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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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 揉め事が落ち着き、何とか本来の行動――山岳訓練――を再開したエルフリートたちは、押している予定を取り返そうと移動速度を上げていた。こまめに休憩を挟んだものの、半数以上の騎士の息が荒くなっている。

 やっぱり、スピードを上げるのは無理があったかぁ。エルフリートは内心でため息を吐く。元々、彼女たちが厳しい活動になると想像がついていた。それが、揉め事という想定外の時間の浪費によって悪化しただけだ。


「ロス、予定よりバテてる子が多いね」

「ああ……。仕方がないな。予定通りにはいかなくとも、最終的には予定通り訓練が終わるようにしなければならない。彼女たちには厳しい状況となるだろうが、自分たちの蒔いた種だ。しっかりと育ててもらおう」


 ため息交じりのロスヴィータの声を聞いたエルフリートは苦笑する。元気なのはエルフリートたち初期のメンバーや体力自慢で騎士になった数人。そして、魔法が得意だと言って入ってきただけあって自分に補助魔法をかけて肉体疲労を最小限に抑えている何人か。

 補助魔法を長時間行使しているのは心配だが、疲労を忘れさせるような精神魔法だけは禁止しているから、彼女たちの表情が曇ってこない限りは安心して良いだろう。

 ロスヴィータとエルフリートは移動する方向を確認している少女たちを見つめながら会話を続けた。


「しかし、一度話をした甲斐があったな。揉めずに冷静に動けるようになった」

「確かに、あの時間は必要なものだったね」

「ああ」


 でも、何となくぎこちない……かな。委縮して、という感じじゃないよね。むしろ、焦っていて空回りしている感じ……?

 エルフリートは首を傾げる。


「ところで、ロス」

「ああ……フリーデも気が付いていたか」


 エルフリートはロスヴィータの顔が歪むのを見た。彼女はちらりとエルフリートを見てから指差し確認をする少女たちに視線を戻す。ロスヴィータの表情には心配の色が隠れていた。


「彼女たち、道を見失ったぞ」

「……そんな気はしてた」


 エルフリートは予定と違う場所にいる事は分かっていたが、特に問題はなかったから気にしていなかった。そもそも、この山に関する知識はそれなりにある。カッタヒルダ山の地形は大体頭に入っているし、今どこにいるのかも分かっている。

 本来予定していたルートとはずれているが、エルフリートたちは許容範囲内の場所にいた。目的地の方向さえ正しく選ぶ事ができれば、迷子になったとは言わずに済む距離だった。


「……あれは、おそらく間違えるぞ」

「やっぱりそう思う?」


 数人の指先が指し示しているのはエルフリートが思っているのとは違う方向だった。それも、正反対とも言える方向を示している。


「入るか?」


 ロスヴィータの問いに、エルフリートはそっと首を横に振った。割り込んで正しい道を示すのは簡単だ。でも、それが良いとは限らない。むしろ、失敗できる時に失敗させるべきだ。

 失敗できない時に失敗するよりはよほど良いし、失敗すれば後悔する。そしてそれをバネにして成長する事ができる。


「口出しは無用だよ、ロス。彼女たちの成長を見守るのが私たち。駄目になった時に尻を拭うのも私たち。失敗しないように誘導してばかりいたら、彼女たちは成長できないよ」

「――ああ、そうだな」

「ロスは優しくて面倒見が良いもんね」


 ロスヴィータの耳元に顔を寄せて笑いかければ、彼女は小さく小突いてきた。気さくなそれに、エルフリートは嬉しくなる。


「時間が押しているけど、そっちは良いのかい?」

「バティ」


 のんびりとした会話にしびれを切らしたのか、バルティルデが会話に割り込んできた。さり気なく二人の会話を聞いていたらしい。


「予定していたものを一部変更したりすればいけるんじゃないかな。まあ、これからどれくらい迷走するのかによるけど」

「少し早いけど、リーダー役を務める班を変えても良いんじゃない?」

「ああ、それは良いね。軌道修正してくれるかもしれないよ」


 エルフリートの答えに、バルティルデと一緒にいたマロリーが新しい提案をしてくる。彼女の提案を聞いたバルティルデが笑う。確かにそれは安心だけど、意味がなくなってしまう。

 エルフリートは「残念だけど却下!」と言ってバツ印を作った。


「甘やかしちゃ駄目。自分の力で切り開いていく練習をさせないと」

「了解」

「……分かったわ」

「フリーデがいる時だからこそ、できる事だしな」


 ロスヴィータが最後にからかうようにつけ足した。


「うんうん。あ、でも私がいなくてもできるように、誰かが山岳のプロになってくれると嬉しいな」


 エルフリートがいないから訓練ができませんでした。では駄目なのだ。先輩騎士である男性騎士の面々を頼る事で、ある程度の問題は解消できる。だが、そんな事ばかりでは、女性騎士団として機能不全を起こしていると外に叫んでいるのと同じだ。

 エルフリートは冗談交じりの会話だと理解した上で釘を刺した。


「任せてくれ。私が結婚する相手が山岳のプロだ。きっと私も彼の指導でプロになれる」

「……あんまり頼らない方が良いと思う」


 想定外の返事がきた。ロスヴィータの自慢げな表情が眩しすぎる。エルフリートは目を丸くして驚いてから目を逸らすのだった。

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