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テッサが主の頼みを理解して行動できたかどうかはすぐに分かった。戻ってきた彼女を追うように騎士が向かってきている。
よく見てみれば、見覚えのある顔がいくつもある。エルフリートは目を輝かせて彼らに大きく腕を振った。
予定外の荷物の受け渡しを終えてカッタヒルダ山に入山した女性騎士団は、エルフリートの山歩き解説を聞きながら移動していた。山歩きの基本から使える植物、危険の察知について、幅広い解説は彼女たちの心をしっかり掴んでいるようだ。
エルフリートによる解説が最後になると周知されているのもあってか例年よりも熱心さを感じさせる態度で、質問も多い。
「皆、元気そうで良かった」
「うん」
課題を与えられた少女たちがああでもない、こうでもないと話し合っているのを聞いていると、ふいにロスヴィータが話しかけてきた。
エルフリートは一瞬だけ彼女に視線を向けて返事をした。
「今は大丈夫そうだけど、もう少ししたら一気に疲れが出ると思うよ」
「あぁ……これだけ長い休憩時間を挟めばな」
課題をクリアしないと先に進めない。この課題は彼女たちの足を止めさせる為の罠である。課題クリアに時間がかかれば、彼女たちは自分の首を絞める事になる。
行軍の予定は決まっている。だから、時間がかかればかかるほど、どんどん不利になるのだ。それは時間だけではなく、体力的な方も同じだった。
「普段よりも歩きにくい環境での移動で疲労しているはずなのに元気そうに見える。だが……」
「うん。大丈夫そうだけど彼女たちは気付いていないだけだから、後からじわじわくるはずだよ」
ロスヴィータの懸念の声にエルフリートは付け足した。山歩きにはコツがある。事前の説明はしているものの、知識があるだけだ。
彼女たちは説明された通りにうまく歩いているつもりだろうが、エルフリートからすればまだまだ未熟な動きをしている。
実際は普段と違う環境での訓練に興奮し、小さな異変を見逃しているだけだ。職業柄、体を動かすのは得意だからと油断していると痛い目を見る事になる。
「よろけてる子とか、飛ぶように歩いてる子とかもいたからね。怪我しないかひやひやしちゃった」
エルフリートは転倒する可能性を感じていつでも助けに入れるようにと気を張っていた。何度かあわや、と思う瞬間もあった。ただ移動するだけなのにどうしてこんなに気疲れしちゃうのかなあ、と思ったのも記憶に新しい。
きっと、ロスヴィータはそんなエルフリートの姿を見ていたのだろう。
「事実、私は初回の訓練で滑落したからな……あれはきっと、自分が思っている以上に疲労していて、集中力を欠いていたのだろう」
「沢の近くを歩くようにした私の判断も悪かったから……」
谷のようになっている地形は、事故が起きやすい。本来ならば雨が降ったあとだという事を加味して、ルートの変更をするべきだった。それでも、エルフリートは大丈夫だと思ってしまった。自分だけではないという事を、もっと考えるべきだったのだ。
「我々は幼く、未熟だった。それを正す大人もいなかった。あれは当然の結果だった。とはいえ、フリーデの対応は適切で素晴らしかったと思うが」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな」
エルフリートは当時、ロスヴィータに自分の性別について明かしていなかった。だから、あの時は異性だとバレないように気を付けなければならず、それ以上にロスヴィータを無事に下山させる事を考えなければならないという非常に苦しい状況だった。
「いずれにしろ、あのような事が起きないようにしなければな。もう、私たちはあの頃のような子供ではないのだから」
「そうだね。まあ、当時の私たちみたいな無鉄砲な子供が目の前にたくさんいるんだけど……」
「はは、これは大変だ」
ロスヴィータと笑い合っていると、肩にずしりとした重さが加わった。その重さに前のめりになっていると、笑い声が聞こえてくる。
「二人とも、こんなところで休憩かい?」
「バティ!」
「ちゃんと彼女たちを見ていないと駄目じゃない?」
「マリンも」
肩の重みの正体は同期の二人だった。ロスヴィータにはマロリーが、エルフリートにはバルティルデが、それぞれのしかかっている。バルティルデが新人の方を指さして「見てみなよ」と含み笑いをした。
エルフリートが目を向ければ、白熱しすぎて興奮を抑えきれない少女たちがいた。もう少し放置していたら取っ組み合いが始まりそうだ。
「こんな風になるような課題だったっけ?」
エルフリートが首を傾げれば、ロスヴィータも同じように首を傾ける。
「いや、どうだろうな……」
「そもそも、そんなに難しい課題でもないはずなんだけど」
エルフリートたちが用意した課題は『どうしてその行動をするのかを当てよう』というものだった。今回は「沢に向かう必要があり、沢を探している騎士」の話だ。この問題への回答は実は簡単だ。沢に向かうのは、敵との遭遇に対処する為なのだ。普段はあえて沢を探したりはしない。
訓練の時に沢を探し、その近くを移動する行程を組み込んでいるのは、危険な土地に慣れる為だった。非常事態の時、地の利を生かす必要がある。その訓練の一つというわけである。




