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段差を問題なく突破した女性騎士団は、そのままエルフリートが想定していた通りの流れで目的地に到着した。途中で転倒の発生――どうやらジナイーダは昨日の怪我のせいで足元が危ないようだ――はあったものの、大きな影響はなくて済んだ。もちろん、ジナイーダは無事だ。
エルフリートは懐かしい場所を見上げてひと呼吸置くと、ロスヴィータと共にちらほらと息切れを起こしている姿を見せる部下たちを見回した。
「さて、ここが目的地なわけだが……何か気付いた者はいるか?」
ロスヴィータがそう問いかけると、少女たちは周囲を見回した。答えを知っている一部の騎士はロスヴィータに向かって目礼して目を伏せる。
女性騎士団として、この場所に訪れるのは初めてではない。記憶力が悪くなければ、何人かは移動中にどこへ向かっているのか見当が付いていただろう。
大人しくしている先輩たちに視線をちらちらと向けていたニコレッタがおずおずと手を挙げる。弓矢作りでも活躍していた彼女は、こういった自然環境での活動が得意なのかもしれないなとエルフリートは感じた。
彼女の良さを伸ばせば、エルフリートやバルティルデの代わりにこういった環境下での未来の指揮官や指導役を担う人材になれるかもしれない。
エルフリートはそんな事を考えながら、ロスヴィータと一緒に彼女が口を開くのを待つ。
「わざわざ質問されなければ気付かなかったと思いますが、ここは樹上に通路があります」
「どうしてそう思った?」
正解だとも不正解だとも言わずにロスヴィータが問い返すと、彼女は小さく視線を泳がせてからある一点を指さした。よく見なければ分からないが、ニコレッタが示した場所には樹木の葉の隙間から縄が覗いている。
なるほど、彼女はとても目が良いようだ。エルフリートは今後への期待に胸を膨らませた。
「人工物が不自然な場所に見えているという事は、ここには何かが隠されているのだと想像できます。でも、隠す必要があるものは限られています」
「そうだな」
「私には二つの候補がありました。一つ目は偵察用のツリーハウスだとかデッキ。二つ目は移動手段としての空中回廊や吊り橋。どちらもあり得ると思います」
ニコレッタは話す事に慣れてきたのか、どもったりする事もなく、すらすらと己の意見を口にする。
「ただ、この場所は監視する為の空間がありません。こうして縄が見えてしまう事から、大きな空間を用意すると隠しきれなくなったり不自然な偽装工作をする必要が出てきてしまいます。
なので、私は二つ目の候補である移動手段が隠されているのだと考えました」
堂々とした発言に、周囲の騎士たちの視線が感嘆を含んだものへ変わっている。特にエイミーはキラキラとした目で彼女を見つめている。エイミーはこの場所について知っているものの、隠されているものを見つけ出すという課題の意味では何も分からなかったようだ。
洞察力を育てる必要のある人間がいるようだったが、ニコレッタの解説はほとんど満点だった。
「では、どうしてそんなものがここに存在しているか分かるか?」
「えっと……」
ロスヴィータが意地悪な質問を投げかける。これは騎士団の中でも一部でしか知られていない話である。それをニコレッタが把握しているかどうかは分からない。
女性騎士団が最初にこの地へ派遣されていたという事実からある答えを導く事はできる。だが、それが簡単にできるかどうかはエルフリートには分からない。
「この場所って、女性騎士団と縁があるんですよね?」
「どうしてそう思う?」
「例年ここで訓練を行っていると聞いたからです。あと、詳しい事情は知りませんが、ガラナイツ国へ向かう前に団長たちがこの地へ立ち寄ったと聞いています。
という事は、この地で何か戦争に準じる出来事があったのではないかと想像できます」
ニコレッタは思考力も優れているようだ。彼女は「想像」と言っているが、これは「推察」だろう。エルフリートはにやけそうになる表情を引き締めて普段通りの表情を保つ。
「ふむ」
「戦争の気配がする場所へ向かうのであれば、ここに寄らずにガラナイツ国へ直行すべきです。そうすれば、もっと早く戦争も終わったかもしれません」
「一理ある」
ロスヴィータが頷いた。エルフリートは思ったよりも堂々と発言するニコレッタに感心しっぱなしだ。
「なのに、そうはしなかった。できない理由があったのだと……あ、すみません。これ以上は私の妄想になってしまうので……」
「いや、構わない。だが、恐らくあなたの妄想は合っているよ」
「えっ」
目を見開いたニコレッタは、自分の中にある答えの重さに驚いたのだろう。
「だからこそ、ここで質問するのはやめておこう」
「はい。分かりました」
彼女はそっと目を伏せ、口を閉じた。




