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ロスヴィータはニコレッタに頷くとエルフリートに一瞬視線を向けた。エルフリートは彼女が話を進めようとしているのだと理解して口角を上げた。
「良い回答だった。では、これから先は木の上を移動する時間だ」
「景色が良いからって気を抜くと落ちちゃうから気を付けてね」
ロスヴィータの言葉にエルフリートが続ければ、彼女は「さすがにそれはないだろう」と小さく笑った。くすくすと笑い声があちこちから聞こえてくる。息切れを起こしていた騎士も笑っている。良い休憩になったようだ。
エルフリートは近くの木に手を添える。そこには上に登る為の仕掛けが隠されていた。木のうろに隠された突起を引くと、樹上からタラップが降りてくる。縄を結んだ瘤が均等に作られただけのそれを掴んで振り返る。
「みんなはこれ、使い方分かるよね?」
瘤を足場にして縄を伝って登るだけだから、指導するほどの事でもないはずだ。少なくともエルフリートはそう思っていたのだが。数人の反応が芳しくない。首を傾げてあからさまに理解できていないという仕草をしている者までいる。
エルフリートが思わずロスヴィータを見つめれば、彼女は密やかに息を吐いて「私に続きなさい」とだけ言って縄に触れる。説明するよりも見せた方が早い、という事だろう。ロスヴィータの邪魔にならないよう、エルフリートは一歩下がった。
「はいはーい、順番に登ってね。もたもたしてると後ろが詰まっちゃうから、のんびりしていないで。あ、でもうっかりさんがいるかもしれないから気を付けて」
少女たちを手招きしながらエルフリートはまくし立てる。エルフリートは万が一足を滑らせて落ちてしまう事がないように、見守りに徹するつもりですぐ近くに控えていた。ロスヴィータに続いてエイミーが縄を掴む。さすがに彼女は手慣れた様子でするすると登っていく。
ある程度登ったのを見て次の騎士を登らせる。それを人数分繰り返しーー残るはジナイーダとバルティルデ、マロリーだけ、というところまで進んだ。
「バティ、ジーナを頼める?」
「それは良いけど、本人に自力で登れそうか聞いてからにしても遅くはないんじゃないかい?」
「あ、そっか。ジーナ、やれそう?」
ジナイーダは視線を泳がせる。あまり自信はなさそうだ。エルフリートとバルティルデは目配せした。バルティルデの目元がゆるむ。彼女はジナイーダを背負って登る事を決めたようだ。もちろんエルフリートはそれに賛成だった。
「んじゃ、あたしがおぶってあげるから乗りな」
「えっ、あっ……」
ジナイーダを背負う為に彼女に背を向けたバルティルデを見て、本人が戸惑いの声を上げる。初々しくて可愛いが、それをのんびりと楽しんでいる場合ではない。エルフリートは「時間がないから、さっさと背負われちゃって」と急かす。
既に二人が登りきるくらいの時間が経っている。上で待っている騎士の迷惑にもなる。マロリーの視線が冷たいものに変わる前に、ジナイーダがこれ以上圧を感じる事になる前に、何とかしてあげたかった。
「ほらほら」
「はい、お世話になります」
「礼儀正しいのは良い事だけど、緊急時はそんな余裕ないからね。こういう時の遠慮は捨てな」
バルティルデの言い回しはきついが、その声色は優しかった。ジナイーダがバルティルデの首に両腕を回してしっかりとおぶさると、バルティルデは人一人を背負っているとは思えない身軽さで登っていった。
相変わらずすごい。エルフリートは彼女たちが落下する可能性など考えずにぼうっとその光景を眺めてしまう。マロリーに小突かれるまで、口をぽかんと開けたまま見入っていた。
「フリーデ、ちょっと何ぼうっとしているのよ」
「あ、つい……」
「気持ちは分からなくもないけれど、私たちも早く行かないと」
「そうだね。急ごう!」
気を取り直したエルフリートが頷くと、マロリーは「お先に」とだけ言って縄を掴んだ。マロリーも縄を大きく揺らす事なく綺麗に登っていく。マロリーの姿が見えなくなる前にエルフリートもその後に続いた。
樹上に登り、タラップの仕掛けをもとに戻す。
「フリーデ」
「マリン」
「みんな、移動してるわ」
「まあ、そうだよね……」
この場所に全員が立ち止まっていたら重量過多で通路が駄目になってしまう。男性騎士よりも基本的に女性騎士の方が身軽だとはいえ、さすがに耐えきれないだろう。
最後尾を見失っていない上、向かう場所は決まっている。エルフリートはマロリーと共に歩き出す。
軋む吊り橋を揺らしすぎないように気を付けながら移動する。が、目の前が揺れている。吊り橋に慣れていない何人かが揺らしてしまっているようだ。
「うわ、ちょっと激しいよ」
「……全く」
エルフリートが困惑の声を上げている近くでマロリーが不機嫌そうなため息を吐いた。ああ、これ……後でみんなが鍛え直される奴。エルフリートは少女たちがマロリーに絞られる姿を脳内に思い浮かべ、こっそり苦笑するのだった。




