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エルフリートの白状にロスヴィータが笑う。彼女の笑みはエルフリートの事を馬鹿にするようなものというよりは、エルフリートの行動について肯定的な気持ちを抱いているのだと分かるような温かなものだった。
ロスヴィータがエルフリートの額にかかった髪を指先で整えながら口を開いた。
「フリーデ。あなたの言った事は正しい。誰かが言わなければならない事だった。まあ、あなたが厳しい言葉を言うと思っていなかっただろうから、それに関しては少しくらいは彼女たちに同情しても良いが」
「ふふっ」
「きっと、フリーデがきっぱりと言われなければ、彼女たちは自分がどうして傲慢だと指摘されたのか理解できないままになっていただろう」
あの時のエルフリートは我慢できず、彼女たちの思考についてつまびらかにしてしまった。発端になったであろうペネロペの行動が何からくるものだったのか。そして、その行動に追従するような動きを見せていたにも関わらず、自分の行動を棚に上げてペネロペを責める態度を取り始めた面々の思考について。
エルフリートはそうして第三者からの視点から見た彼女たちの動きについての中立的な考えを伝えた。
難しい事は何一つ言っていない。ただ、自分の感情を中心に思考するなと、感情に基づいた思考は客観的なものにはなり得ないのだという事を伝えようとした。
「普段は私の役目だから、彼女たちは驚いただろうな」
「うん。それはもう目を丸くしていたよ」
「それくらいが丁度良いかもしれない」
「丁度良い?」
くすくすと笑いながらのロスヴィータの言葉は、エルフリートにとって意外なものだった。エルフリートが騎士たちを諭そうとするのが丁度良いとはどういう事なのか、すぐには理解できなかった。
エルフリートがもうじき去るからなのか、それとも普段そういう発言をしない人間からの指摘が刺激になるという意味なのか、判断しかねたからだ。
「同じ人間から似たような事を言われれば、またいつもの話かと思われてしまう。その分、フリーデは普段からそういう発言を他者に譲っているから、より彼女たちは厳しい言葉であると感じただろうな」
「あ、あぁそういう事か」
「指導する人間が一人の方が良い、とは限らない。そういう事だ」
言われてみれば、そうかもしれない。信頼関係を築いている人間から言われる言葉の方が響きやすいのは確かだが、同じ人間から言われ続ければロスヴィータの言うような事も起こるのかもしれない。
エルフリートは人間の思考は面白いな、と他人事のように思いながらロスヴィータの手に触れる。彼女の指先がぴくりと動き、しかしエルフリートの動きを受け入れるかのように力が抜ける。
エルフリートはその反応を嬉しく思い、指先で彼女の手の甲を撫でた。
「ロス、彼女たちと途中で遭遇すると思うから――」
「任せてくれ。彼女たちから何か言われた時は、私がしっかりフォローを入れておこう」
「うん。ありがとう」
エルフリートはゆっくりとロスヴィータの手を放す。申し送りをするのに必要な時間は過ぎている。エルフリートはもう仮眠を取る時間だ。無理をして起きていても、明日の活動に響いてしまうから、それはできない。
「ロス、後はよろしくね」
「ああ。心配はいらないから、ゆっくり休んでくれ」
名残惜しさを振り払うようにエルフリートはロスヴィータに背を向ける。彼女がエルフリートのいた所に座る気配を感じながら自分の待機場所へ足を進める。
エルフリートは自分とロスヴィータが使用する事になっている簡易のテントの中へ入り、横になった。少し前までロスヴィータが眠っていたはずだが、その温もりは残っていない。
その事を寂しく思うが、あれだけ話をしていたのだから当然の事だったと思い直す。ほんの僅かに、彼女の残り香があった。
エルフリートは思わず頬をゆるませ、目を閉じる。明日は変な事が起きませんように。その願いが無事に叶うかどうか、それはまだ誰も知らないのだった。
目を覚ました時、エルフリートの視界を美しい横顔が占領していた。もちろん、その横顔の持ち主はロスヴィータである。エルフリートのそれよりも真っ直ぐに伸びたまつげが小さく揺れている。
彼女はまだ夢の中にいるらしい。
エルフリートはその貴重な姿を見る事ができて感動していた。一緒に眠る事など、滅多にない。それも、こうしてすぐ近くで、二人きりという機会となればなおさらだ。
エルフリートは周囲の状況を静かに確認する。外の雰囲気を察するに、まだ起きる時間には早そうだ。ロスヴィータを起こすのはもう少し待っても良いだろう。
ならば、エルフリートがする事はただ一つ。彼女を目覚めさせないように気を付けながら身支度を済ませる。これだけだ。
エルフリートは自分の身体的な問題で、人よりも身だしなみを整える為の時間が必要だ。しかも、誰にも見つかってはいけない為、慎重に動く必要もある。
事情を知っているロスヴィータのような人間の前では神経質になる必要はないが、それでも気を遣う。性別が違うのだから当然だ。
「ロスが起きる前にやっちゃおう」
エルフリートは小さくそう呟くと静かに行動を起こすのだった。




