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エルフリートが解説をしながら弓を作る。ロスヴィータはそれを見て真似し、マロリーは二人の様子を観察する。ただそれだけの時間が流れていく。エルフリートというお手本があるからか、ロスヴィータの作業速度は格段に上がっている。
もちろん、作業スピードだけではなくそのクオリティも上がっている。
「次は弦。弦はねぇ……」
エルフリートは弦の張り方についての解説を続ける。エルフリートの周辺だけ、穏やかな時間が過ぎていた。
「――よし、完成だ」
「あ。ロス、できたの?」
「ああ。できれば、確認してもらえるか?」
ロスヴィータに手を差し出せば、彼女は弓を預けてくれた。彼女が作ったのは生木ではなく、大風か何かで自然に折れた枝で作ったものだ。エルフリートはそれを掲げ、具合を確認する。
削り方は悪くない。刃物の扱いに慣れているのが分かる。きちんと両端は処理されているし、ノッチの切込みも綺麗に入っている。弓のしならせ具合も悪くはない。弓弦には常備している麻縄が使われていて、結び目の処理もうまくできている。
初めてにしては上出来だ。知識もない状態で、エルフリートの解説を聞いて作業したのだ。もう少し歪な出来になっても仕方ない。だが、そうはならなかった。これはひとえに彼女がエルフリートの動きや解説から必要な要素を理解し、作業に反映させたからだった。
弦をひっぱって具合を見る。これも問題なさそうだ。
「うん。良いと思う」
「そうか……!」
ぱあっと表情を明るくさせる彼女に微笑んでいると、つんつんと腕をつつかれた。マロリーだった。彼女はエルフリートの腕を自作の弓でノックしている。
「ねえ、私の弓矢も確認してくれる?」
「もちろんいいよ」
ロスヴィータに弓を返し、マロリーの弓を手に取った。マロリーの弓は、独創的だった。弓の仕組みを知っているから、それらしいものが完成したのだとすぐに分かる。
マロリーの作った弓は掘り出した彫刻のようだった。
「マリン」
「やっぱりだめかしら?」
「これ、使っていたら折れるかもしれないよ」
「そうよね。本当は弦を張る時にしならせるところを、最初からしなっているかのようにしてしまったんだもの」
頭の回転の速い彼女は、エルフリートの解説を聞いている間に、自分が作った弓が不適切な処理が施されたものであると勘付いていたようだ。
「強度の面で、ちょっと怖いかな。実際に使ってみても良い?」
「それはかまわないけれど」
「壊れちゃったらごめんね」
「え?」
マロリーが首を傾げている間に、エルフリートは矢をつがえて構える。弦を限界まで引く。弦と矢がぎりぎりと唸り声を上げた。弦の悲鳴は聞こえるが、弓本体はまだ大丈夫そうだ。エルフリートは安全そうな方向に向けて矢を放った。
ひゅんっ、と風切り音と共にエルフリートの手から矢が離れる。矢が衝撃に揺れるのを感じながら、飛んでいった方向を見る。
「ギリギリ、大丈夫そう」
「そう……」
「ちょっと矢を回収してくるねぇ」
エルフリートはほっと息を吐くマロリーに一言声をかけると急いで矢の回収に向かった。エルフリートが狙ったのはただの木である。狙い通りの木に刺さったそれを抜いて矢じりや矢の先を確認する。
刃がかけていたら使いまわしができないし、矢じりに異常があれば交換するか矢じり自体を取り去る必要があるからだった。
「マリン、ちょっと矢じりが怪しいから直した方が良いと思う。それ以外は大丈夫だけど、何度も使える弓じゃないから気を付けて」
「ありがとう。分かったわ」
ふいに気になったエルフリートはマロリーに問いかける。
「矢は数本作った?」
「もちろんよ」
マロリーは自作の矢筒らしきもの――そこまで準備する余裕があったのはとてもすごい事だ――から五本の矢を見せてきた。
「すごいね」
「ありがとう。こっちも合わせて点検しておくわ」
「それが良いと思う。ロスは矢の方はどんな感じ?」
ロスヴィータの方を振り向けば、彼女は苦笑していた。何かが起きているらしい。
「実は、矢じりがうまく作れない」
「ああ……それなら、矢じりを作るのは諦めた方が良いかも」
「諦める?」
首を傾げる彼女にエルフリートは説明をする。
「フェザーリングは、あった方が良いに決まっているけど、なくても一応大丈夫なんだ。だから、下手につけるよりもない方が良い場合もあるんだよね」
「なるほど……?」
「元々、これは矢の飛行を助けるものだから。これがなくても矢は飛ぶよ」
「ああ、そういう事か」
ロスヴィータはこれがなければ飛ばないものだと勘違いしていたようだ。エルフリートはフェザーリングについてもう少し詳しい説明を交えながら、フェザーリングがない事で不利になる矢の調整をし始めた。




