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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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「妖精さん」

「うん?」

「和解したところで、私から言いたい事があるのだが……」


 謝罪を受け入れたエルフリートは、これで話は終わりだと思っていた。何の話だろうかと小さく頭を傾けて聞けば、彼女が口にしたのはあまりにも恐ろしい話題だった。


「フリーデ、あなたも当事者意識を持って動いてもらいたい」

「えっと、どれに対して?」

「あらゆる事に決まっているだろう。あなたは、婚約者がいるという事を忘れてはいけない」

「え……?」


 正直に言えば、気を抜いていた。だから、ロスヴィータがそんな事を言い出すとは思ってもいなかった。

 ましてや、嫉妬心の塊のような発言をするなんてそう何度も起きる事ではない。エルフリートはロスヴィータが言いたい事が何なのかが掴み切れず、口を閉じる。

 ロスヴィータはエルフリートの話を聞く姿勢を見て「これは、私なりの懸念というものだ」と前置きをして話し始めた。


「人に優しくしすぎると勘違いされるし、あまり近すぎるとあなたの真実に気付く者が現れるかもしれない。

 あなたは素敵な人だから、悪い虫もつきやすいに違いない」


 文句を言い始めたロスヴィータに驚いたエルフリートは目を丸くする。彼女は小さくため息交じりの吐息を吐き出し、朝の支度をしている少女たちの姿を見つめる。

 その視線にはどこか、緊張のようなものが滲んでいた。


「彼女たちを虫に例えるのは良くなかったな。ただ、良くも悪くも彼女たちは感情が豊かだ。表面上豊かなあなたとは違って、な。

 だから、感情を制御しきれずに暴走する可能性がある。彼の時は何とかなったが、次はどうなるか分からない」

「えっと……?」


 ロスヴィータが何を言おうとしているのか、何が言いたいのか、エルフリートには全く見当がつかなかった。言える事は、ロスヴィータが何かを非常に心配しているという事くらいだ。

 ロスヴィータが落ち着きなく手を組み替えているのが視界の端に入り込む。この緊張がどれに対してなのかも分からなかった。


「フリーデ、私はあなたが誰にでも好かれる素敵な人柄だと思っている。そんなあなたが、恋愛感情に振り回された人間によって今までの努力をふいにされるのは耐えられない」

「ロス、今ロスの中で私、どんな状況になってるのかな……?」

「あなたの本当の姿を知って、恋の熱を燃やした少女が――」

「あ、うん。いいや……何となく分かった気がする」

「そうか?」

「うん」


 どうやらロスヴィータはエルフリートが男性であると気付いた女性騎士の誰かからエルフリートが告白をされ、それを断った先に暴露事件が起きるという妄想をしている最中のようだ。

 ロスヴィータはこの手の妄想をしない人間だと思っていたが、そうではないらしい。彼女のこの新しい一面は非常に面白い。妄想はエルフリートの十八番だと思っていたが、ロスヴィータもそうだったとは。


「私、そういうへまはしないよ」

「分からないだろう?」

「ううん。絶対にしない。だって、秘密にしてもらう技術があるから」


 エルフリートは指先に小さな光を灯し、無言で精神魔法を使うから問題が起きないのだとこっそりと示した。エルフリートの暗示に気付いたロスヴィータが小さく頭を横に振る。


「それはほとんど犯罪だが」

「これでも一応国家機密だから、それを守る為なら仕方ない行動だよ」


 エルフリートが言う通り、エルフリートは国王の許可を得た上でこの地位にいる。つまり、エルフリーデとしての活動は国家公認の任務である。この任務の障壁になるものに対する多少の(・・・)強硬手段(・・・・)は許される、というわけだ。


「……まあ、ほどほどにな」

「こういう事態が起きないように気を付けるよ」

「ああ。しっかり頼む」


 少し考えたのちの反応に、エルフリートは内心で自分の信用のなさに苦笑する。ロスヴィータがエルフリートの事を思ってくれている事には違いないのだから、たとえロスヴィータの反応が良くなかったとしても気にしすぎない方が良いだろう。

 エルフリートの方に視線を向ける少女に気付いたロスヴィータが「ほら見ろ」と小さく呟く声が聞こえる。単純に彼女は火を起こす事ができなくて困っているだけ――のはずだ。少なくとも、エルフリートの目にはそう見えた。


「ロス……火起こしで困ってるみたい」

「私が代わりに行こう」

「え?」


 エルフリートが目を丸くしていると、ロスヴィータの鋭い視線が向けられた。まだ彼女の中で「エルフリートが好かれすぎてトラブルが起きる」という妄想が繰り広げられているのだろう。

 思わずエルフリートは両手を挙げた。


「あ、うん。お願いね」

「任せてくれ」


 やる気満々のロスヴィータが颯爽と歩いていく。彼女の黄金の尻尾が左右に揺れるのを見つめ、エルフリートは小さく笑う――が、ロスヴィータが近付いてきた事に気付いた少女達の表情が一瞬曇るのを見てしまった瞬間、ロスヴィータの懸念が似たような方向の何かがあるのではないかと不安になった。

 前にもこんな感じの事があったよね。と、ブライスの事が頭に浮かぶ。今回はそういうのじゃありませんように。エルフリートは心の中で強く願うのだった。

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