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バルティルデの手を借りてジナイーダの手当をしたエルフリートは、改めて全員の行動を観察していた。
揉め事は起こしていないが空気が悪い。その原因は疲労だけではないだろう。観察をしていると、視線の向かう先に偏りがある。
一つ目はジナイーダの班やジナイーダ本人へのもの。二つ目はエイミーの班へのものだった。自分の疲労の原因がジナイーダの班が道に迷ったからだと考えている者と、エイミーがジナイーダの班の行動を途中で正さなかったからだと考えている者がいるという事だ。
エルフリートは、この静かな不満が向けられている先に不安を覚えていた。
「ロス……」
「ああ、私も気になっていた」
すぐ側で荷物の整理をしていたロスヴィータが手を止める。
「ジナイーダの班が道に迷った時にそれを正さなかった自分にも非があるのにな。誰かに責任を負わせたいという気持ちは分からなくはないが……」
ロスヴィータのため息混じりの言葉にエルフリートはその通りだと思った。
「気付かなかったって事だもんね」
「ああ、そうだ。それに、エイミーたちを不満げに眺めている割には、私たちへ同じものを向けてこないのもおかしな話だ」
エイミーたちが気付いていたということは、エルフリートやロスヴィータといったエイミーよりもこの山に詳しいメンバーが気付いていないわけがない。
気付いていながら好きなようにさせていた事に気付いたところまでは良いが、そこまでしか頭が回っていないようだ。
どうして放置していたのかというところまで考えがいかないのはまだ分かる。だが、できればエルフリートやロスヴィータに「どうして放っておいたんですか?」と問いかけてくるくらいはしてほしかった。
「そうだよねぇ。私たちも彼女たちを好きにさせていたんだから、せめてこっちにも矛先を向けてくれても良かったもんね」
「散々道に迷ったという事がショックだったのだろう。そのあとすんなりと元のルートに戻れたというのも、彼女たちの精神に傷をつけるには十分だったのだろうな」
肉体的な疲労は精神にも影響を及ぼす。肉体の限界を誤魔化す目的で休憩を極限まで減らしたのも、大きかったかもしれない。とはいえ、それに左右されて精神を乱すようでは今後が心配だ。王都に戻ったら、精神的な方向の指導も加えていった方が良さそうだ。
エルフリートがロスヴィータを盗み見ると、彼女は複雑な心境を隠そうともせず眉間に皺を寄せていた。
「とはいえ、この不満や怒りという感情は良いものではない」
「そうだね」
「どうにかして発散させるか、冷静に考えられるように仕向けるか……」
ロスヴィータが考えているものが何なのかを想像する。発散させるというのは、その不満を吹き飛ばすような催し物をするという事だろう。さすがに、ジナイーダやエイミーたちを矢面に立たせて不満を持つ少女たちの溜飲を下げさせるような事はしないはずだ。
忘れさせるような催し物、と考えても何が良いのかエルフリートには見当がつかないが。
冷静に考えさせるというのは、きっと諭すという事だろう。諭さずに考えさせるのは至難の業だ。自分にも非があると認めさせたり、それに準ずるような考えを持たせたりする事が難しい。誰だって、自分が正しいと思いたいものだ。だから、相手が正しくなかった事にしたくなる。
「ロスは、何か案があるの?」
「案、か。なくはない」
「へぇ? どんな感じ?」
エルフリートは体の向きを変えて彼女に問いかける。ロスヴィータはエルフリートに向けて小さく微笑むと、バルティルデとマロリーの方を顎で示した。
「疲労困憊の中でやれる事は限られている。そういう時は、バティの経験が頼りになる」
「え?」
ロスヴィータなりのヒントだったのだろうが、エルフリートには何の事なのか全く分からなかった。エルフリートのとぼけた反応にロスヴィータが珍しく驚いてみせる。どうやらエルフリートでも分かるような簡単なもののようだ。
バルティルデの経験が頼りになる、となれば思い浮かぶのは彼女の過去だ。彼女は元々傭兵だった。つまり、ロスヴィータはバルティルデが傭兵時代に培ったであろう何かが使えるのだと考えている。
そこまで分かったところで、その『何か』が分かるわけではない。
「傭兵の何が使えそうなの?」
「フリーデでもそこまでしか分からないのか」
ロスヴィータが意外だという表情でエルフリートの事を見つめてくる。エルフリートは唇を尖らせた。
「分からないよ! 私だって、分からないことはあるんだもん」
思ったより強い口調になってしまい、エルフリートは慌てて口を塞いだ。それを見たロスヴィータは、怒ったり戸惑ったりする前に笑い出す。
何も笑わなくたって! エルフリートはそう思ったが自分がやらかした手前、何も言えないのだった。




