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エルフリートがロスヴィータの様子を見て安らいでいると「あの……」と控えめに声をかけられる。ジナイーダだ。エルフリートが彼女から目を離している内に、薬草茶の効果が出てきたらしい。
即効性はあまりないはずだが、温かい飲み物を口にして体が温まったのかもしれない。少し前よりも顔色がよくなっていた。
「お待たせしてすみませんでした。これ以上、みなさんをここで足止めするのも申し訳ないので、行動再開でお願いします」
エルフリートはロスヴィータにちらりと視線を向ける。彼女はエルフリートの視線に口の端を上げて答えると、ジナイーダに向き合った。ジナイーダの手を握って優しく微笑むロスヴィータは王子様みたいだ。
いや、彼女はエルフリート専属の王子様だった。
「もう大丈夫そうだな。だが、私が気になるから……一緒に歩こう。役割は気にしなくて良い。さっき聞いていただろう? ここから先は別の班が主導になって移動する事になる。だから、ジーナは私と一緒に移動する事になっても問題ない」
薬草を取りに行っていたエルフリートはその場にいなかったが、薬草茶を用意している時に話は聞いていた。先頭を歩いていたジナイーダを班長としている班は、エイミーを班長としている班と交代する事になっていた。
エイミーに探りを入れたところ、彼女は今の状況をしっかりと把握していた。今どこにいるのか、本当はどの方向に向かえば良いのか、理解していたらしい。
因みに、エイミーたちの班がどうして先陣を切っている班に道の間違いを指摘しなかったのかと言えば――エルフリートやロスヴィータが考えているのと同じ事を考えていたからだった。
先輩だから、と指摘するのはたやすい。が、それでは成長にならないと考えたらしい。もしかしたら、エイミーはついこの前あった逆恨み集団の件で思うところがあったのかもしれない。
カッタヒルダ山への移動中、エイミーが後輩と一緒に仕事をする時に逆恨みについての指摘をした事があるとこっそり教えてくれた。注意したり、代わりに対処するだけでは、後輩たちの為にならないのだと実感した可能性はある。
そこで、エイミーたちの班は最終的に交代することを考慮して対策を練る事にしたらしい。彼女たちはしっかりと正しい方向に戻る為の準備をしていた。この竹林に辿り着くまで、木々にマークをつけていた。エイミーは「あのリボンを解きながら移動します!」と指をさして笑う。
エルフリートはエイミーの成長に目元をゆるませた。
エイミーたちの班は効率よく本来のルートへの道を示し、女性騎士団を導いていく。エルフリートは彼女たちの姿に感心しながら、他の騎士たちを観察していた。
それにしても、やっぱりみんな疲れちゃってるなぁ。
エルフリートやロスヴィータ、バルティルデ、マロリーは余裕がある。そして、エイミーたちの班やドロテの班も、まだ大丈夫そうだ。戦争に参加していた面々は問題なさそうだったが、その他の大半は歩き方に疲労が滲んでいる。
中にはふらついている者や、足元が危なっかしい者もいる。
「バティ」
「ああ、ちょっと危なっかしいねぇ」
「でも……」
「分かってるさ。休憩を挟むと、もう動けなくなるだろうね」
動く事をやめたら、きっと彼女たちは駄目になる。エルフリートもバルティルデと同じ考えだった。疲労感を無視し、無理やり歩いている状態だ。中には疲労なんてしていない、と自分に言い聞かせて気合だけで歩いている者もいるだろう。
そういう彼女たちが休憩したらどうなるか。自身の肉体の状況を把握してしまい、動けなくなる。
これはエルフリートにも経験のある事だった。
「もう少し頑張ってもらって、駄目そうなら補助をしてでも歩かせる……かな」
「私とフリーデがいれば、それくらいの補助はできるでしょう」
「マリン」
「でもこれは最終手段。訓練にならなくなってしまうもの」
「うん、そうだね」
甘やかすわけにはいかない。ここで甘やかしてしまったら、いざという時にもそれを期待してしまうようになるだろう。
失敗はさせる。でも、甘やかしはしない。この匙加減は難しい。それでも、彼女たちの為にやらなければならない。
「夜は、ぐっすり眠ってもらおうかな。あと筋肉の弛緩もしてあげよう。彼女たちが気付かない程度なら良いでしょ?」
「……それを甘やかしてるって言うのよ」
マロリーが呆れ声で囁く。エルフリートは小さく笑った。気付かれなければ、なかった事にできる。
体力の限界に挑ませるのはいつでもできるし、そもそもエルフリートのそういう補助があったとしても彼女たちからすれば地獄のようなつらさが残るだろうから。




