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ロスヴィータが弓作りに集中している姿を見ていると、手伝いたくなってうずうずする。バルティルデが後輩騎士たちの様子を見て回っているのをいい事に、エルフリートはロスヴィータの観察に熱を上げていた。
「フリーデ、そろそろ時間でしょ……あなたがやらないなら私がやるわよ」
エルフリートがぱっと顔を上げれば、呆れ顔のマロリーが見下ろしていた。彼女は小屋の向こう側――エルフリートから死角になる場所だ――で行動する少数の騎士の様子を見てくれていたのだった。
ロスヴィータの号令があったと知らされた班長たちが持ち帰った情報をマロリーなりに整理し、予測してきたのだろう。エルフリートたちがマロリーに詳細を伝えていなくとも、彼女はこうして現れた。
「ありがとう。すぐやるね」
エルフリートがそう言えば、マロリーはすうっと姿勢を戻して待機の姿勢を取る。よくよく見れば、彼女は既に自作の弓を肩にかけていた。
彼女は生木を使っている。マロリー自身の腕力と短時間で弓矢を用意するという事を考慮した上の、彼女なりの最適解なのだろう。
「賢神よ、我が守りの中に陽光をもたらしたまえ」
結界の中限定で明るくするという魔法だ。関係のない場所まで照らすと生態系に影響が出る可能性があるし、訓練中であると周囲に知られたくない。目立つ動きはしないに限る。
考えを巡らせた末の魔法は、エルフリートが想定していたよりも眩しかった。
「あ、ちょっとやりすぎちゃった」
「……びっくりして怪我する子がいたらどうするの?」
「ごめん……」
ロスヴィータが「あっ!?」と声を上げていた。声に反応して振り返れば、彼女は咄嗟の判断で弓を落としてナイフだけを握っていた。
刃物を落とすのに比べるべくもない。とはいえ、ロスヴィータが驚くくらいだから、誰もが驚いたに違いない。
案の定、突然周囲が明るくなった事に反応して全員が顔を上げている。
「いったん集合!」
「作業中の荷物は全部持って来てね!」
バルティルデが声を張り上げるのに合わせ、エルフリートがつけ足した。何も持たずに駆け寄ろうとしていた何人かが慌てて作業中の弓矢を拾っている。
その可愛らしい姿に思わず笑みが零れるが、すぐ隣でマロリーが睨みつけてきていた。
「点呼」
ロスヴィータはただそれだけを口にした。少女たちは騎士の顔になり、点呼に応じる。そうして全員が集合している事が確認できると、ロスヴィータは加工中の弓を持って笑みを向けた。
「全員、素材を用意するところまではできているな? では、これからは弓矢を完成してもらう時間を取る。制限時間は今回も伏せる。
なるべく早く弓矢を仕上げる事。次の合図はただの号令だ。私の声が聞こえる範囲で作業するように」
ロスヴィータは簡潔に分かりやすく説明を終えた。騎士たちは不安そうに作業中の自分の武器――にしようとしているもの――に視線を向けたりしている。弓になるにはまだまだ遠い道のりだというものを持っている者もいるから、その不安はもっともだろう。
「では解散」
ロスヴィータの号令でさあっと人がはけていく。一秒でも無駄にしたくないという気持ちが彼女たちの行動に現れていた。笑ってしまうのは失礼だろうか。エルフリートは思わず口を手で塞いだ。
「フリーデ」
「ふぁい」
マロリーが睨んでいる気配がする。エルフリートは他の騎士たちと同じくそそくさと作業に戻ったロスヴィータのつむじを眺めているのをやめた。
「あなたも弓を作ったら? もう一つ作るつもりなんでしょう?」
「あ、よく気付いたね」
「私を何だと思っているの」
「えへへ……」
見上げてくる彼女が睨んでいると思いきや、好奇心で目がキラキラと輝いている。エルフリートは彼女が好戦的な面のある人間であった事を思い出す。
なるほど、マロリーは武器を作るという方向にも興味があるのか。
「私、初めて弓矢というものを作ったけど、難しいものね。だから、本職さんが作る様子を見てみたいの」
「なるほど……?」
「どうせ、あなたたちが弓矢を完成させるまで、というのが制限時間なのでしょう? なら、私がここであなたたちの様子を見学していても良いと思わない?」
さすがはマロリーである。次の制限時間がどこになるのかまで予想をしていたようだ。エルフリートはロスヴィータのすぐ側に座り、材料を手に持った。これから作成するのは生木の弓である。
エルフリートが隣に座ったのにロスヴィータが反応する。
「私もそれを手本に見ても良いだろうか?」
「もちろんだよ!」
エルフリートは笑顔で答えて枝をかざした。ロスヴィータとマロリーの視線が枝に向かう。それを見たエルフリートはくすりと笑い、腰に下げているナイフを取り出した。
「じゃあ、解説しながら作業しようかな。あ、これはあくまでも私の独り言」
エルフリートは言い訳をしながら弓の作成を始めるのだった。




