていった。「はいはい、ちょっとどいてね」と言いながら、驚く少女たりの隙間を塗って移動する姿は蛇のようだ。
エルフリートは一瞬そちらに意識を奪われてぼうっとしてしまった。
「副団長……」
ジナイーダが控えめにエルフリートの事を呼ぶ。慌てて視線を向ければ、視界の中にじとっとした目つきで見てくるマロリーの姿も入り込んできた。視線だけで人を凍らせる事ができそうだ。
エルフリートは彼女の毒舌が披露される前に、と慌てて口を開く。
「ごめんね、本題に入るよ。まずは、分かりきっていると思うけど、前提からね」
エルフリートは近くの縄をぎゅっと掴み、ゆっくりと揺らした。
「見て分かる通り、吊り橋は簡単に揺れて安定感を失っちゃうんだ」
エルリートに揺らされた影響が強い場所にいるジナイーダが「ひぇ」と小さな悲鳴を上げる。エルフリートは一旦聞かなかった事にした。訓練中は真面目でいるつもりなのだろう。いつの間にかエルフリートが面倒を見るメンバーの中に入っていたジェルソミーナがジナイーダの事を睨んでいる。
なんか、怖い。ひとまず二人の事は無反応でやり過ごす事にしたエルフリートは指導を続ける。
「安定を失った状態だと、吊り橋はかなり揺れるって事が分かったかと思うんだけど、これはもう一つの問題を引き起こす。
それが、音」
何人かが首を傾げた。音というのは意外と大切なものだ。人が存在しているか判断するのに音を使う事だってあるくらいだ。新人だからピンと来ないのだろうが、そののんびりとした状態のままで過ごされると今後の活動に響いてしまう。
エルフリートは表情を引き締めてなぜ音が問題になってくるのかについて語った。
「ここは自然にあふれていて、常に何かしらの音がしている。無音はあり得ない。けどね、自然に存在しない音って、目立つんだ」
縄や木の板が軋む音は目立つ。些細な音だと思うだろうし、普通の人はただそれだけなのだろう。だが、侵入者は違う。常に不自然なものがないか、気を張っているのだ。
そんな時に音がしたらどうなるか。隠された通路が暴かれてしまう事になるだろう。
「静かに移動する。静かに過ごす。これってみんなが思っている以上に大切な技術なんだ。今日は不安定な場所を静かに移動する技術を覚えようね」
エルフリートはそう言って締めれば、全員が緊張したような硬い表情で頷き返した。




