表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/42

14

 そうして待つ事、数分。やはり、彼女たちは間違った方向に歩みを進めた。ちなみにこのまま進むと目的地である山小屋ではなく竹林――方向転換しなかった場合は、だが――に辿り着く。

 エルフリートはロスヴィータたちに目配せして黙ってついていくようにと念を押した。


 カッタヒルダ山の地理を理解しているのは初期メンバーだけなのだろうか。エイミーたちが先頭を歩く役になっている隊に方向が間違っていると指摘しないのが不思議だった。

 確かに、エイミーたちはカッタヒルダでの作戦に参加していない。だが、山岳訓練でカッタヒルダ山に登る事はあった。その時にしっかりと地形を頭の中に叩き込んでいたら、この状況がおかしいという事に気が付いたかもしれない。

 少女たちの背中を見つめるエルフリートはそんな事を思うのだった。




 誰もルートの見直しをしなかった。エルフリートは目の前に広がる懐かしい景色を眺め「あー……うん。そうだよねぇ……」と呟いた。先陣を切っていた班の面々は膝をついている。

 竹林が見えてきた時点で回れ右をすれば良かったのに。


 エルフリートは班長をしていたジナイーダの近くでしゃがみ、視線を合わせようとした。俯いていてよく見えないが、顔色がおかしい気がする。歩き続けて息が上がっているようだったから顔が真っ赤なのかと思ったが、血の気が引いているように見える。

 貧血だろうか、と手を伸ばせば、俯いていた顔がエルフリートの方に向けられた。やはり顔色が悪い。目には生気がなく、疲労困憊である上に、精神的にも厳しい状態であるのが見て取れる。


「ジーナ、大丈夫?」

「……すみません」

「体調悪い?」

「い、いえ……! 自分がふがいなくて」


 エルフリートはジナイーダの言葉を一瞬信じかけた。だが、よく見てみれば唇が青い。精神的な事――それも、こんな些細な問題――だけでは、ここまで青くはならないはずだ。

 ジナイーダに気付かれないようにロスヴィータに視線を向ける。彼女はすぐにエルフリートが何か伝えたい事があるのだと理解してくれた。バルティルデに二言、三言何かを話した彼女がエルフリートの方に足早に向かってくる。


「何かあったか?」

「私の判断ミスで、道に迷ってしまいました」

「あ、うん。それなんだけど……ジーナ、その報告よりも先に言うべき事があると思うよ」

「え……?」


 ロスヴィータの声かけに、ジナイーダが力のない返事をする。明らかに調子が悪そうだ。エルフリートは彼女に優しく笑いかけてロスヴィータに話すように目の動きで伝えた――が、ジナイーダには伝わらなかった。

 ジナイーダはきょとんとするだけでエルフリートを見つめているだけで、ロスヴィータに話をする気配はない。

 その様子を見たロスヴィータが小さく笑った。


「ジーナ。体調が悪いのだろう? 体調の異変は報告すべきだ。急に倒れて全員を驚かせるより、事前に申告して配慮してもらった方が迷惑もかからないぞ」

「え、あ……えっと」


 言い淀む彼女にロスヴィータは微笑みかける。


「早めに報告して倒れずに活動し続けるのと、倒れるまで報告せずに周囲の負担になるのとでは、どちらが好ましいか……分かるな?」


 待って、その言い方怖いと思う! エルフリートは心の中で首を横に振った。微笑みかけながら言う内容ではない。

 圧があると思ったエルフリートの想像通り、ジナイーダの表情が引きつった。

 あーあ、怖がらせちゃった。

 ちらりとロスヴィータを見れば、彼女は意味深にこちらに流し目を向けてくる。なるほど、これは作戦らしい。エルフリートは彼女の誘いに乗った。


「ジーナ、私たちは怒ってるわけじゃないからね。個人的には心配してるんだよ。組織的にはリスクを高める行動は取らないでほしいって思ってるけど」


 ロスってば言い方がきついんだから、とエルフリートが続ければ、ロスヴィータは「あなたの方は最後の一言が余計だ」と呆れ声を上げた。


「フリーデ……」

「ロス、私たちがジーナを威圧してどうするの。彼女の体調に気を配るべきなのに!」

「――というわけだ。体調不良の報告はもうできるな?」

「えっ、え……?」


 空気を和ませようとしたが、逆に困惑させてしまったようだ。エルフリートは失敗したなと思う。


「あー、うん。だからさ……素直に私たちに話してくれる? そうしないと、私たち、ジーナの事を助けてあげられないから」


 ジナイーダに笑いかけて彼女の手に触れる。剣を握るようになって節ばったその手はひんやりとしていた。やはり何らかの体調不良で血の気が引いているようだ。

 エルフリートはその手を自分の手のひらで温めるようにゆっくりとさすった。


「あーもう、こんなに冷たい。ね、教えて?」

「あ、あの……実は……」


 ジナイーダの正直な告白はエルフリートを小さく緊張させ、ロスヴィータの目元をゆるませる。彼女の体調不良は、月のものだった。

 魔法や薬の鎮痛……は、効きすぎても彼女の肉体に負担がかかるよね。エルフリートは逡巡した末、一つの結論を出した。


「んー……じゃあ、ちょっと待ってて。すぐ戻る!」

「分かった。バティ! 少しここで休憩する!」

「了解ー!」


 バルティルデが周囲に休憩の号令をかける声を背に、エルフリートは薬草探しに向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ