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エルフリートは目的の木を探して彷徨った。エルフリートの記憶では、近くに自生していたはずだ。今回探しているのはディオスピロスだ。秋から冬にかけて黄色い果実がなる樹木で、幹、葉、果実全てが効能を持つというすごい植物でもある。
暖かい季節は大きく枝を広げた堂々とした姿をしているが、日照時間が減って気温が下がると葉を落とす。この時、果実だけが枝に残る。
今回エルフリートが必要としているのは、葉だった。
葉は血圧を下げる効果がある。これを、エルフリートが持参しているいくつかの薬草類とブレンドすれば、即席の生理痛を軽くする薬湯を作る事ができる。
本当は乾燥させたり処理をして茶葉にしたものを使うが、今回は緊急事態だ。丁度葉が枯れて落ちる直前の季節で水分も減っているだろうから、魔法で簡単に処理をした茶葉もどきがつくれるはずだ。
ついでに道中で手に入れていたサリクアルバの樹皮を普段の使用量よりも少ない量を加えれば完璧だ。
エルフリートは周囲を見回し、見覚えのある木を探す。目的の木は近くにあった。その木の枝にはたくさんの果実がなっていて、そのいくつかは既に野鳥によって食べられていた。
「うん。元気で立派なディオスピロス!」
エルフリートは早速その巨木によじ登った。葉を採るついでに果実の方も採っていく。果実は栄養価が高く、疲労困憊の騎士たちにとっての薬になるだろう。気を付けなければならない点はあるものの、そこまで神経質にならなくても良いレベルだ。
となれば、持って帰らない手はない。
エルフリートは懐かしい気持ちになりながら、淡々と葉と果実を収穫していった。
収穫は完璧だった。エルフリートが意気揚々と竹林に戻れば、全員の視線が集中した。唐突に視線が集まった事で驚いたエルフリートは歩みを止める。
「えっと、ただいま!」
「ああ。おかえり。それにしてもその荷物はどうしたんだ? 何かを収穫しにいったのだとは思ったが……」
ロスヴィータが言い淀む。何だろうか、とエルフリートは自分の姿を確認したが、おかしなところはどこもない。しいて言うなら、少しばかりやんちゃをしたせいで薄汚れているくらいだろうか。
「フリーデ、たくさんの収穫があったようだが――」
「ロス、そんな遠回しに言ったってこの子は分からないって!」
バルティルデが笑いながらロスヴィータを注意する。マロリーの方は「言いにくいなら私が言うけど」と援護していた。
「いや、私が言うよ」
「えっと……何か、あった?」
「ぶふっ」
「バティ!」
「失礼……」
笑うような事? エルフリートは思わず首を傾げた。すると、エルフリートの事を見ている内の何人かが口元を押さえてそっぽを向いた。笑うのを耐える為の動作だろうか。
ますます状況が分からず、エルフリートはただへらりと笑いかけるしかなかった。
「んんっ、フリーデ。とりあえず私の側へ」
「? はぁい」
元々ロスヴィータたちの方へ行くつもりだった。彼女に呼ばれるがままに近寄れば、マロリーが視線を逸らす。あのマロリーですら、エルフリートから顔をそむけたくなるという事に、一体今の自分に何が起きているのだろうかと不安になる。
いや、エルフリート自身は身体的には何も異常を感じていない。何かが起きていたとしても、別にエルフリートの体調に関わるような深刻な内容ではないだろう。
「髪飾りを、取っても良いか?」
「髪飾り」
「ふっ、んふ、ごめん。ちょっと無理」
「えっ?」
バルティルデが口を押えてどこかに行ってしまった。ロスヴィータに助けを求めれば、彼女も変な表情をしている。
「何かの葉が、あなたの髪のあちこちを彩っている」
「あっ、あぁ!」
ようやく理解した。エルフリートの髪がぼさぼさになっているのだ。エルフリートは喜んでロスヴィータの方へ頭を向けた。こうすればロスヴィータもエルフリートの頭がいじりやすいはずだ。
少しの間、何も起きなかった。もしかしたら、ロスヴィータがエルフリートの髪に触れるのをためらっていた時間だったのかもしれない。
「やるぞ」
「あ、うん」
エルフリートに向けて気合の入った声が送られる。エルフリートは頷いた。頭のあちこちにロスヴィータが触れる。エルフリートは何が起きているのかも分からず、ただ彼女の行動を受け入れた。




