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エルフリートは疲れながらも頑張って歩く彼女たちからロスヴィータとジナイーダの方へ視線を移した。ロスヴィータの隣を歩くジナイーダの表情は暗くはない。ロスヴィータがうまく彼女の事を支えてくれているようだ。その先では、ニコレッタが木の根につま先を引っかけて転んだ姿が見える。
エルフリートが反応するまでもなく、バルティルデが彼女の方へ足早に向かっていった。
ジナイーダの方をもう一度見れば、彼女の足取りは悪くない。薬草茶が効いているようだった。
女性特有の事情については、エルフリートには理解できない世界だ。理解する気がないという意味ではなく、経験できないものだから完全には理解する事ができないという意味だ。
そういえば、とエルフリートは思う。周囲の彼女たちはどうやってその苦しみを耐え、乗り越えているのだろうか。エルフリートは女性騎士団に所属している。つまり、ほぼ全員が女性――エルフリートの性別が男性なのがおかしいだけ――である。
エルフリートは五年以上女性騎士団の副団長をしているが、彼女たちがそういった女性特有の悩みで辛そうにしている姿をほとんど見た事がない。
エルフリートが鈍感なだけなのか、彼女たちがうまく隠していただけなのか、たまたま影響の少ない人間が集まっていたのか、そこは分からない。確認する気もない。支障が出るくらいなら対応をする必要はあるが、現時点ではそこまで問題になっている事でもないからだ。
少なくとも、女性でもないエルフリートが何の問題も耳にしていない状態で議題に上げる事はできなかった。
「ジーナ、今のところは大丈夫そうだね」
「ええ。でもあまり無理はさせられないわよ」
「……そうだよねぇ。休ませてはあげたいんだけど、全体の動きの問題もあるし、難しいよね」
エルフリートはすぐ側を歩くマロリーと小声で話す。
「私、あんまり分からないんだけど、やっぱりつらいの?」
今の流れなら聞ける気がした。エルフリートは「個人差があるのは知ってるけど、みんながどういう風に努力をしているのかも知らずに過ごしているままなのは問題かなって」とつけ足した。
マロリーは「今さら、ね」と笑ってエルフリートの背中を叩く。もちろん背中にはリュックがある。荷物がばふっと変な音を立てた。背中側を平らにしておいて良かったぁ。
荷物の中にはナイフなども入っている。それがぶつかったらお互いに痛い思いをするしかない。
「そうね……私もたまに薬を飲んで耐えている時があるわ」
「そうなんだ」
「毎月の事だから、あんまり神経質になってはいないけど。私はこれで軽い方なの。重い子は、その日には休めるように予定を調整しているわ」
エルフリートが気付いていなかっただけらしい。エルフリートが男性だという事を同期は三人とも知っているから相談などしてくるわけがないし、他の面々はわざわざ上司に――それも、直属ではない上司に相談するわけがない。
状況的に、エルフリートが声をかけられる機会は最初からなかったのだ。ロスヴィータがジナイーダの手を握り、微笑む姿を見て何となく焼きもちじみた感情が浮かぶのを感じながら、エルフリートはマロリーとの会話を続ける。
「そっかぁ。時々シフトを変えたりとかあるけど、それってそういう事?」
「全部が全部、それとは限らないけれどね」
「それもそうか」
あ。エルフリートの視線の先に、ジナイーダが照れた顔をしてロスヴィータを見つめている姿があった。ついこの前、ロスヴィータがエルフリートの行動に嫉妬心を覚えていたが、今度は立場が反対になってしまったようだ。
エルフリートはマロリーの咳払いで我に返る。
「フリーデ」
「あ、うん」
「今まで、自分たちだけで解決しようとしていたのが悪かったのかもしれないわ。誰もが我慢しないで済むように働き方を変えていきましょう」
マロリーはそう言うと「こればかりは逃げられないものね……」と苦笑する。
「何でもかんでも、男どもと同じ条件で張り合おうとする必要はないしね」
「バティ」
「さっき、ニコレがつまずいてひっくり返ってたから助けてきたよ」
バルティルデが戻ってきた。
「うん。見えてたよ。ありがとう」
「泣きべそかきそうになってたよ。新人さんは可愛いねぇ」
バルティルデは皮肉ではなく、本心から彼女の事を可愛く思っているらしい。柔らかな声色で笑っている。
「初めての行軍みたいなもんだからね……なのに、こんな事で転ぶなんて恥ずかしいと言っていたよ」
「まあ、歩きなれていなければ、誰だってこんな足元の悪い場所、転んじゃうって」
「そう冷静に思えなくなっているくらい、余裕がないのね」
やっぱり、休憩させる必要があるかな。彼女たちの疲労感を想像したエルフリートは考えを改めるべきか頭を悩ませる。だが、甘やかしすぎるのは彼女たちの為にはならない。
脱落者が出ない程度にサポートをしないと、と思いながらエルフリートは「あと三人くらいが転びそうになったりしたら休憩にしようか」とバルティルデとマロリーに声をかけるのだった。




