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バルティルデが提案した息抜きは大成功だった。今日の移動で迷惑をかけていた騎士たちに隠れた能力があったのも大きかった。
誰にだって能力にムラはあるものだ。弓矢をうまく作る事ができた者が不慣れな者に手を貸すという姿が散見された事から、彼女たちの事を見直したのだろうとも思う。
協力しあう事を忘れて他責に走っていた彼女たちの何人がその考えに行きついたかは確認しようがないが、少なくとも見る目は変わったのだと察せられた。
「フリーデ、お疲れ様」
「ロス」
交代で番をしていて、エルフリートの次はロスヴィータの担当だった。エルフリートたち初期メンバーは一人ずつ順番に、他の騎士は普段通りのスケジュールの組み方で、それぞれ番をする事になっていた。
エルフリートたち初期メンバーは監督役である為、やる事は多くはない。ただ、番をする彼女たちが変な動き――例えば、規則通りに見回りをしていない――をしていないか監視するだけだ。
女性騎士団の面々にふざけた性格の人間はいない。だが、能力的に未熟である者は多い。それは性別的に越えられない経験値の壁のせいでもあるし、やる気だけが先走っているせいで能力が追いついていないというのもある。
だから、未熟である事を彼女たち自身の問題だと言って厳しい声をかけるわけにはいかない。
彼女たちはより良き騎士になる為に努力をしている。それを評価した上で、課題に向かわなければならないのだ。
エルフリートは少し前にあった些細な――しかし申し送りをする必要がある出来事を思い返していた。見回りをするのは問題なかった。ただ、態度が良くなかった。
怠慢だというわけではない。見回り自体は正しく行われていた。一つの問題が発生していただけで。
「あのね、息抜きを始める前に空気を悪くしていた子がいたじゃない?」
「ああ……ネリーか」
「うん。彼女、話しかける直前で号令がかかって未遂になったけど、その行動を気にする子がいたみたいなの」
エルフリートはそう言って、見かけた出来事を報告した。ペネロペの行動に従っていた同じ班のメンバーが彼女の事を無視するようになっていた。ペネロペが彼女たちにどんな発言をしていたのか、彼女たちをどんな風に誘導してあの行動を起こそうとしていたのかは分からない。
だが、少なくともあの行動が班の協調性を奪うきっかけになったのは確かだ――とエルフリートは考えていた。
ペネロペの行動は、彼女への不信感を植え付けるのに十分だったのだろう。班のメンバーはあの行動に従った事を悔いていた。だから、あんな行動を取ったのだ。
少女たちが取ったのは単純な行動だった。ただ、彼女の存在を無視する。それだけだ。エルフリートだって、少し観察して問題ないと判断していたら見逃していたかもしれない。それくらい些細でシンプルな行動だった。
とはいえ、エルフリートは彼女たちの間に流れる変な空気を感じ取り、観察すべき対象であると判断した結果、今に至るのだが。
エルフリートが観察を続けていると、少しずつ統率が崩れていった。移動速度にずれが生まれ、ペネロペが孤立しそうになっていた。まさにその瞬間、孤立していたのだが。
「信用していた相手が信用に値しない行動を取ったから、反動が生まれたのだろうな」
「うん。でもね、従った時点で同罪だと思うんだよね」
「それはそうだ。本来ならば、仲間が道を外そうとしていたら引き留めるべきなのだからな」
状況を何となく理解したエルフリートは、彼女たちに声をかけた。まとまって動くべきなのに、どうして分散しそうになっているのかと問いかけた。そのつもりがない人間だったら、エルフリートの言葉に対しておどおどとしたりはしない。
堂々と、というのはおかしな表現だが「どうしてそんな事になってしまったのか」と今気が付いたかのように振る舞うだろう。そして、素直にそんなつもりはなかったのだと謝罪し、お互いに距離を詰めるはずだ。
だが、そうはならなかった。ペネロペは不満げに表情を歪めて視線を外し、他のメンバーは口ごもって目を泳がせたのだ。
エルフリートはこの訓練が始まって初めて、ロスヴィータのように冷たい声を出す羽目になったのだった。
「ロス、あとでフォローしておいてくれる?」
「なぜ?」
「叱っちゃったから」
「いや、当たり前だろう。だが、あなたがそう言うのなら、それだけの理由があるのか?」
エルフリートは労わるように顔を覗き込んでくる彼女に向けて苦笑する。確かにエルフリートはやりすぎたと思っている。だが、それについて後悔はしていない。
「両者ともに傲慢が過ぎるって、言っちゃったの」
「ほう……?」
ロスヴィータの目に好奇心が浮かぶ。エルフリートはその視線に耐えきれずに目を逸らした。
「こっちを見て」
「う……」
ロスヴィータに顎を掴まれ、エルフリートは小さく呻く。彼女は「大丈夫だから、何を言ったか教えてくれ。そうしないとフォローしてやれない」と笑う。
「えっと、その……ね」
エルフリートは観念して、何を言ったのか彼女に洗いざらい白状するのだった。




