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フェザーリングがないのならば、真っ直ぐ飛びやすいように矢を整える必要がある。改善方法は簡単だ。自然の素材特有のうねりを削って真っ直ぐにすれば良い。
根気のいる作業――なにせ、矢は数が必要だ――だが、目で真っ直ぐかどうかをある程度確認できる者からすれば、簡単な作業でもあった。
「相変わらず器用だな……」
「ロスだって! ロスのナイフさばきは最高だよ」
ロスヴィータは照れ笑いを隠すように俯いてエルフリートの見よう見まねを始めた。ナイフが矢を削る音が増える。
エルフリートはその心地よい音を聞きながら作業に集中するのだった。
いつの間にか音は三つに増え、あっという間に作業が終わってしまった。エルフリートは修正の終わった矢を確認し、微調整をするとロスヴィータに返した。
矢を即席の矢筒にしまいながら、ロスヴィータが奮闘中の少女たちを見ている。
「……まだ弓を完成させる事ができていない人がいるな」
「あ、本当? もうそろそろ締切ろうと思ってるんだけど」
エルフリートの言葉に、ロスヴィータが「弦がうまく張れないようだ」と答える。なるほど、弓に関する知識不足で、弦の張り方が分からないのかもしれない。弓に使う素材を湾曲させ、元に戻ろうとする力を利用して矢を飛ばす。形だけ寄せても意味がないのだ。
ロスヴィータは彼女たちの事が気になるらしく、小声でああでもないこうでもないと呟いている。珍しい事だが、それくらい彼女たちの事を心配しているようだった。エルフリートは今にもアドバイスをしに立ち上がりそうな彼女に向けて手を差し出した。
「ロス、残念だけど時間がかかりすぎてる。屈辱だとは思うし、かわいそうだとも思うけど、彼女たちには苦い気持ちを味わってもらおう」
「……ああ、それしかないのは分かっている。大丈夫だ」
「本当は、こういうのは教えてあげないといけないわけだけど――そういえば、騎士学校では一通り授業で指導があったはずよね。身に付くほど何度も繰り返すような授業ではなかったと思うから、この結果は仕方がないのかしら」
巡回しているバルティルデを呼びにいっていたマロリーが戻ってきた。戻ってくるなり辛口だ。エルフリートが彼女を見上げれば、その隣にはバルティルデが立っている。マロリーの隣に立つ彼女は「面白い光景だったよ」と笑っている。相変わらずの様子だ。
「簡単に報告してほしいな」
ロスヴィータの代わりにそう言えば、バルティルデは分かりやすく教えてくれた。弓の作り方なんて覚えていないという者、弓が苦手だったから何も分からないという者、しっかり自分の技術として身につけていた者、大きく分けてこの三種類で構成されていた事。もともとこういう事を想定して訓練していた者や家族があらゆるものを自作するのが好きで……という者が少数いた事。
想定外の作業に、全員が少し前まで抱いていた複雑な感情を忘れ、己のやるべき事に没頭していた事。余裕のある人間が他者の補助に回り、協力しあっている――あくまでも班というくくりの中でだが――事。
全て納得のいく話ばかりだった。
「では、制限時間いっぱいって事で」
「ああ……」
エルフリートの声に、ロスヴィータが頷いた。もう少し待ってやりたいという気持ちがうっすらと透ける声だったが、立ち上がった彼女の表情には厳格さしかなかった。厳しい指導者としての仮面を被ったロスヴィータが声を張り上げる。
こういう切り替えの良いところ、好き。エルフリートはひそやかに彼女への思慕を積もらせる。
「終了! 荷物を持ってすぐに集まれ!」
ロスヴィータのよく通る声が響き渡る。結界の外まで通り抜けてしまいそうな声は、女性騎士団全員の耳に届いた。
慌ただしく彼女たちが荷物をまとめて集合する。少し前に見た光景と同じだ。
「作業が終わっていない者はバティの方へ。それ以外はそのまま待機」
一番最初にふるい落としがあ?とは思っていなかったのだりう。戸惑った様子で三分の一の少女がバルティルデの方へ向かう。
可哀想だけれど、仕方がない。自分用の武器を用意できなかったという事は戦線離脱と同義だ。戦いの場所には向かう事ができない。
「さて、残った人間で、自作の弓矢を使って能力を競ってもらう。全滅した班は……さすがにいないようだ。それは良かった」
全滅は逃れたものの、半数を失った班もある。良かった、と言うには問題がありそうだ。だが、これも仕方がない。
実際にこのような危機に陥ったのなら、きつい、の一言ではすまなくなる。彼女たちの気を逸らす為のゲームとはいえ、訓練でもあるのだから、そのあたりは諦めてもらうしかない。
「バティの方へ向かった者は、彼女から弓矢の作り方についてしっかり教えてもらうように。次があったら、この失態は許容できないぞ」
「はい!」
ロスヴィータの声に大声で反応した少女たちが背を向ける。ロスヴィータはそれに頷いてみせると、再び弓矢の準備に成功したメンバーに向き直る。
「では、楽しいゲームの時間だ」
ロスヴィータの表情は打って代わり、眩しいほどの笑顔だった。
2026.7.25 誤字修正




