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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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「あはは、急ごうか! まずは、なるべく早く弓矢の素材を集めて自作する事。制限時間は秘密だ。既に決めてあるから安心して良いよ。

 合図をしたら作業を止めて集合する事。ちなみに、班のメンバーへの説明時間は考慮しないから、簡潔に分かりやすく説明する事をおすすめするよ」


 バルティルデが彼女たちをおいてけぼりにしたまま説明を進める。エルフリートもロスヴィータも、バルティルデの事を止めなかった。

 緊急時には、最低限の指示しか飛んでこない場合もある。短時間で状況を把握し、迅速に動く必要がある。これがその練習になるだろう。そんな考えがあるからだ。

 戸惑うようにエルフリートやロスヴィータに視線を向けてくるが、二人とも気付かぬ振りでやり通す。


「では、開始」


 顔を見合わせる班長たち――この瞬間だけは、誰もが胸の内に秘めている感情を忘れているようだった――に向けて、ロスヴィータが号令をかけた。

 びくりと体を震わせた彼女たちは、慌てて背を向けて走り出す。蜘蛛の子を散らすような動きに、エルフリートとロスヴィータは互いに視線を交わらせた。


「フリーデ、結界は?」

「もう張ってあるよ」


 バルティルデの問いかけにエルフリートは笑顔で応えると、彼女は目を細めて結界が張ってあるであろう方を見つめた。分かりやすいように、と目視できるように光らせてはいるが、ここからだと分かりにくいだろう。

 今回は目印にするのが目的だ。エルフリートはバルティルデが説明をしている間に、狭い範囲の結界を張っていた。物理的な強度はそれなりにある。

 何も考えずにぶつかれば、それなりに痛みを感じる事になる。


「あの、ぼんやりと見えるやつかい?」

「バティは目が良いね。その通りだよ」

「……私には、いまいち見えないのだが」


 バルティルデの隣に並び、彼女が見ている方向を見つめるロスヴィータの目つきは険しい。目に力を込めて、結界を見ようとしている。その真剣な姿が逆に面白くある。

 エルフリートはひっそりと笑み、それからロスヴィータの肩にそっと触れた。


「ロス、ここから一番近い結界はあっち」

「ん? ああ……なるほど、あなたが教えてくれた方のものなら見える」


 ロスヴィータにも分かりやすいように指で示せば、彼女が嬉しそうに笑う。エルフリートはそれに癒されながら話題を戻した。


「ところで、一定時間っていつ? 私たちはまだ、その打合せはしていなかったよね?」


 バルティルデの説明にあった制限時間、は決まっていない。決める時間がなかったからだ。エルフリートがそれを指摘しなければ、きっとロスヴィータから同じ言葉が吐き出されただろう。

 バルティルデは数回瞬きをしてから「簡単な事さ」と笑う。そして人差し指で空を示した。


「日没する直前まで、だ」

「ああ……そうだよね」

「うん? 日没が、何かあったのか?」


 そういえば、その話をしている時にはロスヴィータは近くにはいなかったかもしれない。首を傾げる彼女に向けて口を開く。


「日が暮れて暗くなったら、範囲を狭めていても危険でしょ?」

「確かに、足元は暗くなるな。迷子にはならなくても怪我人が出るかもしれない」

「だから、暗くなる前にはなるべく戻ってきてもらうようにしたいねっていう話をしていたんだ」


 日没寸前に集合の号令をかければ、日没するまで、あるいは日没直後には戻ってくるはずだ。そうなれば、周囲を魔法で明るく照らして安全地帯をつくって過ごす事ができる。

 エルフリートたちは、彼女たちをなるべく安全な環境で訓練する義務がある。少なくとも、簡単に想定できるリスクは避けて訓練や指導をすべきだ。


「では、彼女たちにはほとんど時間がないのか」

「そうなるね」

「……弓矢を完成させる余裕があるのか?」


 ロスヴィータの疑問はもっともだと思う。エルフリートは思わず「あー……」とうめいた。エルフリートなら、作れる。バルティルデも簡単に作ってみせるだろう。

 では、他の人間はどうだろうか。


「私は、やれる自信がないぞ」

「ロス……胸を張って言う事じゃないと思う」


 ロスヴィータの堂々とした物言いにエルフリートは思わず呆れてしまう。自慢できる事ではないのに。


「胸を張っているわけではない。ただ、事実を述べただけだ」


 ロスヴィータの訂正にエルフリートは納得した。彼女は物言いこそ堂々としているものの、その表情には特に感情は浮かんでいない。

 彼女は決して開き直ったわけではないのだ、と彼女の表情を見て理解する。言葉通りに事実を口にしただけだった。

 そうだった。彼女は裏表のない性格なんだった。ロスヴィータの真っ直ぐすぎる性格を、エルフリートは好ましく思っているのだ。


「じゃあ、試してみるかい? あたしたちも」

「完成しなかっただろうする」

「するよ。私が手伝う」

「それはズルでは?」


 真面目過ぎるロスヴィータの言葉にエルフリートとバルティルデが顔を見合わせる。


「私たちで、ひとつの班じゃない?」

「弓矢は各自で作る。班はメンバーと協力する。なら、あたしたちは協力してもルール違反じゃない。そもそも作る時に協力しちゃいけないってルールは作ってないしね」


 確かに、バルティルデは協力するなとは言っていない。エルフリートがロスヴィータを見れば、彼女は「……確かにその通りだ」と目を丸くしながら呟いていた。

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