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ジェルソミーナの説得はできなかったが、彼女の猛攻はロスヴィータの介入であっさりと終了した。一対一でなければ、このやり取りをする気はないようだ。
エルフリートとロスヴィータはジェルソミーナを持ち場へもどしてから自分たちのすべき作業をしに移動する。
もちろん、この作業というのは――。
「さっきのはどういう事だ? 説明がほしい」
ロスヴィータが半眼でエルフリートを見つめている。腰に手を当ててこちらを見るさまは、さながら説教をする教師のようだ。
エルフリートは叱られる子供のように身を縮こませて苦笑する。
「私が退職するのが嫌なんだって」
「――それだけか?」
ロスヴィータが疑いの目を向けてくる。彼女の気持ちはよく分かる。エルフリートだって、たったそれだけの事であんなに食い下がってくるとは思わなかったのだから。
ジェルソミーナはエルフリートが考えているよりも、エルフリートに傾倒しているようだった。だが、エルフリートの言葉を聞く耳を持っていないのであれば、エルフリート一人でどうこうできる話ではない。
「私の事、女性騎士団には欠かせない存在だとか言ってたよ。あとは、私がいないなら消えてなくなりたいとか……ちょっと過激な言葉もあった」
「……熱烈なファン、という事か?」
「分かんない……」
ロスヴィータは口を閉じると考え込んでしまった。彼女が顎をなぞりながら考えに耽る姿をエルフリートは見守る。ロスヴィータにとっても難題であるようだ。
人間の思考というものは、いつも不可解だ。読み切れない。女性騎士団の一員になってから何年も経つが、人々の感情を読み切り、何もかもを順調に動かす事ができた事は多くはない。
ジェルソミーナがこれからどんな行動を取るのか、エルフリートにはあまり想像できなかった。このまま、エルフリートが一人になる時を見計らって何度もアタックしてくるのか、周囲を巻き込んだ活動を始めるのか、全く分からなかった。
「――ジェルサは」
「うん?」
ロスヴィータが複雑そうな表情でエルフリートの事を見つめる。エルフリートは思わず姿勢を正した。
「彼女は、あなたの事をどういう意味で好いているのだろうな」
「へ?」
思わぬ言葉にエルフリートが首を傾げれば、ロスヴィータは視線を逸らした。
「その、人間としての好きなのか、尊敬なのか、恋愛としての好きなのか、騎士としての憧れなのか……」
「うーん、直接それは言われなかったから、どれなのかは分からないよ」
「まあ、そうだろうな」
ロスヴィータは区切ると、ちらりとエルフリートを見てすぐに視線を明後日の方向へと向けた。彼女から、あからさまに気まずいという空気が漂っている。
「いや、感情の種類によっては対処法が変わってくるのではないかと思っただけだ」
「……ふぅん?」
エルフリートはロスヴィータの状態に気付いていないふりをして近寄った。顔をよせて見つめれば、エルフリートのあからさまな視線に耐えきれなかったらしい彼女がこちらを見た。
ほとんど差は出ていないが、彼女の目元がほんのりと色づいている。
「別に嫉妬ではない」
「それはそうでしょう」
「く……っ」
「でもまあ、ロスの言う事は一理あると思う」
エルフリートはジェルソミーナの反応を思い出そうとする。が、彼女とのやり取りに疲労した事が思い出されるだけで。
何の意味もなさなかった。
「うーん、どの感情もありそうと言えば、ありそう……」
「どういう事だ?」
急にロスヴィータのトーンが下がる。
「え?」
「ああ、いや。あなたがどうしてそんな風に考えているのかが知りたかっただけだ」
時々ロスヴィータが嫉妬を混ぜてくる事を面白く――ではなく、嬉しく思いつつ、エルフリートは自分の感じた事を口に出していく。
「憧れって言うには、ちょっと感情が強かったかなって。あと、じっと見つめてみたらすごく照れた」
「見つめたのか?」
うん? エルフリートはロスヴィータが食いついてきたポイントが思っている場所と違う事に内心首を傾げる。
ロスヴィータに気付かれないよう、素知らぬ顔で首を縦に振った。
「だって、過激な事を言ってくるから目を逸らしたらまずいかと思ったんだ」
「過激な事というのは――」
「私が引退するなら私も消えたい、みたいな事」
「ああ、なるほど……確かに、そういう視線からは逃げない方が無難か」
ロスヴィータが安堵の吐息をそっと漏らしたのをエルフリートは見逃さなかった。どうやら、少し前に話をしていた懸念を思い出して内心で焦りを感じているようだ。
エルフリートはそれらの事に気付かなかったふりをして、ジェルソミーナの対応についてロスヴィータと話を詰めるのだった。




