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――結局、ニコレッタが転倒未遂や転倒を繰り返したものの他の面々は持ちこたえた為、彼女に補助魔法をかけるだけで小休憩のみの行軍になった。
座る事を許さず、ただ立ち止まって水分などを補給するだけに留めた休憩に不満そうな表情を見せる少女の姿が点在したが、それは当然だろう。
エイミーが先輩として最短で目的地に案内してみせたから、幸いな事に騎士団の士気は下がらなかった。
「今夜はここに泊まる。事前に案内していた通り、全員野営だ」
山小屋の前でロスヴィータが説明を始めている。山小屋は目印であって、宿ではない。人数的にも山小屋には入りきれないし、平等を期す為には全員夜営という選択肢しかなかった。
エルフリートはへとへとに疲れ切って座り込む少女たちを眺めながら、ロスヴィータの説明を聞いていた。
「各班、予定通りに動け。休んでいたい気持ちは分かるが、時間が押している以上のんびりはしていられないぞ」
ロスヴィータは説明を終えるとそう締めくくり、すぐに立ち上がるように手を動かす。女性騎士団は全員立ち上がり、動きに鈍さはあるものの、己のすべき作業へと向かっていった。
そんな中、ジナイーダとニコレッタが残ったままになる。ジナイーダはロスヴィータの指示だろうが、ニコレッタの方は心当たりがない。エルフリートはジナイーダに語りかけるロスヴィータを視界の端に入れながらニコレッタに近付いた。
「ニコレ、どうしたの?」
「副団長……」
ニコレッタはエルフリートを見るなり眉尻を下げた。
「実は……せっかく補助魔法をかけていただいたのに、最後の最後で転んでしまって」
「うん」
「足を痛めてしまったかもしれません……」
「そっか。どっちの足? 見ても良い?」
よく見てみれば、彼女の右ひざの部分が汚れている。強くぶつけたのだろう。制服の生地が傷んでいた。エルフリートはニコレッタが靴を脱ぐのに合わせて地面に座り、彼女の足を自分の太ももに乗せる。
ニコレッタの足首が赤く腫れていた。が、そこまでひどくはない。単純に軽い捻挫だろうと判断する。
「少し動かすよ。痛かったら教えてね」
「はい……」
ゆっくりと力を入れすぎないようにして足首を動かす。右、左、と捻ると彼女の足がそれに反応するように力が入るのが分かった。
「痛かったでしょ。我慢しないで」
「すみません。痛かったです」
「どっちに曲げる時が痛かった?」
「えっと……」
悩むそぶりを見せる彼女に、もう一度足首を動かしてみせる。小さな抵抗がかかる方が痛い方だとあたりはついているが、それが本当かは確認するしかない。エルフリートはニコレッタの反応を待つ。
彼女の反応の悪さに、エルフリートはある事を思い出す。
「ごめん、補助魔法に痛覚の感覚緩和を入れてたんだった。痛みが増すと思うけど我慢して」
痛みを感じにくくさせるのは補助魔法ではなく精神魔法だが、細かい事は伏せておく。エルフリートは感覚緩和の魔法を強制的に解いた。
「う、副団長……」
「うん?」
「これ、すごく痛いです……!」
「あはは、本当? そんなに痛い?」
「これ捻挫ですか!?」
かすれた声を出すニコレッタにエルフリートは「おや」と思う。そこまで痛いのは骨折を疑った方が良いかもしれない。腫れ具合からは骨折という感じはしないが……。
心の中で首を傾げながら、エルフリートはゆっくりと彼女の足を動かした。
「ひ、左です! 左側に曲げようとすると痛いです!」
「ありがとう。ところで動かしていない時はどんな感じ? ズキズキする? それとも、痛みが引いていく感じがする?」
エルフリートの問いにニコレッタが答えるまでには時間がかかった。彼女は痛みに震えて涙目になっていたからだ。
そこまで痛いのは心配だ。エルフリートは骨の異常を本格的に疑い始めていた。
骨折まではしていなくとも、ヒビが入っているかもしれない。そうなると、無茶な動きはさせられない。最悪、この山小屋で研修が終わるまで待機を命じるしかない。
「動かさなければ、そんなに痛くはないのかもしれません。何となくじんじんとした疼痛が残っていますが……」
「筋が張るような感じとかはしなかった?」
「それは、多分ないと思います」
彼女の声はまだ震えている。エルフリートは丁寧に彼女の足を自分の太ももの上に乗せ直し、バルティルデを呼んだ。
「バティ、要救護者だよ」
「はいはい、ニコレな。……大丈夫かい?」
「あ、バティさん」
転倒する都度バルティルデに助けられていたからか、ニコレッタの声が柔らかくなる。
「ああ、一応固定して動かないようにした方がよさそうだねぇ」
「やっぱりそう思う?」
「ちょっと準備してくるからそのまま待ってて」
「はぁい」
バルティルデはこういう時に頼りになる。エルフリートはニコレッタを安心させるように微笑みを向けてから、バルティルデの向かった方を見つめるのだった。




