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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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 ジナイーダの様子を見つつロスヴィータに髪を梳かしてもらっているエルフリートは、ロスヴィータが苦戦している空気に戸惑っていた。梳かすだけのはずだけど、大丈夫かなあ?

 エルフリートと似たような気持ちの面々もいるらしく、ちらほらとこちらの様子を窺っている少女たちの姿もある。


 彼女たちの反応が気になり始めるとエルフリートも不安になってくる。本当に大丈夫……だよね? エルフリートの事を心配するような視線が増え、比例するようにロスヴィータの無言のため息が増える。不安にならない方がおかしかった。

 エルフリートはそわそわしながらロスヴィータが「終わった」と言い出すまで待ち続けた。


「待たせた。少し手間取ったが……もう大丈夫だ」

「ありがとう、ロス」


 ロスヴィータは明らかにほっとした表情で櫛を返してきた。それを受け取れば、ロスヴィータが言いにくそうに視線を揺らす。何だろう。櫛は折れてないし、傷もついていない。

 彼女が気まずく感じるような事は何もないはずだ。エルフリートは不思議に思いながら「何かあったの?」と素知らぬ顔で問いかける。


「あぁ、いや……かなり櫛で梳かしたせいか、あなたのふんわりして可愛らしい髪が台無しになってしまったんだ」

「ふんわりしてるくせ毛、可愛いと思ってくれてたんだ……嬉しいな」


 髪の毛のボリュームが落ち着いてしまった事は、そんなに大きな問題ではない。むしろ、今までロスヴィータがこの髪の毛についてどう考えていたのが分かって嬉しいくらいだ。

 エルフリートは彼女が言う通り普段よりも癖のない髪を結い直しながら笑った。


「あなたの髪は私のものと違ってふわりとしているところが良いんだ。触り心地も良いし。だからこそ、それを失われてしまったのが残念でならない。しかも、その原因が私なのだから悔しいという気持ちも強い」

「そこまで?」

「ああ。今まであまり口にはしなかったが、私はその髪が好きだ」


 ロスヴィータが苦戦していると思っていたエルフリートだったが、どうやらあれは苦戦しているのではなく真剣すぎただけのようだ。エルフリートは見当違いをしていたらしい。

 ロスヴィータの熱の入り具合が意外で瞬きを繰り返していると、彼女はそのまま語り始めた。エルフリートは何とかそれを聞きながら髪を結い直していく。


「フリーデの髪は、柔らかい。私はあの触り心地が好きだ。くせ毛ではあるが、剛毛のくせ毛ではない。かと言って、柔らかすぎないから触れる時の不安がなくて気が楽だ」


 柔らかすぎると不安になるんだ……? エルフリートはロスヴィータの言動に目を輝かせる。彼女はエルフリートの反応が肯定的であると気付くなり、その語り口に磨きをかけてくる。


「あなたの髪は艶やかで、見ているだけでも美しい。なのに、ふんわりとしていて……触れればその魅力を損なってしまうのではないかと恐ろしく思ってしまう。だから、あなたの髪に枝葉や葉が絡まっている姿を見て肝が冷えた。

 あの輝きがなくなってしまったらどうしよう、と」

「ロス……」

「あの葉はすぐに細かく割れてしまう。その割れた破片が、あなたのその繊細な美を破壊してしまうのではないかと恐れたのだ」


 ロスヴィータの並々ならぬ情熱に、思わず手が止まる。ロスヴィータはエルフリートのそんな動揺に気付かないまま語り続けている。


「私も少しは勉強したのだ。どうすれば髪の艶やかさを保つ事ができるのか。どうして髪に艶があるのか」

「勉強熱心なの、すごいねぇ」

「いや。私など、片手間に少し触れただけにすぎない。だから、こんな中途半端な身でその髪に触れるのは緊張した」


 ロスヴィータがそこまでエルフリートの髪の毛に対してこだわりがあるとは知らなかった。そこまで考えてから、そういえばロスヴィータもエルフリートと同じで憧れを拗らせて王子様になったのだったと思い出す。

 その熱量が、エルフリートの方にも向いていただけなのだろう。確かに、エルフリートだって、ロスヴィータには伝えていないロスヴィータの好きなところはたくさんある。


「どうにか髪のダメージを最低限にしたくて、いつか必要になるかもしれないと思って持って来ていた香油を櫛に染み込ませてみたんだ」

「香油……?」


 エルフリートは髪を軽くまとめて櫛を取り出した。よく見てみれば、確かに普段と様子が違う。


「勝手に香油を使ってしまってすまない。先に言うべきだった」

「ううん。ロスがする事なら私は気にしないよ」


 何となく気になって、エルフリートはその櫛の香りを確かめる。ふわりと花の香りがした。これは何の花の香りだろうか。柑橘系の優しいそれに、自然と頬がゆるむ。


「ねえ、これって何の油?」

「カメリアにネロリだったはずだ」

「へぇ……良い香り」

「ネロリの他にも何か混ざっていたかもしれないが……」


 ロスヴィータはそう言いながらはにかんだ。あ、今のロス、可愛い。エルフリートはそれを言葉にする事ができず、ふふっと笑ってしまうのだった。

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