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気まずい空気のまま朝の支度を終えたエルフリートとロスヴィータは予定通りに朝の支度を始めた少女たちの姿を見つめていた。
昨晩の件はあらかじめバルティルデとマロリーに共有してある。二人は見回りを兼ねながら周辺の状況を観察していてここにはいないが、彼女たちも気を配ってくれている。
エルフリートは自分が折れなかったのが悪かったのだろうか、と思いつつも自分の言った事は間違っていないのだから衝突は仕方のない事だったのだという気持ちが強くて、どうフォローすべきなのか方法が思い浮かばなかった。
「フリーデ」
「うん?」
「さっきの話をずっと考えていたのだが――」
「んぅっ、けほ」
脈絡もなく朝の話題が始まった。この話題をこんなに早く蒸し返してくるとは思っていなかったエルフリートは思わずむせた。
ロスヴィータがエルフリートの背中を撫でる。その動きがあまりにも優しくてエルフリートの目尻に涙が浮かぶ。言い方か、その加減を間違えただろう相手に優しさを与えてくる彼女の誠実さと寛大さに感動が止まらない。
「大丈夫か……?」
「う、うん。ごめん、びっくりしちゃって」
エルフリートは口元を抑えながら呼吸を整える。ロスヴィータは「ならば良いんだ」と言ってホッとしたような息を吐いて笑った。
ロスヴィータが思いの外普段通りである事に、エルフリートが考えすぎだった可能性が浮かび上がってくる。とはいえ、ここでそうだと断定して彼女と接するのは早計だ。エルフリートは考えを改めないように気を付けながらロスヴィータに声をかける。
「ロス、大丈夫になったよ。ありがとう」
「なら良い」
「中断させちゃったけど、何て言おうとしていたの?」
エルフリートがロスヴィータに視線を向けながら問いかければ、彼女は照れくさそうに頬をかいた。
あまり見かけない反応に首を傾げると、ロスヴィータはゆっくりと話し始める。
「今朝の事を思い返していたんだ」
「うん」
「そうしたら私が普段、目の前にいる少女たちに向けて考えている事と同じ指摘をあなたからされていたのだと気が付いた」
「ロス……」
エルフリートがロスヴィータの反応に負ける事なく言葉を重ねた事は、決して無駄ではなかったようだ。
「彼女たちを信用していないわけではないが、油断するのは違うのだと思っていた事を思い出していた」
確かに、ロスヴィータは女性騎士団のメンバーに「自分が守られている存在だとは考えない方が良い」と口を酸っぱくしている。それは、自分が戦う手段を持っているからだとか、騎士という地位だからだとか、そういった事が関係ないのだとも言っていた。
自分たちが女性という性別でいる限り、ついて回るものであるのだとも主張していた。
騎士であるという事は、武力行使が可能な人間であるという事と同義だ。それでも、性別だけで判断する人間は多い。事実、つい先日の出来事のように急襲されて後れを取る可能性が全くないとは言いきれない。
身体的に不利である事だってそうだ。どう頑張ったって、同じ体型であるならば男性の方が力が強い傾向がある。
これについては性別関係ないが、自分がどれほど力を蓄えていようともうまくいかない時は必ず出てくるものだ。
「私は、自分の事を棚に上げて彼女たちを指導していたようだ」
ロスヴィータの静かな語り口がエルフリートの心を小さく抉る。ロスヴィータは女性として扱われながらも、女性に馴染み切れずに男性のように振る舞って来た人間だ。事実、外見も男性と見間違うばかりの美丈夫だから、余計に男性的な思考がロスヴィータの中で育ってしまっているのだろう。
エルフリートの場合は男性的な思考と女性的な思考を同時進行で育てたせいで混乱してしまっているが、ロスヴィータの方は男性的な思考に染まりすぎているのだろう。
エルフリートがロスヴィータに対して女性的な危機感の考え方をするようにと言ったところで、彼女がピンとこないのも当然な事だった。
「ロス……」
「フリーデ。すまなかった。あなたの意見は自然で、的を射たものだった。私が自分がどうなのかについて考えが至らなかっただけだった」
ロスヴィータは相変わらずエルフリートの背中を優しくさすっている。彼女から感じる温もりは、変わらずエルフリートを癒している。
「今朝の私の態度は完全に間違っていた。謝罪を受け入れてくれるか?」
「もちろんだよ!」
ロスヴィータの、いかにもこわごわといった言い方にエルフリートは小声で即答した。あまりの早さにロスヴィータが笑う。
彼女の笑い声に不快感はなかった。それどころか、ロスヴィータの方から歩み寄ってくれたという事実がエルフリートの思考を停止させていた。
「私の妖精さん。あなたが私の事を大切に思ってくれて嬉しいと思う。これからは、可能な限りあなたの忠告を素直に受け入れたい」
「そうしてくれると私も嬉しいな」
絶対に素直に受け入れると言わないあたりがロスヴィータらしい。エルフリートはくすくすと笑いながら彼女の謝罪を受け入れるのだった。
2026.8.19 誤字修正




