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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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 説明を終え、全員がやるべき事を把握した女性騎士団は移動を再開した。小隊規模ではない連携は初めてだったが、移動開始直後のことを考えれば雲泥の差だった。

 ロスヴィータとエルフリートは当初と同じ速度で移動する。待機する時間や打合せをする時間のせいでスケジュールは押していたが、移動速度を上げすぎれば可能な事も不可能になる。

 全員が脱落するのを防ぐ為に作戦を立てたのだから、全員がついてきてくれなければ意味がないのだ。


「ロス、ちょっと大変だけど最短距離にする?」


 エルフリートたちは分かりやすさを考慮したルートを移動しているが、少しだけ難易度を上げれば最短距離を移動するルートも存在している。追跡のしやすさという点では進められないが、距離が開かないで全員がついてきている状態であれば、このルートを選んでも問題はないはずだ。

 隣を移動するロスヴィータは一瞬だけエルフリートに目を向けると「そうだな」と言いながらも微妙な表情をした。やや険しい表情をしているから、どうやら気になる事があるらしいと察したエルフリートは目の前に現れた木を避けながら問いかける。


「問題が発生しそう?」

「……あのルートは大きな段差があるが大丈夫か?」

「小さな崖の事?」


 エルフリートはロスヴィータが気にしている段差(・・)を脳内に思い描く。エルフリート四人分くらいの高さの小さな崖がある。普通であれば、ここを迂回する必要があるのだが、最短距離を移動すると考える時には迂回を考えてはいられない。

 分かりやすさを考慮したルートでは、ここを迂回し、かつ見失われないようにと大回りするものになっていた。


「そうだ。私はあなたの補助魔法で飛ばしてもらわないと登るのに時間がかかってしまう。となれば、後続している彼女たちも同じだろう」

「そうだね」

「その余力はあるのか? 移動速度を上げるだけの方が容易いのではないか?」


 単純に移動速度を上げた方が無難なのではないかと言われたエルフリートは、自分がどうしてこの提案をするに至ったのかを説明する必要性を感じた。


「余力という点で考えると、崖登りで移動時間を単純に短くした方が負担は少ないんだよね」

「なるほど……」

「単発の魔法の方が難易度が低いのはロスも知ってる通りだと思うんだけど、移動時間が短くなれば同じ魔法を行使する回数が減るから、結果的には移動速度を上げる為に強い魔法をかけるよりましなの」


 エルフリートの説明にロスヴィータは「つまり」と続けた。


「移動用の補助魔法や崖を登る時の魔法の負担を一にたとえた場合、予定している通りに移動すると合計で十になるとする。崖を登るルートの時には、それが八になる。

 だが、移動用の補助魔法を強化するとなれば――」

「強化しただけ持続時間が減って、魔力の消費が倍近くに跳ね上がる。となると、同じ時間で到着する速度になるように強化して簡単なルートを移動した場合の負担は十四」


 距離と短縮される時間、かけ直しの回数を思い浮かべながらエルフリートがロスヴィータの言葉を完成させた。


「崖の方が、かなり楽なのか」

「うん」

「だが、崖登りは全員が驚くのではないか? 下手をすると崖を上るという事を思いつかない可能性もあるが」

「さっきみたいに集合するのを待って『ここを登るよ』と『上り方の指示』をすればいいよ。それくらいの説明なら一分あれば足りるもん」


 何の魔法を使えばいいのかまで指示してしまえば、簡単に解決できるはずだ。エルフリートがそう言えば、ロスヴィータは「それもそうか」と小さく笑う。

 エルフリートとロスヴィータがそんな事を話し合っている内に、問題の最短距離を移動する為の分岐点ともいえる場所を通過した。もちろん最短距離のルートを選んだ。

 最短距離のルートから少しずつ遠ざかっていくような形で存在している追跡簡単ルートは、ついにお役御免になったのだった。


「ロス、崖登りは先陣お願いね」

「分かっている。あなたが先に行くわけにはいかないのだからな。どうせ、私の事は説明をするついでに飛ばすのだろう?」

「あはは、その通り。デモンストレーションは必要でしょ?」


 ロスヴィータは「必要な事だから構わないが、指導は安全第一で頼む」と苦々しい声を出す。明らかに、デモンストレーションに使用される事が不服だと言いたげだ。

 やだなあ、私ってそんなに信用ないかのかなあ。ロスヴィータの反応に小さく傷ついていると、彼女は「勘違いされる前に言っておくが」と切り出した。


「私はあなたの腕を心配しているわけではない。あなたが実力があるからこそ、部下の彼女たちが失敗しないかを心配しているだけだ」

「うん?」


 エルフリートの能力が十分だからこそ、部下の失敗が心配というのはどういう意味なのだろうか。エルフリートは首を傾げた。エルフリートが大丈夫なら、彼女たちも大丈夫のはずだ。

 何が失敗に近付く原因になるのかが分からない。


「あなたの真似をして失敗する子が現れないか、の方が心配だという話だ」

「ああ!」

「あなたは簡単にやってのけるだろう? それに準じて適当に魔法を使う者が現れないとは限らない」

「丁寧に説明します」

「よろしい」


 ロスヴィータの懸念は尤もだった。エルフリートはそうならないよう、しっかりと言葉を重ねて説明する必要がある。エルフリートは片手を上げて宣誓のポーズを取り、ロスヴィータに誓うのだった。


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