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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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16

 ぎこちない動きでエルフリートの髪に触れるロスヴィータの目は真剣そのもので、これから戦闘が始まるのではないかと勘違いしてしまいそうだ。エルフリートはそんなロスヴィータの様子を微笑ましく思いながら、彼女の仕事が終わるのを待った。

 ロスヴィータの仕事は、思わぬ速度で終わった。


「フリーデ」

「もう終わり?」

「いや、すまないが、これは時間がかかりそうだ。あなたが予定していた事を優先させた方が良い」


 エルフリートは伏せていた目をロスヴィータに向ける。彼女は非常に申し訳なさそうにしていた。


「そうだね。身だしなみは大切だけど、ジーナの方が大切!」


 エルフリートは早速、ロスヴィータとバルティルデの手を借りて――マロリーは待機状態になる面々の管理を申し出てくれた――作業を始めた。バルティルデは傭兵をしていただけあって調合作業は手慣れているし、ロスヴィータの方はエルフリートと知り合ってから練習を重ねているおかげで問題なく動く事ができた。

 エルフリートがディオスピロスの葉の処理をする間、二人には別の材料の準備を手伝ってもらう事にした。煎じて飲ませる為、湯を用意する必要もある。手間のかかるそれらを全部頼んでしまった。できる仲間がいると楽ちんだね。

 髪に引っかかったままになっているであろうディオスピロスの葉が混入しないようにと、念の為にと持ってきていた布――包帯にする為の正方形の布だ――で髪の毛をまとめた。


 二人が準備する姿を時々確認しては、自分の作業に集中する。それを数回繰り返している内にエルフリートの方の準備は終わった。エルフリートが行った作業は単純だ。魔法でディオスピロスの葉を乾燥させてから、粉砕する。ただそれだけだ。

 粉砕したものは茶葉を漉す時に使う布製のティーバッグに入れればすぐに使う事ができる。

 粉砕するよりも、良い感じに乾燥させる方が時間がかかる。エルフリートが作業をしている内に、ロスヴィータとバルティルデが担当している作業はほとんど終わってしまっていた。


「フリーデの髪の毛、面白すぎたんだよ……」

「だからって、あれは笑いすぎだ」


 そんな会話が耳に入ってきていたくらいだった。

 飲み薬を煎じる準備が終わり、出来上がりを待つだけになった頃、ジナイーダがそろりと近付いてきた。

 彼女の顔色は相変わらず悪いままで。良くなる様子は見受けられない。やっぱり休ませる事にして正解だったね。

 エルフリートは態度を変えないように努めて、ジナイーダに微笑みかけた。


「もう少し待ってね。すぐに完成するから」

「お手間をおかけして申し訳あり――」

「あ、今回そういうのはいらないから」


 ジナイーダが謝罪を重ねようとするのを制してから、すぐ側に座るよう手招きする。


「ジーナ。これから飲んでもらうのは即効性があるものじゃないんだ。だから、すぐに無理するのはだめだよ」

「はい」

「それと、今回は軽い痛み止めに、血圧を下げてお腹の負担を減らす効果がある薬草茶だから。強い効果はない代わりに、負担も少ないものにしたの。安心して飲んでね」

「はい」


 続けてエルフリートが説明するのを、ジナイーダは真面目な態度のまま聞いていた。

 エルフリートは、これを飲んだから安心できるものではない事、体調が改善されなければきちんと報告する事、などたくさんの説明や注意を重ねた。ジナイーダはそれら全てに素直に頷いていた。




 ジナイーダが薬草茶を飲んでいる間にロスヴィータによるエルフリートの葉っぱ除去作業が再開された。

 ロスヴィータが早期対応を諦めたのは、エルフリートの髪の毛に、枯れかけた葉が絡まっていた事が大きかった。

 ディオスピロスの葉はしっかりとしており、乾燥するとパリパリと割れてしまう。その、割れた部分が髪の毛に引っかかり、絡んでしまっているのだ。

 ロスヴィータが取り除いたものの中には、ほとんど葉脈だけになった葉も混ざっている。ロスヴィータがときおり「あっ」と小さな声を上げている事を考えると、エルフリートの髪には葉の欠片がたくさん残っているのだろう。

 エルフリートは辛抱強く待った。


「フリーデ」

「ん……終わった?」

「いや……その、まだなんだ」

「そっかぁ」


 ロスヴィータの気まずそうな声に、何となく自分の状況が想像できる。もういっそこのままでも良いのに、とすら思っていたエルフリートだが、エルフリートの事を見るなり吹き出すバルティルデの姿を見て気持ちを改めた。

 さすがに毎回こちらを見る度に、は困る。士気に関わる。


「そうだ、ロス」

「どうした?」

「髪の毛解くから、櫛で梳かしてくれる?」


 エルフリートの提案に、ロスヴィータは「その手があったか!」と嬉しそうな声を上げた。

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