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妖精と王子様のファーストダンス(へんてこワルツ7)  作者: 魚野れん
エルフリート最後の山岳訓練

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 揉めている内容が内容なだけに、あまり強く出るのも……と考えていたエルフリートは彼女の声の低さに瞬きした。


「お前たち、今は何をしている時間だ?」


 ロスヴィータが珍しく「お前」と言っている。普段とは違う、と分かりやすく示している。これは雷が落ちるなぁ……。

 何が起きようとしているのか察したエルフリートとは違い、新人の彼女たちはロスヴィータの変化に気が付いていないようだ。


「課題を解く時間です!」

「山岳訓練中です!」

「お互いの主張をすり合わせしています!」


 威勢よく答えていく彼女たちに、私とロスヴィータのため息が被った。バルティルデが「あーあ」と小さく呟き、それをマロリーが小突いている。

 正しいけどベストではない、ベストな回答をした割には理解していない。くらいまでは、まだ良い。質問の内容すら理解できず、今何をしているのかを申告している者がいたのはさすがに不安を覚えた。


「……山岳訓練中だ」


 山岳訓練中だと回答した数人が「やった!」と喜んでいたが、ロスヴィータの次の言葉で動きが固まった。


「そして、そのスケジュールは決まっている。事前に共有した行程表には、参考になるようにおおよその時間配分も記載していたと思うが?」


 誰もが「あ」という口の形をしている。揉め事に夢中になってすっかり忘れてしまっていたようだ。ロスヴィータは全員をゆっくりと見回してから、口を開いた。


「議論するのは良い。より深く考えようと真面目に、そして熱心に取り組むのは良い。だが、何をすべきなのかを見失ってまでするのは良くない」


 沈黙が周囲を支配する。鳥の鳴き声や木々のざわめきが穏やかな山にいる事を教えてくれているが、おそらくほとんどの彼女たちにはそれを感じ取る余裕はなさそうだ。


「最優先すべきは、任務の達成だ。分かるか? 今回は山岳訓練をクリアする事が任務の目標だと言える。では、今お前たちがしているのは何だ?

 ただ、任務を放っておいて目先のミッションに気を取られているだけだ」


 少女たちの血色が悪くなっていく。先ほどまでの興奮は、もはや過去のものになりつつあった。ロスヴィータの説教は、大切なものだ。人命に関わらない任務だから良いものの、これが一分一秒を争うほどのものであればどうなるのか。

 気を取られた結果、大きな損失や損害を受ける可能性がある。最悪、任務を果たせなかったり人命を失う事になりかねない。

 任務の最中に現れるであろう様々な事案は、任務を遂行する為に必要最低限の動きで解決すべきなのだ。


「お前たちの仕事は任務を忘れて口論をする事か? 常に冷静に物事を判断し、効率よく動く事か?

 少なくとも、私の目には小娘が雑談に興じているように見えるが……」


 ロスヴィータが言っている内容は厳しいが、厳しくなるのは仕方がない事だった。いつか、人の命を預かる事になる。このままでは、本当に必要な時に必要な事ができない騎士になってしまう。

 騎士になりたいという気持ちだけではいけない。彼女たちは騎士になったのだ。未熟だとしても、既に彼女たちは騎士なのだ。

 なりたてで、ちょっと自覚が足りないだけならまだ良いんだけど……二年目、三年目の子たちも混ざっちゃってるからなぁ。


 さすがにそれはいただけない。この中に入っていない騎士も多いが、仲裁に入らずに静観していたのだから同罪だ。

 だからこそ、ロスヴィータは全員を見回したのだ。


「――それで、今優先すべきは何なのか分かったか?」


 ロスヴィータは怒鳴る事はせず、淡々と問いかけた。誰もが無言で頷き返す。


「では、理解したなら答えてもらおう。今回の課題の回答は何だ?」


 ロスヴィータの声色が急に元に戻った。エルフリートからは彼女の顔が丁度見えない角度になってしまっていたが、想像はつく。普段と同じ表情をしているはずだ。

 ロスヴィータに一番近い数人が目を丸くしているからすぐに分かる。気持ちの切り替えがうまくいかないのだろう。


「どうした? 先ほどの優先順位を考えて行動する、というのはできそうにないか?」


 首を傾げてみせるロスヴィータに、察しの良い何人かが動いた。はやり、というかロスヴィータたちの次に入団したエイミーたちの班である。

 そういえば、彼女たちはしっかりしてるはずなのに、どうして仲裁に入らなかったんだろう? エルフリートは内心で不思議に思う。普段だったら、エルフリートたち初期メンバーが動く前に動いてくれるはずなのだが、どうやら今回はそうではなかったようだ。


「私たちの班は、遭難の危険を犯してでもやらねばならない事案が発生したのだと考えました」

「そうか。あとで詳細を聞こう。では、次」

「わ、私たちは――!」


 エイミーたちの発言を皮切りに、次々と答えが飛んでくる。ロスヴィータはそれに対して都度反応していった。もう、大丈夫そうだ。エルフリートはそう思った。少し経ってからその考えは甘かったのだと判明する事になるとは、考えてもいなかった。

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