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ジナイーダの方に向かったのは二つの班だった。ジナイーダの班に近付きすぎる前にロスヴィータが手を叩いて注目を集めた。
「そろそろ各自の作業は終わる頃だろうか? 作業終了の報告が来ていないが」
ロスヴィータの言葉に全員が慌てる。報告を上げるように、という指示は出していなかった。だから、彼女たちは報告するという事に考えが回っていなかったのだろう。
エルフリートは、最初から報告は上がってこないだろうと思っていた。この状況は想定通りである。おそらく、ロスヴィータもそうだ。
彼女たちの注意を完全に自分へ向ける為だけに、指示をでっち上げたのだ。
――とはいえ、報告をしろと指示をしていなくても報告をするのが本来なのだが。
指示された作業を終えたら、作業終了の報告を行う。報連相をする事は基本中の基本なのだから。
騙し討ちにも近い声かけだったが、彼女たちの気を引く事ができればどんな手段でも良い。そうロスヴィータが判断したのであれば、エルフリートはそれに従うまでだ。
ざわついた少女たちは互いに顔を見合わせると頷き合って班長の役を務めている一人がそれぞれこちらに向かい始めた。
「フリーデ、バティ」
「うん」
「分かってるって」
ロスヴィータが何を言いたいのかは分かる。エルフリートはバルティルデと視線を交わらせた。
「フリーデがきっかけ、あたしは具体的な話」
「分かった」
端的に口裏合わせをしただけだが、きっと大丈夫だ。アドリブ力はエルフリートもバルティルデもそれなりにある。いや、バルティルデは特に優れている――はずだ。
エルフリートはあえてロスヴィータの隣に立った。
ロスヴィータのもとに集まった班長たちが各々報告を上げる。ロスヴィータは彼女たちに戻って良いとは告げず、その場に留まらせた。その行動は彼女たちの不安を煽っているが、その辺りはどうしようもない。
エルフリートは視線を向けられる度に微笑み返す。エルフリートの今の役割はそれだけだった。
「さて、この場に残るように言ったのにはわけがある。緊張しなくて良い。難しい話でも怖い話でもない。フリーデ」
「はぁい!」
エルフリートは威勢よく手を上げてぴょんっと跳ねた。年齢の割にはやりすぎたかもしれないなという考えが頭に浮かんだが、すぐにそれを払いのける。
思いきり明るい笑顔を作り、班長たちを見回した。
「今日、想定外に時間がかかってしまったのは全員が理解していると思うんだけど、大丈夫?」
「はい」
「だから予定していた訓練の一部を省略するしかなくなってしまったんだ。それも、理解している?」
「はい」
硬い声が返ってくる。中には不満げなものも混ざっている。エルフリートは表情を変えずに人差し指を立てた。
「そこで、これからちょっとした訓練を兼ねた遊びをします」
「……遊び、ですか?」
「訓練ではなく……?」
エルフリートが言い出した事の意味が分かっていないのだろう。彼女たちの顔には疑問が浮かんでいる。
その素直すぎる反応に、苦笑したくなる。が、エルフリートは耐えた。
「娯楽の要素がない訓練が良いなら今から変更するけど」
「いえっ、考えてくださったものをそのままやります!」
「遊びます!」
続々と上がる「やります」の声だったが、何人かは言葉遣いがおかしくなっている。吹き出しそうになるのをやり過ごしてから笑顔で頷いてみせた。
「じゃあ、詳細はバティから」
「疲労困憊なところ悪いけど、体力のいる遊びだよ」
バルティルデがにやりと笑う。彼女のその含みのある笑いに良い思いをした事はない。班長たちが表情を強張らせた。その中にはエイミーまでいる。ええ……エイミーはそんな顔をしなくても大丈夫だと思うけど。
エルフリートは体力的にもまだ余裕のある彼女が本気で嫌そうな顔をしているのを見てロスヴィータに視線を移した。
ロスヴィータの方は、エイミーの事を見て眉根を寄せている。後でエイミーは怒られるんだろうなあ。エルフリートはちょっとだけ、素直すぎる彼女に同情した。
「まずは簡単に流れを説明する。周辺から材料を探して弓矢を作る。自作の弓矢を使ってスコアを競う。それだけだ」
「あの……」
「何だい?」
「弓矢って、作れるんですか?」
おずおずと手を上げた少女――珍しい事に、普段は大人しいヨランダだった――が質問をしてきた。
「作れる。それっぽいものを組み合わせれば、ね」
バルティルデの適当すぎる説明に、ヨランダが信じられないものを見るかのように目を見開いた。だが、バルティルデが彼女の変化を気にするわけがない。
バルティルデは「しなる棒としならない棒、良い感じの紐っぽいものと羽っぽいものを組み合わせれば何とかなる」という酷い説明を加えた。
「いざという時に、武器の一つや二つ作れないでどうするんだい? そんなんじゃ死ぬしかないよ。因みにこの訓練を兼ねた遊びだけど、うまくいくまでは夕食にありつけないからね」
一瞬にして周囲の表情が絶望に変わる。そんな中、ぐぅ……と誰かの腹がなった。まるで「そんな事を言わないで」と抗議しているかのようだった。




