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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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 ロスヴィータを宥めるような状況になってしまったという事は、エルフリートに大きな困惑と小さな喜びを与えた。ジェルソミーナの対応については、彼女の様子を見ながらになるが、おおよその方向性は決まった。

 彼女の説得が難しいのであれば、エルフリートたちの言葉が彼女に伝わりやすくなるように徐々に変えていくしかない。急いで今すぐどうにかしないといけないものでもない。


 女装がバレて大惨事、くらいにならなければ急がなくても問題はない。少しだけ、普段の日常にちょっとしたおまけがついて回る程度の事だからだ。

 そのおまけが、エルフリートの憂鬱な気持ちを引き出すのだが。


「ロス」

「ああ……そろそろか」


 ロスヴィータが重だるそうに頭を揚げる。その目には明らかな疲労が滲んでいた。睡眠不足、度重なる少女たちの暴走、そして女性騎士団の引率者としての責任。何もかもを投げ出したくなるだろう。と、エルフリートは思う。

 ロスヴィータはエルフリートと共に集まってくる女性騎士たちが揃うのを待つと、一人で一歩前へ踏み出した。

 今日の予定についての話があると事前に聞いている少女たちは姿勢を正してロスヴィータを見つめている。


「現在進行中の訓練は、後日に再度訓練で対応する事ができない。予定は大幅に変わるが国境付近まで移動し、樹上の通路や先輩騎士に会う時間を作る事にした」


 ざわざわと囁き声の波が広がった。エルフリートは当然だろうなと思う。訓練が、見学へと変わったのだ。ロスヴィータやエルフリートが考えているのは見学ではないのだが、現時点では見学であるように受け止められても仕方がない。

 ただ、これは現場に行った方が話が早い。少女たちにあの光景を見せてから、話をすべき事なのだ。


「動揺する気持ちがあるのは分かる。だが、特別な訓練になるし、あたなたたちにも良い経験になる事は間違いない」


 ロスヴィータの話を聞いているのかいないのか、ジェルソミーナだけはエルフリートの方を見ている。あからさますぎる態度に彼女を叱りたくなる。そもそも突然態度を変えてくるというのは良くない事だ。

 今まで通り、何事もなかったかのように振る舞うのであれば問題はなかった。エルフリートは彼女の視線をあえて無視し続けた。


「向かう場所はまだ秘密だ。我々についてくる事。代わりに頼む事がある。フリーデ」

「はぁい」


 エルフリートはロスヴィータの隣に並び立ち、全員を見回した。話者がエルフリートに変わっても、ほとんどの騎士は表情を変えなかった。スケジュールが変更になった事以上の問題は発生しないと思っているのだろう。

 エルフリートは彼女たちの期待を裏切る事になる。


「私やロスヴィータが先頭を移動するから追いかける事。

 移動速度は通常の行軍とは違う。はぐれないようにしつつ、どこを自分が移動しているのかを理解する事。目的地から帰る時に、私たちは案内をしないから早く帰りたいなら真剣に取り組んでね」


 エルフリートの口から急に試験のような内容が放たれた少女たちは互いに顔を見合わせている。


「私たちは急いで移動するから、必死で追いついてね。追いつけるだろうという速度にはするけど……基本的に配慮はしない」


 ルールの説明らしい説明でもない。エルフリートは彼女たちの動揺する姿を眺めながら簡潔な言葉を伝える。


「目的地までは私たちが案内するから、ついてくる事。帰りは自力でって事になるから、しっかりと周囲を観察しておく事。

 それなりに距離のある場所に行かないといけないから、移動速度を出すよ。昨日歩き回って疲れてると思うけど、気合入れてね」


 エルフリートの隣でロスヴィータが「子供に言い聞かせているみたいだな」と小さく笑う。エルフリートは羞恥心を覚えたが「分かりやすいでしょ?」と言って誤魔化した。


「フリーデが言った通り、これから我々は移動する。遭難した場合、どう行動するかは覚えているな?」


 ロスヴィータの言葉に少女たちが動きを止める。予定が変わって面倒な事になった、だけではないという事に今気付いたようだ。


「遭難しないようにしてもらいたいところだが、数人は離脱するのではないかと私は危惧している」

「そうならないように頑張ってほしいな」


 エルフリートとロスヴィータの言葉に、彼女たちの表情が消えた。どこに移動するのかも分からない。目的地が分からない状態で先輩騎士を追いかけなければならない。

 それはかなりの苦痛だろう。その上、帰還する為に道のりを暗記する事となれば、大変どころの話ではないのだ。

 エルフリートもロスヴィータも、その事はじゅうぶん理解していた。だが、補講なしで全ての訓練内容をこなそうとするのであれば、これくらいは頑張ってもらわないと彼女たちの為にもならない。

 離脱するであろう数人を守る為に密かに動く事になっているバルティルデやマロリーがいるから、最低限の安全性は確保している。あとは、騎士のプライドにかけてどれだけみんながついてこれるのかだった。

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