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エルフリートは確実に射止める事ができる距離を考えながら振り返る。狙うべき獲物はだいぶ小さくなっていた。少女たちとバルティルデとロスヴィータが立っていた場所の間と同じくらい離れている。つまり、競い合っていた少女たちの二倍くらいの距離だった。
小さくなった的を見つめ、もう少しいけそうだと思う。だが、欲張りはいけない。自分の能力を自慢する為のものではない。この距離でもやれるという可能性を示し、追随したいという気持ちを生まれさせるのが目的だ。
いつか、自分もそうなれるだろうか。そうなりたい。そう思ってもらわないと困る。エルフリートは弓を持ち、矢をつがえた。
突貫で作った矢に負担がかからないようにゆっくりと矢を引く。弦の張り具合は問題なさそうだ。限界すれすれまで引いたまま、的を狙う。
矢の到達位置を予想し、ずらす。エルフリートは呼吸を整えて弓を放った。
「命中」
ロスヴィータの声が響く。エルフリートはそのまま二本目の矢をつがえた。同じように的を狙い、命中させる。そして三本目もまた、命中。エルフリートの耳に三回連続でロスヴィータの「命中」という声が入ってきた。
三本目の矢を放ち、無事に獲物を射抜いたエルフリートはふーっと息を吐きながら矢を下ろす。
どういう事か、三本とも成功したのに歓声がない。エルフリートは少女たちの方に体を向けると手をひらひらと振って笑いかけた。
一瞬遅れて拍手が上がる。不思議に思ってよく観察してみると、驚く方に気持ちが傾いているようだった。
「あれ、できるの?」
「今日作った弓矢で、って意味なら無理じゃない?」
耳を澄ませばそんな会話が聞こえてくる。専門家が作った弓矢なら、もっと遠くから狙えるんだけどな。エルフリートは心の中で呟いた。
エルフリートが合流すると、ロスヴィータによって肩を抱かれた。ロスヴィータよりも身長が高いエルフリートは彼女に合わせて身をかがめる。前よりも身長差ができてしまったのが寂しい。
「フリーデ、よくやった」
「うん。私は狩りに慣れてるから、これくらいやらないとね」
「今度はもっと難易度を上げるか」
ロスヴィータが笑いながらエルフリートの頭を撫でる。からかい交じりの声に、エルフリートも冗談を返す。
「なら、ロスも弓の練習頑張らないとね。今度は騎乗して私と勝負するのはどう?」
「あなたと一対一で争ったら、私に勝ち目はない。却下だ」
「えぇー?」
「私たち対あなた、だったらやっても良い」
「ちょっとそれは卑怯だよ!」
ロスヴィータとエルフリートの掛け合いに周囲が笑う。バルティルデの方に集まっていた少女たち――弓矢についての説明を受けてから見学していた――も合流しているから賑やかだ。
エルフリートは笑顔のまま合流組に顔を向ける。
「今回、弓矢を作るのが間に合わなかった面々は、王都に戻ったらしっかり復習して次にこういう事が起きないように努力してね。
私たちも自主性に任せすぎないで、こうやって時々技能を試す時間を作ろうと思うから……今回間に合った子たちは、気を抜かないようにね」
大丈夫だった。良かった。それで終わらせてはいけない。能力を維持し、また成長させていく努力を怠ってはいけない。そうしなければ、いざという時に役に立たないからだ。
エルフリートが少女たちを見回せば、彼女たちは気まずそうにしている。心当たりがあるのかもしれない。
「上を目指す分には悪い事なんて起きない。少しでも能力を伸ばせば、その能力で人を助ける事ができる。守る事ができる。それを忘れないでほしいんだ」
エルフリートにできる事は限られている。エルフリートはもうじきこの組織を抜ける。そうなれば、ロスヴィータを介して多少の手助けをする事はできるかもしれないか、今のようにサポートしていく事はできなくなる。
エルフリートはロスヴィータの腰をぽん、と軽く数回叩いて解放を願う。ロスヴィータの腕から脱したエルフリートは近くに転がっている獲物を拾って彼女に渡す。
足元の矢筒から一本の矢を手にするとロスヴィータに「それ、投げて」と言った。
「こうか?」
「ありがとっ!」
ロスヴィータはエルフリートが何をしようとしているのかに気付いたのだろう。やや高めにそれを投げた。適当に放られた獲物をエルフリートは容易く射抜く。急いで構えたせいで、弓と弦が嫌な音を立てたが気にしない。
案の定、獲物を射抜く事はできたが、弓は使えなくなってしまった。
「努力を重ねれば、こういうのだってできるようになる。ただし、突貫で作った弓矢だとご覧の通り」
弓に亀裂が走っていた。エルフリートはその部位を見えるようにして「あとで細かく説明してあげるね」と言いながら近くにいた少女へ手渡した。
2026.8.5 誤字修正




