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この問題では、通常とは異なる行動を取らざるを得ない状況であるという事を説明できれば良い。例えば、何者かに襲われているとか戦闘になったとか、そういったシチュエーションを回答する事ができれば及第点である。
因みに、水を確保する為という理由は落第だ。水を確保する方法は水場を探す事だけが全てではない。所持しているものと自然界さえああれば、どうとでもなる。
「ところで、何で揉め始めちゃったのかな?」
「さぁね。聞いてみたらどうだい? 間に割り込まないと、本当に始まりそうだよ」
「……仕方ない」
エルフリートが首を傾げる横でバルティルデまでため息を吐いた。何でも楽しんでしまう彼女がこうなるとは、やはり彼女たちの揉め事は普通ではないのだろう。
そうこうしている内にロスヴィータが立ち上がった。
「何か問題でも起きたのか?」
「あっ、団長!」
「聞いてくださいよ!!!」
「……ああ、何だ?」
ロスヴィータが彼女たちに囲まれたのは、一瞬の出来事だった。その身のこなしの早さはさすが女性騎士といったところだろうか。エルフリートは揉めている割に統率の取れた動きに思わず苦笑してしまった。
「仲が良いのか悪いのか、あれじゃ全然分からないね」
「仲が良いから思いきり揉めてるんじゃないか?」
「なるほど!」
納得してからはたと思う。エルフリートとロスヴィータはほとんど喧嘩しない。それは、彼女たちほど仲が良くないからなのだろうか。いや、そんな事はないはずだ。結婚しようと約束し、実際に結婚式が近付いているくらいなのだから、彼女たちよりも仲が良くないわけがない。
仲が良いから喧嘩するなら、ロスと喧嘩をするべきなのだろうか。エルフリートはそんな事を思う。
「喧嘩はほとんどしないけど、私とロスは仲良しだよ? 喧嘩、した方が良い?」
「……仲良しだからって、わざわざ喧嘩しなくて良いのよ」
「え?」
バルティルデがくつくつと笑う傍でマリンが額に手を当てた。どうやら、仲良しと喧嘩をするという話は単純なものではなさそうだ。そもそもエルフリートは他者と喧嘩をする事がない。だから喧嘩というものの始め方がよく分かっていなかった。
意見が食い違うなら、語り合えば良い。討論すれば、互いの意見をすり合わせる事だってできる。それがどうしてただの殴り合いになってしまうのか。揉める事になるのか。エルフリートにはその辺りがいまいちよく分からないのだった。
「仲が良いから、喧嘩してもすぐに仲直りできるの。お互いを信頼しているからね」
「なるほど……?」
「フリーデはあれだろ。友達に向かって『もう知らない!』とか言った事がないんだろう?」
「あ、うん。ない。そもそも友達も少ないし」
そうだった。自分には、友人が少ないのだった。仲間はたくさんいるが、友人と呼べる人は数えるくらいしかいない。それは、エルフリートがこんな生活をしているせいであり、次期辺境伯という立場が他者との交流を制限しているせいでもあった。
誰と交流するのもエルフリートの自由だが、そもそもカルケレニクス領は陸の孤島である。親同士の交流のおかげでレオンハルトという親友と交流できていたが、それくらいだった。
「……まあ、友人の数が多いかどうかはさておき。仲の良い友達と喧嘩をするのは子供の証だと思うわ」
「もう私たちは大人だから、喧嘩はしないしねぇ? 喧嘩をしてる大人はろくな大人じゃない。よく酒場で検挙してるだろう? ああなりたいのなら別だけどさ」
「バティの言う通りよ」
「そっかぁ」
エルフリートたちが仲良しだから喧嘩をするが、大人はそもそも喧嘩をしないものだという結論を出していると、ロスヴィータの「落ち着きなさい」という声が聞こえてきた。
どうやら白熱しすぎているようだ。結局何が原因で揉めているのか。エルフリートは体を傾けてそちらに意識を向ける。
「沢に向かう目的が、誰かと戦闘状態あるいはそれに近しい状態にあるからだというところまでは良いんです。そこから先が問題なんですよ!」
「問題だと言われてもな……」
「沢までおびき寄せたところで、策がなければ自滅するだけじゃないですか?」
「一理ある。だが、今回の設問ではそこまでは聞いていない」
新人騎士たちは、ちゃんと及第点の回答を導き出していたらしい。が、その先が問題だと言って揉めているのだという。その先とは何だろうか。設問に回答したらそれで終わりで良いはずなのに、どうしてその先を考えて揉めているのだろうか。
エルフリートには理解できない思考だ。案の定、マロリーも理解できないようで「あの子たち、正気?」と呟いている。えっと、多分正気だと思う。
「そうなんですよ! 設問は設問であって、それ以上でもそれ以下でもないのに!」
「だからじゃない! あんた、馬鹿なの!? 沢に向かう状況はそれで良いけど、じゃあ沢に向かった先で何をするつもりなのかまで供述するのが正しい回答でしょうが」
「なるほど、そう捉えたか」
揉めている理由がようやく分かったところで、ロスヴィータの普段よりも低い声が吐き出された。




