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早速弓矢を自作することにした三人は人の少ない方へと向かう。
「どうする? 今回は生木使う?」
「うーん、どうしようかな」
「木によって違いがあるのか?」
木の幹を叩きながら問うロスヴィータに、エルフリートは簡単な説明を行った。弓には強度が必要な事、それには乾燥している木が好ましい事、硬すぎるものは逆に向いていない事、などだ。これは、弓と矢の仕組みをある程度理解していれば、また木の特性を理解していれば、想像がつくだろう。
エルフリートの説明にロスヴィータはいちいち頷いては近くの木をゆさゆさと揺らした。
「生木を使う場合は、どういう時なんだ?」
「どうしようもない時くらいかな」
「そうか……」
弓は破損が怖い。矢を射る時、しっかりと弦を引く必要がある。その時の負荷で壊れると、意図しない怪我に繋がる。弓を射るという行為自体が集中力を必要とするものだ。
違和感を覚えて破損する前に気付けば良いが、それができるとは限らない。ましてや、こんな事をする時があるとすれば、緊急事態である。そこまでの余裕はないだろう。
つまり、普通であれば生木の使用は避けるべきものだった。
「近くに竹があれば楽なんだけどねぇ……竹林は今日立ち寄ったばかりだ」
「遠い場所の素材の事は考えてたらどうしようもないよ」
「分かってるって。だから、そうだね……こういうのがあと数本欲しいところ」
バルティルデが不意に座り込んだと思えば、長い木の枝を手にしていた。ほぼま直ぐなそれは、恐らくクェルクの木の枝だろう。クェルクは樹皮がコルクになるものや、樽の材料、家具や床材など多種多様なものに使う事ができる便利な木だ。
生育環境も幅が広く、エルフリートの故郷であるカルケレニクス領にもこの種類の木が存在している。
エルフリートの身長ほどもあるその枝をしならせているバルティルデは楽しそうだ。彼女の口角は上がっており、目も輝いていた。
「見つからなかったら、そこの木の枝を使おう。多分、十回やそこら射ったところで壊れはしないだろうさ」
「実戦でやった事でもあるの?」
「それなりに、ね」
バルティルデの言葉は心強い。エルフリートは弓を自作する事はあっても、緊急時に短時間で組み立てる必要はなかった。自分の狩猟道具を自力で用意する。ただそれだけだった。つまり素材を吟味し、丁寧に作る時間があったという事である。
今とは全く状況が異なる。
作るという点においては、エルフリートにも自信はあるが、素材の見極めという点ではバルティルデには到底及ばない。だからこそ、彼女が頼もしく映る。
「これはどうだ? 使えそうか?」
ロスヴィータが持ってきたのは一本の細長い棒だった。バルティルデが見つけたものと同じクェルクの枝に見える。だが、バルティルデのものに比べると色が白い。
バルティルデが枝に顔を近付け、端から端まで舐めるように観察している。
「あー……これは駄目だね。このあたり、うっすらと白みがかっているでしょ。これは、腐食とかで変色しているんだ。痛んでいる証拠だね。枝が折れてから時間が経ちすぎているって事さ」
バルティルデの説明は分かりやすかった。ロスヴィータは持っている枝に目を向け、変色している部分を撫でる。
ぱき、と小さな音を立てて表面に亀裂が走った。
「なるほど、こういう事か。つまり……」
「弓にしたら破損する」
ロスヴィータの表情に険の色が混ざった。まあ、そうだよね。陽が落ちてきて暗くなってきているし、枝はそう簡単には見つからないし。
「分かった。別のものを探すとしよう」
小さく息を吐いた彼女はすぐに作業に戻った。エルフリートは何かの参考になるかもしれない、と敢えて生木の棒を二本用意した。
何とか弓になりそうな棒と弦になりそうな蔓、矢に使えそうな素材一式を用意した。三人が戻ってきた場所には、すでにいくつかの班が戻ってきていて、弓矢を作ろうと奮闘しているところだった。
意外だったのはジナイーダの班がそこにいるという事だ。また、転倒を繰り返して周囲を心配させていたニコレッタの姿もある。ニコレッタに至っては、ほとんど弓を完成させている。
「へぇ……あの子、できるねぇ」
「あ、やっぱり彼女が気になった?」
バルティルデの感嘆の声にエルフリートはロスヴィータにも分かるようにニコレッタの事を伝える。
「彼女、かなり正確に弓矢を作ってるよ」
「そうなのか?」
「うん。こういうのが得意みたいだ」
ニコレッタが持っている弓は、弓矢の形も整っているし、弦の張り具合も良さそうだ。パット見るだけでも、その弓が矢を射るの能力を有しているのだと分かる。
これは、素晴らしい。エルフリートの口角は自然と上がった。
「負けていられないねぇ」
「うん。そうだね」
「あとは、素材探し終了の合図か」
「もう少ししたら、合図するよ」
「ああ、頼む」
ロスヴィータたちは、彼女たちに気付かれないように会話をしつつ、各々の作業へ取り掛かるのだった。
2026.7.15 誤字修正




